第4話 密談
ナタルマ達を引き離すことに成功したカナセは屋敷から遠く離れた隠れ家の空き家に身を隠した。
総統閣下逃走の為、こんな隠れ家がファイタスの勢力圏に何件か存在する。
こんな場所を知っているのは総統と一部の人間だけで66委員会ですらその存在を知らされていない。
隠れ家の中はカナセとトギスだけになっていた。
コリンは近所のたばこやに出向いてカナセが指定した場所に電話を掛けに行っている。
「どうするんだよ、カナセ! 隊長なんかを敵に回したら僕達、殺されるよ!!」
「まあ、見つかったらそうなるかもな」
「いやああああああああああああああああ!! 死ぬのいやああああああああああ!!」
隠れ家に身を隠せたにも関わらずトギスは相変わらずだった。
しかしカナセの方はトギスの不安を気にする様子も無い。
暫くしてコリンが戻って来た。
「おかえり、コリン。どうだった?」
「言われた場所に電話してきたよ。けど、あれで良かったの?」
「相手は?」
「変なオバサンが出て来た。でも言われた番号を教えるとすぐに切られた」
「それで良いんだ。そのおばさんはただの連絡員だから、それでも今頃、こっちの意図は相手側に伝わっているはずだ」
「後はどうするの?」
「まあ、待つしかないな。果報は寝て待てってね」
「吞気だね、総統閣下は」
「吞気って、何か心配事か? 悩んだって仕方ないぜ」
「そうじゃなくって。さっきあのナタルマって人、こっちを平気で攻撃したよね。総統が乗ってるのを知ってて」
「いいや、ナタルマならあれで普通だよ」
「普通って!……そうなの?」
「コリンが驚くのも無理ないけど、さっき言ったろ? ナタルマの頭ん中なんてあんなモノだって。だから心配する事もないさ」
そう言ってカナセは笑った。
そんな時、隠れ家の前に一台の車が停まる音が聞こえた。
「誰か来たのかな?」
コリンがつぶやく。
すると今度は無言で戸を叩く音が三回した。カナセが中から二回叩くと今度は五回、叩き返して来た。
カナセは鍵を開け、来訪者を中に導き入れた。
姿を現したのは紫髪のセミロングに眼鏡を掛けた美人だった。
「おや、髪を伸ばしたんだ」
「そんな事よりどうしたの? 緊急通信で呼び出すなんて」
「カナセ、この人、誰?」
コリンが用心深く探りを入れる。
「ラーマ・パトリック。情報部所属で俺とも個人的に知り合いさ」
カナセはコリンに来訪者の正体を明かした。
「情報部?」
「と、同時にロータス解放戦線のリーダー、ゴッペル先生の愛娘でもある」
「止めてよ、その言い方。虫唾が走る」
「何だ? 帰ってきて、まだ仲直りしてないのか?」
「当然よ。あのクソ親父の事なんか死んでも許さない」
「あらま」
「それで何があったの?」
「その感じじゃ、まだ情報部も今の状況は掴んでないみたいだな」
「こっちも別に総統閣下にべったりって訳じゃ無いから……。けどあなたがセーフティーハウスを使うなんてって、え? トギス君?!」
部屋の隅で縮こまるトギスを見てラーマは目を丸くした。
「どうして彼がここに居るの?」
「ラーマの親切が巡り巡って思いも依らぬやっかい事を引き起こしたんだ」
ラーマの問い掛けにカナセは今までの事を全て打ち明けた。
「成程、車庫の屋根の無いバンはそういう事ね……。私は手紙を出してみたらどう? って位の意味で住所を教えたつもりだったのに、まさか総統閣下の屋敷に直接、押し掛けるなんて……」
「手紙だって出したさ! けど幾ら出しても返事は返って来なくて……」
「手紙? そんな物は知らないぞ」
カナセが聞き返す。トギスからの手紙なんて見た事も聞いた事もない。
「もしかしたら練兵場側が調べた挙句、機密保持の名目で処分したのかも……」
「更にその住所からトギスが逃げる場所を特定した」
しかしよもやトギスが総統府に逃げ込んだとは彼等も思いもしなかったはずだ。
