第2話 窮鼠再び
ロータス共和国、ファイタスの勢力圏。
現在は総統府として使われている、元エリザベス・アムンヘルムの人造知生体研究所。
その小さな森に囲まれた屋敷の外ではカナセ・コウヤがコリン・ジゴバと共にとある機械の組み立ての最中だった。
「コリン、そっち持ってくれ。布をピンとはって」
「こう?」
「そうだ、そのままの状態で骨組みの上に固定していくぞ」
慣れない作業のせいで、二人の手つきはどこかおぼつかない。
「でもアタイら二人で組み上がるのかなぁ。メイヴィスに手伝ってもらっても良いんじゃない?」
「大丈夫、天才マギライダーが二人掛かりでやってるんだ。上手く行くって」
「天才ねぇ~」
だが二人の息が時間と共にピタリと合って来ると、作業は順調に進み、やがて機械は製作者達の前で一つの完成形へと為した。
「よっしゃぁ、出来上がり!」
二人は片手で叩き合いながら子供の様に歓声を上げた。
出来上がったのは鋼管に帆布張りの翼を持ったモーターグライダーと呼ばれる小型動力飛行機だった。
「やったね、カナセ。これも天才の力?」
「当然! 早速、動かそうぜ」
二人はむき出しの椅子に前後に座ると8番のコアモーターを起動させた。
歯車を介して接続されたプロペラが唸る様な回転音を上げるとグライダーは屋敷前の砂利道を進む。
「そぅら、行くぞぉ!」
「ヤッホー!」
操縦は後部座席に乗ったカナセが行う。動き出した機体の中で二人ははしゃぎ放しだ。
しかし二人の周囲には居るはずの薬の魔女の姿はない。
クレア・リエルは先日から休暇を取って今はヨシュアに里帰り中だった。
流石にギップフェル島攻略戦から何日も家に帰らずに居るのでは留守番をしている妹のミリアが不憫でならない。
そこで総統閣下に願い出て、総統府のスケジュールとラムサール号がロータス居る合間を見計らって休みを取ったのだ。
そんな彼女も、もう暫くすれば帰って来るはずだ。
だがその間、ひとつの重要な問題が湧き上がった。
彼女が居ない間の事務作業をカナセとコリンの二人で手分けして行う羽目になったのだが、クレアが居なくなったその日からカナセの総統としての作業量は一変した。
屋敷へは日々、メイヴィスとデニスによって束となった書類が持ち込まれた。
総統の机の上は認可のサインを求めて紙の束が山積みにされる。
総統の仕事の大半はその書類のチェックだった。
普段ならその幾らかを秘書官のクレアが分担してくれた。
だがクレアが居なくなった今、それらが全てカナセに降り掛かる。
総統としての日々の作業量は膨大な物と変わった。
結局、仕事は捗らずカナセは休みを潰してでも働く羽目になり、更に日々の終業も深夜にまで及んだ。
総統閣下の仕事が多忙を極める中、総統府の細々とした雑務は秘書官の弟子であるコリンが受け持ってくれた。
雑務とは屋敷内の清掃や食事の用意等の事だった。
コリンは横目で繁忙な総統を眺めながら溜息を吐く。
「大仕事の前にこんなんで大丈夫かなぁ……」
大仕事とはカナセが総統就任の際にゴッペル先生と約束した反抗作戦の事だ。
期限は一年以内。当初は無理難題に思われた約束だったが、それが昨今のファイタス側の攻勢に乗じて遂に実行の目途が立ったのだ。
それが決まったのがクレアが居なくなってからすぐ後の事で、カナセが多忙になったのもその大反抗作戦の下準備に寄るところが大きい。
「うえぇぇぇぇ……」
何とか今日の分の作業を終えたカナセが机の上でへばりながら前のめりになる。
「お疲れさん、じゃあまた明日。夕方には会議があるから忘れないでね」
深夜、書類を抱えたメイヴィスが屋敷を出ていくと入れ違いにコリンが入って来た。
