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第一話。とある猫カフェにて。

 ドキドキしながらドアに手をかける。

 聞こえてきた「いらっしゃいませ」の声に、「すみません、初めてなんですけど」と声を返す。すると笑顔を浮かべた、ポニーテールの女性が目の前にあったもう一つのドアから出てきた。


「はじめてでいらっしゃいますね。ようこそ、『よりみちねこのカフェ』へ。

 靴はそちらのロッカーにお願いします。その後、猫が出ないように気をつけてこちらのドアから入って下さい」


 靴を脱ぎ、ロッカーに入れる。中にスリッパが入っていたので、それを履いてから女性の後に続いてドアを通った。


「うわぁ……」


 猫カフェだから当たり前。それは分かっていても、目の前にいる猫・ネコ・ねこ――その光景におもわず声を上げてしまう。

 目を奪われていると、「お客様」と控えめに声をかけられた。見れば女性がカウンターからこちらを見ている。慌ててそちらに近づいた。


「お荷物はこちらのロッカーにお願いします。

 ワンドリンク制でペットボトルの購入をお願いしております。こちらからお選びください。

 あとお時間は30分からとなりますが、どうされますか?」

「あ……えーっと。じゃあペットボトルはホットのコレで。30分でお願いします」

「承知いたしました。

 お好きな場所で、おくつろぎください」


 にっこりと人好きのする笑顔を浮かべて、女性が会釈をする。つられてこちらも頭を下げ、さてどこに座ろうか、と見渡した。

 足元以外が磨りガラスのようなシートで覆われた大きな窓は、それでも温かそうな日差しを受け入れ、そこでひなたぼっこを楽しむ猫たちを優しく照らしている。その側に置かれたクッションもぽかぽかと温かそうだ。そこに、座る……悪くない。

 壁際に置かれたソファの上でくつろぐ猫の姿もある。柔らかくその身体を受け止め、軽く沈むそのソファで、猫の隣に座る……それもいい。ただ少し離れた場所にあるテーブルと椅子で、黙々とパソコンに向かう男性は一体なんなのだろう? ……まぁ過ごし方は人それぞれだけど。

 床に置かれたビーズクッションもいいな……、と迷っていたら、足元でニャアと鳴き声が聞こえた。

 足元を見れば、毛の長い、目も身体も大きなグレーの猫がこちらを見上げている。


「こんにちは」


 たしか猫に初めて触れる時は、匂いを嗅がせるのだっけ? ――この店をおすすめしてくれた、猫好きの友人の言葉を思い出し、慌てて屈んで指を出す。

 クンクン、と匂いを嗅ぎ、猫はくるりと背を向けた。

 ――残念、触らせてもらえなかったか。

 少しがっかりすると、少し離れたその猫がこちらを振り返った。なんとなく呼ばれた気がして近寄ると、猫が前を向いて歩き出す。猫に導かれるまま、ソファに座った。


「こちらをどうぞ」


 女性からペットボトルを渡され、プシュッと封を切った。

 机に置かれたペン立てに猫じゃらしが置かれているのを見て手を伸ばすと、とてとてと小柄な猫がやってくる。

 見よう見まねで動かすと、下手な動きにもかかわらずに猫が追いかけてくれた。……うれしくなって動かしていると、近くに猫が入れ替わり立ち替わりやってくる。少しモテた。

 猫を撫で、思い出したように猫じゃらしを振り、購入したおやつを必死に舐める姿に癒やされ……


「お客様。30分経ちましたが、どうされますか? 延長なさいますか?」


 デレデレと過ごしていたら、女性にそう声をかけられた。

 驚いて時計を見ると、たしかにもうそんな時間になっている。

 延長……。一瞬心が動いたが、この後の用事を考え、諦めた。荷物をロッカーから出し、最初に案内を受けたカウンターへと向かう。


「ありがとうございます。

 当店のスタンプカードがありますが、お作りになりますか?」


 とりあえず作っておくか。いらなければ捨てればいいし――そう思って、お願いした。


「ありがとうございました」


 そう会釈する女性の横に、気付くと大きな猫がいた。最初に近付いてきた猫だ。こちらをジッと見ると、「ニャ」と鳴いた。

 なんとなく会釈を返し、扉を出た。扉の窓に目をやると、猫はまだこちらを見ている。なんとなく、目が離せずに見ていると、猫が窓枠から消えた。


「……なんか不思議な猫だったな……」


 そう呟いて店を出た。店の前を通ると、足元部分でひなたぼっこをする猫たちが見える。きっとその背中は日差しを受けて一層温かいのだろう。

 ……また、来ようかな。

 そう思って、もらったポイントカードをパスケースにしまった。

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