「それに関しては完全に私のミスね……」
予想外の結果にラーマも溜息を吐く。
「カナセ君、怒ってるわよね?」
「俺は別に怒っちゃ居ないよ。久しぶりにトギスに会えて嬉しかったし。だからラーマもトギスの事は許してやってくれ」
「了解よ」
「ただ、トギスに元気が無いのが頂けない。何とかしてやりたいんだ、力を貸してくれ」
「それよりもナタルマの暴走の方が目に余るわ」
「奴の事は今はどうだって良い。それよりもトギスの方を先に……」
「判ったわ。それでカナセ君はどうしたいの?」
「本人はヨシュアに帰りたがってる。だから返してやりたい。そもそもトギスは無理やりここに連れてこられたんだ。ロータスとは何の縁も所縁もない。本来、こいつがロータスで戦う理由なんて無いんだよ」
「確かにそうよね……」
「協力してくれるか?」
「判ったわ。他でもないあなたの頼みですもの」
そう言ってラーマは快く承諾した。
「なら、結局はラムサール号を使うしかないわね」
「本人もそう言ってた。俺も返すにはそれしかないと思ってる」
「でもあれは今、ヨシュアよね」
「そうだ。最低でも後、一週間はこっちには来ないはずだ。だからその間、トギスをナタルマの目から隠さなきゃならない」
「ならまずは隠れ家の手配ね」
「頼めるか?」
「任せといて。けど匿うのは良いとしてラムサール号だって着いたら即、次のフライトって訳にはいかないはずよ。それに練兵場側だって帰る手段がラムサール号だけだと勘付くでしょうし。そうなれば飛行艇の周りに張り付かれる可能性が出てくるわ」
「それにトギスを乗せるのは、中々骨が折れるな……」
「難しいわね……」
難題は山積だ。それをひとつひとつ積み重ねるごとにカナセとラーマの表情は固くなる。
そんな中、ラーマがある事を思いついた。
「そうだわ、いっそ総統名義で貸し切りにしちゃえば?」
「飛行艇をか?」
「そうよ。そうすれば機密事項って理由で飛行艇に近寄らせない事も出来るじゃない」
「確かに。なんだ簡単じゃないか」
「ふふ……カナセ君、偉くなってみるものね」
「まったくだ。どうだトギス、こんな所で?」
「うん……もう、ヨシュアに帰れるのなら何だっていい」
「よし、じゃあそういう事で……」
カナセはようやく胸を撫で下ろす。そしてラーマの顔を改めて見直す。
「これが大人の女性って奴かな……」
好き嫌いは別にしてラーマの仕事はクレアより安心感がある。
「いや、一時はどうなるかと思ったけど、一つアイデアが出れば後はサクサク決まるもんだな」
「そうね。ならトギス君、私に付いてきて。情報部が使ってる隠れ家に案内するわ。流石にナタルマもそこまでは追って来ないでしょうしね」
「お、お願いしますラーマさん」
そう答えるトギスの顔に笑顔が戻る。
「ちょっと、待ってよ!」
だが全てが決まりかけた時、突然、コリンが口を挟んだ。
「それって何かおかしいよ!」
「おかしい? どこが問題なんだ?」
カナセはコリンに問い質す。
幼い瞳が何かこちらが気付かない不具合でも発見したのか。
しかし、コリンの発言はもっと本質的なものだった。
「だって、トギスは何も悪くないんでしょ? どうして悪くない人がコソコソ逃げ回らなきゃならないの?」
「そりゃ、トギスが脱走兵だから……」
「でもカナセ、あのナタルマって人と玄関で言い合った時、言ってたじゃない。悪いのはトギスを虐めたナタルマだって!」
「コリン……」
カナセはコリンの指摘の前に困った顔をした。
コリンの言っている事は正しかった。確かにトギスは悪くない。悪いのは虐待に近い訓練を強いるナタルマとそれを容認している練兵所だ。
そしてその容認せざる状況を修正するのが総統たるカナセの仕事のはずだ。
そんなカナセにコリンは尚も言う。