「カナセ、晩御飯の用意が出来てるけど……大丈夫?」
「ああ、悪ぃ。待たせちまったな、コリン。遅くなったけど、今から食おうか……」
そう言いながらカナセは机から立ち上がった。
しかし疲れ切った足取りは重く、半開きの瞳は疲労でどんよりと曇っている。
「こんなに働き詰めじゃ、そのうちカナセが死んじゃうよ……」
コリンは疲労困憊のカナセを見て心配になる。
師匠からはカナセの事をくれぐれも頼むと言われていた。
そんなカナセに倒れでもされたらコリンは薬の魔女の弟子として面目丸つぶれだ。
そうでなくても疲労困憊したカナセの姿は見ていて辛い。
「何とかして、次の休日にはちゃんと休ませないと……」
それと大切なのは気分転換だ。
「カナセ、休みには何がしたい?」
コリンが試しに聞いてみた。
「クレアに会いたい。会って死ぬほど甘えたい……。あの大きなおっぱいとお尻を思う存分、むしゃぶりたい。グリグリと顔をうずめたいよ……」
子供の前にも関わらずカナセはあまりにも明け透けな返答をした。
「そんな、無いものねだりじゃなくて……」
「うう~ん……」
「じゃあさ、アタイの揉ませてあげようか?」
そうコリンが言うと自分の小さな胸元を持ち上げてみせる。
だがカナセは彼女の胸元をチラリと見た途端、大きく溜息を吐いた。
「ちょっと! アタイじゃ不満っていうの? 確かに師匠と比べれば発展途上だけど」
「コリン、悪いけど俺は大きなおっぱいが好きって訳じゃ無いんだ。クレアのおっぱいが好きで、それが偶々、大きかったってだけだよ」
「ふ~ん、カナセってその辺りは意外と真面目なんだよね~」
カナセの言い方が可笑しくてコリンが揶揄う。
「じゃあ、おっぱいの代わりに何が欲しい?」
「自由に空を飛びたい……。飛んでここから逃げ出したい……」
そんなカナセからの返答にコリンが頭を捻る。
「空か……」
ここから逃げ出したいという願望は今のカナセには無理難題だ。しかし飛ぶ事に関してはコリンにも僅かばかり当てがあった。
いつも買い出しに行く町にある。その町の遊具店の店先で型落ちのモーターグライダーを見かけた事があった。
「あれをカナセにプレゼントすれば……」
普段は気にも止めてなかったが、あれならばカナセの気分転換にうってつけだ。
思い立ったら吉日と、コリンは次の日その遊具店に向かうと売れ残っていたモーターグライダーの入った木箱を購入した。
それにカナセは遠い未来に航空会社の社長になるという夢がある。それを思えば本人が自身の手で飛ぶ事には大きな意義があるはずだ。
そんなコリンからの思わぬプレゼントにカナセは歓喜した。
「おおっ! ありがとう、コリン! 流石は我が弟子!」
「アタイ、別にカナセの弟子じゃないんだけど……。それよりも今度はちゃんと休み取ってよね。でないと何時まで経ってもこれには触れさせないよ」
「うおおおお、任せとけ!」
そうコリンに言われ、カナセは奮い立つ。
カナセは再び仕事に励むと、何とか次の休みを午後の時間だけもぎ取る事に成功した。
そして今日はその組み立てと初飛行のお披露目でもあった。
「離陸するぞ!」
初めてのテイク・オフ。バタバタと音を立てながら風を切るプロペラの前でカナセの指先に緊張が走る。
「飛べぇ!」
二人を乗せたモーターグライダーは砂利道を疾走し、一瞬、フワリと宙に浮いた。
「飛んだ!!」
その瞬間、カナセとコリンの胸が同時に高鳴る。
だが機体が浮き上がった直後、森の中から突然、人影が飛び出した。
「うわっ、危ない!」
カナセが人影の反対側に向かって慌てて操縦桿を左に切った。
