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当日、母親と共に招待状に載っていた場所まで向かった。この年にもなり同伴が母親と言うのは気恥ずかしいものだが徒歩では到底たどり着かない距離らしいから車を持つ母と共に行くことになった。迎えを寄越そうかと凛に言われたときは背筋が冷えた。なにせ今日の主役は私ではない。それなのに送迎までしてもらい一人会場入りするというのは良い御身分だと冷笑されてしまうだろう。それに否定しつつも母と居ることには一定の安心感を覚えるものだった。
車道を走ること30分くらいの山の中に洒落た教会のような物があった。
凛はキリスト教徒だったかと思案してみるが過去にそんな節は見当たらない。それならば相手がキリスト教徒なのだろうか。そんな事を考えながら教会に足を踏み入れた。することも無いので席に座り定刻を待った。その間ふと周りを見渡して感じた。外観は欧州の教会のそれだったが、内観を見ていると違和感を覚える。建築様式で言うならバロックとは異なり、ルネサンス様式とゴシック様式の特徴を併せ持った様な感じがした。二つの様式は時代が似ているとはいえあまりにも特徴がかけ離れているから少し欧州建築の知識がある人から見たらきれいより違和感が勝ってしまうのだろう。きっと明治の頃の西洋文化の根底を理解せず表面上だけ取り入れた結果なのだろうなとくだらない妄想をして時間を潰した。
式が始まると先に色白で、すらっとした立ち姿の男が入ってきた。緊張しているからかそういう顔立ちだからかは知らないが堀が深いわけでもないけれど凛々しく端正である事は間違いなかった。
次に大きな扉が開いて凛と父親が腕を組み入ってきた。ゆったりとした足取りでその道の中央まで歩き、そこから凛が新郎の腕を取って歩いていった。私は自分でも驚くほどにその一連の流れを恬淡と静観していた。何も感じないわけではないが、その何かが羨望や嫉妬の類で無いことだけは明らかだった。かの二人が誓いの口づけをしている最中でも私の心には焦燥の様なものは無く、寧ろ安閑とした平穏が漂い始めていた。
披露宴になって少し緊張の糸が解けてからゆったりと昼食を取り、かの夫婦にも挨拶に行った。結婚式に知った事は言えないが参列していた人は多かった気がする。式の途中こそ静寂が場を包み込んでいたとはいえ、今では二人の周りに人集りが出来て安安と凛と二人で会話のできる様な空気感ではなかった。そんな様子を遠目から見てふと遼は自分の予約している船の時間が近づいている事を思い出し、ご祝儀を渡して足早に去ろうとした。そんな様子を見て凛が声を掛けてきた。
「もう帰ってしまうの?」
「ああ、船の時刻が迫っているから。一足先に帰らせてもらうよ」
「そう、久しぶりに会えたけどあまり時間が取れなかったのは残念ね」
「なに、また来ればいいさ。次はお盆くらいだろうからな」
それを聞いて凛は呆れたように笑った。
唯この期間中凛が心の底から笑っているのを私は初めて目の当たりにしたと思う。
「ふふ、そんな事を言っておいてまた3年程音信不通になるのじゃないかしら」
「そんなのはもう控えるよ」
「辞めるとは言わないのね」
そうやって二人はいつかの子供の頃の笑顔を見せて笑いあった。
カタンカタンと波に揺られる船の上。
泡沫に流れたそれらの想いを気にも止めること無く、虹がかった青空を眺めながら帰宅した。