「だってトギスはカナセを助けてくれた様な立派な人なんでしょ? まあ、今は弱虫泣き虫だけど……。でも、そんな人が逃げて帰るだけなんて可哀そうだよ。今まで頑張って来た人なんでしょ? なのにそんな最後はやっぱり変だ! 戦って立ち向かうべきだよ!」
「けどなコリン……」
カナセは言葉が見つからない。確かにトギスは頑張ったのだ。彼の頑張りでカナセも何度も助けられたはずだ。
「コリンちゃんはトギス君の名誉を回復させて上げたいって言っているのね」
そう答えたのはラーマだ。
「そう、そうして上げなきゃこの人、ずっと負け犬のままだよ!」
濁りの無いコリンの言葉は辛辣だ。
その負け犬という言葉がカナセの胸にも突き刺さる。
しかしラーマはそんなコリンの正論を諭すように窘めた。
「本来ならそうして上げるのが正解だわ。けどね、今は彼の名誉を回復させて上げられるだけの時間が無いの。彼が逃げたくなるぐらいの虐めを受けたというのならその証拠を探さなきゃいけないし、その為の捜査には正式な手続きと準備が必要よ。でも時間が経てばその分だけ練兵所側がトギス君の居場所を突き止められるチャンスを増やす事になるわ。そうしてグズグズしていてトギス君を奪い返されでもしたら、それこそ元の木阿弥よ」
「そんなぁ……」
だがコリンはラーマの説明に釈然としない。
「でも結局はトギス君の気持ち次第よね。トギス君、どうする? コリンちゃんからそんな意見が出たんだけど?」
「そんなの御免だよ! 今更、あの人に立ち向かえなんて!」
トギスは何度も首を左右に振って否定した。
「確かに負け犬なんて蔑まれるのは嫌だよ。けどね、僕だって馬鹿じゃない。何度もこの身で戦場で戦って来たから判るんだ。今までは無事だったけども、だからって今度も無事とは限らない。だから今、掴み取れるチャンスは取れるときに取っておく。次がある保障なんてものは無いんだよ」
「……だ、そうよ。コリンちゃん。私もトギス君の意見には賛成だわ。物事に納得がいかなくたって死んじゃったら何にもかもおしまいよ」
「判ったよ……。トギスがそれで良いって言うのなら、他人のアタイが出る幕じゃないって事でしょ」
渋々だがコリンは自分の意見を引っ込める他なかった。
一方でカナセが不意にラーマに訊ねる。
「ラーマ、ひとつ聞くけど、何で練兵場に情報部が居たんだ?」
「勿論、仕事よ。ある情報の裏を取る為に潜入したの」
「情報の裏取りって?」
「ここでそれをあなたに言わなきゃいけないの?」
「是非とも」
「まあ、あなたには全てを聞く権利があるわよね……」
「それで?」
「情報部は現在、とあるルートからの情報を元に極秘にファイタス内の内偵を行っているの。モンベル団長への、とある疑惑への調査よ」
「疑惑って?」
「団長が裏である組織と通じているって話だわ」
「ある組織?」
「じゃあ、カナセ君。この言葉、知ってる? 禍つ青き光の滅却を!」
「!!」
突然、ラーマから発せられたその一言にカナセの目の色が変わった。
知ってるどころの騒ぎではない。
カナセはその決め台詞を吐く連中に何度も命を狙われたのだ。
それと同時に頭の中の記憶の回路が次々と連結しひとつの答えを導き出す。
「おい、ちょっと待ってくれ! まさかモンベル団長が審判の会の会員だって言い出すんじゃないだろうな?」
「そのまさかよ……」
「何てこった……」
もはや言葉も無い。
「……それって、本当なのか?」
「今までの内偵の結果を纏めるとほぼ確定ね……」
「そんな事、思いも寄らなかった……」
「当然よ。まだ情報部内の一部だけの話で委員会にも報告を上げて無いんだから」
「なんで? 少しくらい教えてくれたって、良いじゃないか」
「さっきの練兵場のいじめの話じゃないけど、事はファイタスの内部を揺るがす重大な内容よ。それこそ確定した事実を掴めなければ上まで上げられないのは当然でしょ?」