しかし間に合わず翼の一部が人影と接触しそのまま弾き飛ばした。
「ぎゃぁ!」
人影から悲鳴が聞こえた。
一方、接触したモーターグライダーもバランスを崩し、大樹の幹に反対側の翼を擦った。
「わわわわわわ!」
激しい衝突がグライダーを襲い翼の一部を壊す。
そして30mほど進んだ所でやっと止まった。
「コリン、大丈夫か?」
まずカナセはコリンの様態を確かめる。
「う~ん……大丈夫」
そして無事なのが判ると今度は機体から降り、破損個所の具合を確かめた。
翼は先端で折れ曲がり布張りの一部が破けていた。
「ばっきゃろう! いきなり飛び出しやがって。死にてぇのか!」
愛機を潰された総統閣下が怒りを露わにする。
本来なら接触した者の様態を確かめて怪我の処置を施すべきだった。
しかしそれをほっぽり出してカナセは道でうずくまる人影に駆け寄った。
「おい、聞いてるのか! 返事ぐらい……」
「痛い~!! 痛い! 痛い! いた~い~よ~!」
だが近付いてみると人影は既に肩を抑えながら女々しい声で泣き叫んでいた。
「死ぬ~! 死ぬ~! 死ぬ~! 痛いよ~、お、お医者を今すぐ呼んでぇ~!」
人影は大げさに叫び続け泣き止もうとはしない。
だがカナセにはその声に聞き覚えがある。
「おい、もしかしてトギスか?」
「いやああああああああああああああああああああああああああああああああああぁ!! 痛い~! 痛いよぉ~! あれ? カナセ?」
「やっぱり、お前か? トギス・エニール!」
間違いなく、彼はヨシュアの魔煌士トギス・エニールだった。
「カ、カ、カナセ~!!」
トギスはカナセと目が合った途端、今度は無我夢中に抱き着いた。
「会いたかったよ~カナセ~」
「よ、寄るなよ、暑苦しい!」
「痛いよ~、クレアさんのやさしい魔煌技で早く直してもらってよ~」
カナセは抱き着いて来るトギスを引き離そうとした。しかし泣くじゃくるトギスはカナセから離れようとしない。
「誰、コイツ?」
二人を眺めながらコリンが訊ねる。
「トギス・エニール。俺のヨシュア水軍時代の相棒だよ」
「ええ~こんな小汚いのが総統の相棒?」
コリンがカナセの言葉に不審がる。
確かに再会したトギスは薄汚れていた。
身に着けていた運動服は泥だらけで、所々破けていた。
更にそこから血が滲んでいるのが見える。
「とにかく、屋敷に連れて行こう。話はそれからだ」
そう言ってカナセはトギスをその場から連れ戻すと屋敷へと入っていった。
屋敷に戻ると救急箱をコリンがすぐに用意してくれた。
トギスが居間のソファに腰掛けると、カナセが治療を始める。
「トギス、ぶつけた所を見せてみろ」
「うん……」
カナセの言葉にトギスはまず右腕の袖をめくった。
成程、上腕にモーターグライダーの骨組みのぶつかった様な痣がある。
カナセは痣を触って確かめる。
「痛い、痛い、痛い痛い~~! カナセ、もっと優しくしてよ~」
「骨は折れてないみたいだな……」
そう言うとカナセは湿布薬を痣に向かってパシンと景気よく張り付けた。
「いたい~! もっと優しく! もっと優しくしてぇ!」
「優しくって、充分、優しくしてやってるだろ?」
打ち身の湿布を張り終えた後、カナセはコリンにトギスの残りの治療を任せた。
「さあ、他に痛い所をみせて」
「うん……」
トギスは全体の傷を見せようとおもむろに上半身の服を脱ごうとする。
「ちょっと! なにレディの前で裸になろうとしてるのよ!」
突然、男の肌を見せられたコリンが顔を真っ赤にした。
そして思わずトギスの頬を平手打ちした。
「ぷぎゃ!」
いきなり叩かれたトギスがおかしな悲鳴を上げた。
だがその一方でカナセはトギスの上半身を眺めながらおかしな事に気付く。