「そりゃまあ、そうかもしれないけどさぁ!」
「それに私達にも泣き所があるの」
「泣き所?」
「情報部内でも団長の息の掛かった者は多いの。迂闊に動いたら団長を捕まえる前に逆にこちらの尻尾を掴まれる可能性もある。それ位、内偵って難しいの。この前の練兵場へ入ったのも表向きは広報課の活動で成り済ませたんだから」
「……」
「総統も相当ショックの様ね」
「止めてくれよ、こんな時にダジャレなんて……。確かにおかしいとは思ってたんだ。タータ大尉みたいな団長の参謀が俺を襲ってくるなんて……。もうモンベル兵団は審判の会に毒されているって事か」
「そうでもないわ。少なくとも兵団全体が汚染されているって訳でも無いみたい。例えばトギス君、今まで練兵場で審判の会の話って聞いた事ある?」
「全然。そんな訳の判らない連中が居たなんて聞いた事も無いよ」
「けど団長は確定なんだろ?」
「恐らくね」
「それでラーマ、その審判の会ってのはそもそも何なんだ?」
「ジオの地の環境保護を謳いながら魔煌文明の断絶を目指す秘密会員制のグループね」
「それはタータに聞かされたよ」
「それ位、彼等の目的が単純だって事よ。禍つ青き光の滅却を……汚らしい魔煌の光を世界から消し去りましょう。一応、発祥はこのロータスらしいわ」
「歴史は古いのか?」
「そんな事も無いわ。ここ二、三十年って所かしら。けど会員がファイタスにもウラ鉄にも両方、通じている」
「それで、ファイタス側の親玉がモンベル団長って事か……」
「そして機を見て、カナセ君にタータ大尉を仕向けた。あなたの就任演説の時もそうね」
「成程、奴等の作戦に兵団絡みが多いのは、そんな訳か……。なあ、ラーマ。その審判の会って組織は大きいのか?」
「いいえ、思ったほど大きくはないみたい。そもそもウチのクソ親父ですら知らなかったマイナーな連中よ。会員も百人ソコソコって所じゃないかしら。それに活動だって最近こそ活発に動き回っているけど、カナセ君が襲われるまで、それらしい記録なんて無いわ」
「なんだ……。秘密結社と言うより仲良しクラブだな」
「だって魔煌文明滅亡を目指す活動なんて普通にテロリズムよ。派手に暴れ回ればウラ警の警戒網にだって引っ掛るわ。やれる事と言えば、せいぜい内輪の飲み会に集まって愚痴を零し合うくらいの事だったんじゃないかしら」
「けど、そんな連中が最近、急に牙を剥きだした……」
「間違いなく、カナセ君の出現がきっかけよね。あなたが新生魔煌技の秘密を握っているから消し去るべきだと……」
「おいおい、待ってくれ。俺は何度も言ってる様に……」
「エリザベス・アムンヘルムから新生魔煌技の事は何も受け継いでいないって言いたい訳でしょう? けどあなたを信じない人間なら普通に嘘だって疑うでしょうね。そして疑わしきは根底から消し去るのが手っ取り早い」
「酷ぇなぁ~」
「真実は耳に痛しって所ね。でもタータ大尉がベラベラとカナセ君に話してくれたお陰でこちらも色々と捜査が色々はかどったって訳よ」
「成程、後は情報部と団長の知恵比べ……。あれ? ちょっと待てよ。トギス! お前、どうやって練兵場から脱走した?」
「脱走って、せめて自由への逃走とくらい……」
「そんなカッコ付けはいいから!」
「もう……。練兵場の外周を十週走らされたんだ。訓練のヘマの罰として……」
「外周って練兵場の敷地の外だよな」
「うん、そうだよ」
「それでどうした?」
「もうヘトヘトになってこんな生活嫌だって思ってたら、いつの間にか足が表の通りに向いてたんだ…」
「成程、それで脱走か……。その外周を走らされるのは初めてか?」
「そんな事も無いよ。ただ何時もは集団で走らされるのが普通で一人っきりで走る事なんて今回が初めて……」
「やっぱり!」
トギスの説明を聞き終えた途端、カナセとラーマが同時に声を上げた。