そこには大小、さまざまな傷が見える。
しかも最近、出来た傷よりも、古い傷の方が多い。
「酷ぇな……。治りかけの傷の上からまた傷が出来てる」
これではトギスが日常的に暴力を振るわれている証拠だ。
やがて治療を終えたトギスは目の前に置かれたコーヒーを一気に飲み干した。
コーヒーはカナセが煎れたものだった。
「ふぅ……」
「落ち着いたか?」
「なんとか……」
トギスがつぶやく。しかし顔色は悪く、目の周りは濃い隈が出来ており明らかに疲れ切った表情を浮かべていた。
「それで? 何でお前がここに居るんだ? お前、確か、ポルカって村にあるファイタスの練兵場に居たんじゃなかったっけ?」
「そんなの決まってるじゃないか! 逃げて来たんだよ!」
「逃げて来たぁ?」
トギスの訴えに二人は首をかしげる。
「逃げてきたって何で?」
「殺されそうになったからに決まってるだろ! その辺は察してよ! 空気読んで!」
トギスの言葉にカナセとコリンは顔を見合わせる。確かに練兵場の訓練は厳しいだろうが殺されそうになったとは穏やかではない。
「一体何があったか詳しく聞かせろよ。確か、練兵場にはナタルマも居たよな?」
「ナタルマ……そうだよ! 全部、あの人のせいなんだ!」
泣いていたトギスは今度は立ち上がって目の前の小机を叩いた。
しかし思ったよりも強く叩いたせいで逆に拳が痛くなる。
「痛っっっっ」
「相変わらず、泣いたり怒ったりにぎやかな奴だな……」
「カナセ、ナタルマって?」
「ああ、前に言ってたクソッ垂れ魔女だよ……」
カナセはトギスを見ながら溜息を吐く。
「またアイツ絡みの案件か。つくづく迷惑な奴だな……。それで、ナタルマがどうしたって? アイツに何されたんだ?」
正直、ナタルマの事なんて聞きたくもないがここはトギスを納得させるため話を引き出してみる。
それにトギスの体の傷の多さも気になる。
「あの人なら今……教官をしているよ」
「教官? アイツも訓練生じゃなかったか?」
「一緒に練兵場に入ったその日から頭角を現して今は練兵場きっての格闘技の専門家だよ……」
「成程、話が読めて来たぞ。そのナタルマの格闘訓練がしんどくて逃げて来たと……」
「あんな物は訓練なんかじゃないよ! はっきり言って虐待だよ、虐待! 毎日毎日、殴って蹴られて殴って蹴られて……僕はそれで何度も死にそうになったんだから!」
「要は水軍でやってた事の蒸し返しか……」
これで話が繋がった。
トギスの古傷は全てナタルマに付けられた物だ。
「でも今度は地に足が着いたお陰で正直、前よりも酷くなってる……。実際に僕以外で怪我をさせられた奴だって大勢いるんだ」
「僕以外だって? そんなんで練兵場は良く黙ってられるな?」
「訓練で怪我なんて当たり前だって。上の方も取り合わないんだ。オマケに付いていけてる一握りの奴等が上達するせいで、それが結果として評価されるんだ」
「なーんだ。結局、アンタがだらしないんじゃないの?」
コリンが思わず嗤った。
「うるさいなぁ! 見もしてない人間に何が判るんだよ? ってこの子、誰?」
「クレアの内弟子のコリン・ジゴバ。ゼー・ジゴバの妹。こっちに来て、ジゴバ一家の名前くらいは聞いた事あるだろ?」
「ええ? うん……。そうなんだ、よろしくね」
「よろしく。泣き虫さん」
「ところで、クレアさんは?」
「彼女なら里帰りで今はヨシュアだよ」
「ああ、だから治療が荒っぽいんだ……」
「荒っぽいは余計だよ! こう見えてもアタイの治療は師匠直伝なんだから」
「ふ~ん、そうなんだ……。あれ? ちょっと待ってよ……。カナセ、クレアさんはどうやってヨシュアに帰ったの? 箒に乗って?」