そして直後に、隠れ家の外から拡声器で声が聞こえた。
「おい、カナセ! トギス! 手前ぇ等、無駄な抵抗は止めてここから出て来やがれ! こっちは兵団の憲兵まで使って包囲してるんだ! 大人しく投降しろ!」
聞こえて来たのはナタルマの声だった。
「うそ、どうしてここが判ったの?」
外の騒々しさにコリンが声を上げる。
「いいや、逆に思った通りだよ、コリン! 俺達は罠に嵌められてたんだ」
カナセとラーマが外を覗いた。
外ではナタルマと十人ほどの男達が隠れ家の周囲を囲っていた。
男達は総統府を包囲していた連中と同じ戦闘服を身に着けている。
そして全員の右肩に白と黒の腕章が嵌めらていた。
「兵団の憲兵隊よ。」
「ナタルマの野郎、憲兵隊長にでもなったつもりか?」
カナセはナタルマの横に立つ生真面目そうな男を眺めた。
森の中で部下達に指示を出していた男だ。
恐らく彼が本物の憲兵隊の隊長だ。
「ラーマ、あの隊長は審判の会の会員か?」
「多分、違うわ。でも彼も兵団の人間である事には変わりないわよ」
「なるほど。なら裏の事情は知らない可能性もあるな」
外の状況を確認し終えるとカナセとラーマは窓から顔を引っ込めた。
「どうするの、カナセ?」
コリンが心配気に訊ねる。
「さて、どうしようか? まあ、今までここで立てて来たプランは皆、御和算だな」
「御和算って?」
「トギスをラムサール号で脱出させられなくなってって事」
「ちょちょちょちょちょっと、待ってよ、カナセ! だったら僕はこのまま練兵場に連れて行かれるって事?」
トギスが顔を真っ青に変えながらカナセに詰め寄る。
「いいえ、それどころか鬼の憲兵隊に執拗な取り調べを受けるはずよ。それも朝も夜も関係なしに……」
「いいいいいいいいいいいいいいいいやああああああああああああああああああああ!! そんなの絶対に嫌ぁあああああああああああああああああああああああああああ!! こ、殺されるぅ~! 今度こそ、僕は殺されるんだぁ!!」
ラーマの脅しとも取れる言葉にトギスが悲鳴を上げる。
「カナセの嘘つき、僕を助けてくれるって言ったじゃないか!」
「おい、トギス。ちょっと落ち着けって!」
「なのに、何だい! ちょっと不利になった位ですぐに折れて! 僕達、相棒同士じゃなかったのかよ!」
「判ってるよ……」
「なら、君が僕に受けた恩をここで返して! 今すぐ返して! 百万倍にして返して!」
「この人、本当に弱虫で泣き虫だね……」
トギスの錯乱っぷりにコリンも呆れ返る。
「だがこれで判った。俺達の動きはナタルマ、否、審判の会や兵団には完全に筒抜けだ」
「いいえ、それどころか恐らく、トギス君の脱走も最初から仕向けられたモノよ」
「そうなの?」
「トギス君が練兵場でしごかれたのも罰で外周を走らされたのも、全部、そこからトギス君を自分から脱走させる為に仕組まれた罠よ」
「そうさ、全部、俺の所に逃げ込ませる為の工作だ。あっちは手紙からトギスが俺の居場所を知っている事を把握していた。だからトギスを脱走させ俺に頼らせようと仕向けたんだ。そうなると、どうなる?」
「どうなるの?」
「総統たる俺に脱走兵トギス・エニールを匿った汚名……いや罪を被せる事が出来る。むしろ罠に嵌められたのはトギスじゃなくこの俺だ」
「暗殺から謀略に方向転換したのね。直接、殺すつもりでいたのに、カナセ君から思わぬ反撃を浴びたからやり方を変えたのよ。多分、このスキャンダルを機にカナセ君の総統の地位を揺るがして、手薄になってから仕留めるって算段ね」
「嫌な事、思いつきやがる……」
「本当、嫌ね。大人の世界って」
「とにかく、隠れていても仕方ないな」
「どうするゆもり?」
「折角、憲兵隊の皆さんが来てくれてんだ。上の連中の策謀とも知らずにな。なら総統閣下として一つ声でも掛けて上げなきゃ、ってね」