「まさか、ラムサール号に乗って帰ったよ」
「じゃあ、今、ロータスの何処にもヨシュア行きの飛行艇は無いって事?」
「そうなるな。けど、それがどうした?」
「いやああああああああああああああああああああああああああああああああああ!! ここから出られないなんていやあああああああああああああ!!」
カナセの返答に再びトギスは騒ぎ出した。
「せっかく、練兵場を逃げてカナセの伝手でヨシュアに帰ろうとしたのに、肝心の飛行艇が無いなら意味ないじゃないか!」
「そんな事、俺に言われても……」
「いいや、カナセの責任だ! 何とかしてよ、最近、出世したんだろ?」
「ならラムサール号が戻って来るまでどこかに隠れてるか?」
「そんな悠長な事、言ってられないよ。もしかしたら教官がここまで追いかけて来ているかもしれないのに。今すぐ飛行艇を呼び戻してよ! 総統なんでしょ?」
「無茶言うなよ。そんな無いモンをいきなり呼び出せって向こうにだって都合が……」
「いやああああああああああああああああ!! このまま教官に捕まるぅ~! そんで脱走の罰でとしてまた折檻を受けるんだぁ! いやああああああああああああああああああ、痛いのいやああああああああああああああ!! いぎぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!」
「ああ、うるさいなぁ……」
泣き叫ぶトギスを見てコリンとカナセが辟易した表情を浮かべる。
「カナセ、こんなうるさい人、外にほっぽり出そうよ」
「駄目だ、トギスは俺の友達だ。友達は大事にしなきゃな」
そう言ってカナセはコリンの意見を退けた。
もっともカナセにとって泣き叫ぶトギスこそ何時ものトギスだった。
「まあ、これでトギスがここに来た理由が判ったってもんだ」
「そう言えばカナセ、この人、何でここの場所が判ったんだろう?」
不意にコリンが訊ねてくるとカナセも頭を捻った。
「確かに……ここの場所は基本的に秘密のはずだからな」
この屋敷は事実上の総統府だ。本来ならば大勢の警備兵が詰めた上に場所を隠匿するべき場所だった。
しかし実際は一介のファイタス戦士でしか過ぎないトギスにここの位置が明らかになっている。
「トギス、ここの場所をどうやって知った?」
「へ?」
「誰から聞いたんだ?」
「そんな事、今はどうだっていいだろ?」
「いや、大事な事だ。教えてくれ」
「ラーマさんだよ……」
「ラーマだって?」
カナセは久しぶりにその女スパイの名を聞いた。確か今、彼女はファイタスの情報部に戻っているはずだ。それに情報部勤務の彼女ならここの場所を知っていても合点がいく。
「でも何でラーマがトギスにここの事を教えたんだ?」
「何だか判らないけど、彼女、仕事で練兵場に来てたんだ。それでこっちが落ち込んでた所に再会したらこう言ったんだ。見た様子じゃ大分お困りの様ね。いっそカナセ君に相談に乗ってもらったらどうかしら? 今、彼は総統の地位だから何とかしてくれるかもよって。けど、僕はカナセの居る場所が判らないから無理って言ったらここの場所を教えられたんだ」
そう説明したトギスの前でカナセは頷いてみせる。
「成程、そう言う事か……」
しかしそれならばラーマの不注意だ。仕事柄、機密保持には一番、気を遣う部署のはずなのに昔馴染みというだけであっさりしゃべるのは彼女らしくない判断だ。
「まあ、どっちにしても今はトギスをどうするかだよな」
何にしてもこのままという訳にもいかない。
カナセはメソメソと泣き続けるトギスを眺めながら考え込む。




