第12話 デニス・ワイルダー
そんな時、無線から微かに声が聞こえた。
「カナセ……応答せよ……」
「デニスか?!」
デニス・ワイルダーの声にカナセは安堵する。
「無事か? 今、どこに?」
「そちらから見て10時の方向だ……。土砂の中に埋まって出られない……」
「掘り起こせってか?!」
「お前の魔煌探信なら正確な位置も判るはずだ」
「判った、やってみる!」
カナセは1037號を左斜めへと方向転換した。
すると1038號のコアの反応が見える。
「あそこだ! あそこにデニスが居る!」
カナセは戦車を全速力で走らせた。そして反応のあった地点に辿り着くと地面からメイルの40㎜機関砲の砲身が生え、左右に振っていた。
「あれか!」
カナセが埋まっている砲身の所にまで辿り着くと、1037號をヴァイハーンに変形させた。
そしてそのまま地面から出た砲身に掴み掛かり、走りながら引き抜いた。
その瞬間、土に塗れたガーネット・メイルの体が地面から引き摺り出される。
「デニス、大丈夫か?!」
「上出来だ、カナセ!」
ヴァイハーンとメイルが車両に戻り並走する。
だが、その後ろから555號がドリルを突き立てながら追いかけて来る。
「なに、的が二つになっただけ。こちらの優位は変わらんさ」
逃げる二騎の背中を眺めながらタータがほくそ笑んだ。
「デニス、幕を張って一旦、身を隠すぞ」
「了解」
カナセとデニスは戦車に搭載されている煙幕装置を起動させ煙幕と展開した。
煙の中には微粒な金属片が仕込まれており僅かな間だけ555號の探信装置を阻害した。
「ちっ、小癪な真似を!」
二両の姿を見失ったタータが舌打ちする。
「しかし煙が晴れた瞬間が勝負だ……」
やはりタータの優位が変わる事は無い。
その隙にカナセ達は555號を何とか引き離すと軍港内の倉庫群に身を隠した。
「これで少しは時間が稼げるな……本当にほんの少しだけど」
カナセは横に居るデニスに問い掛ける。
「どうする、デニス。もうこっちは手詰まりだ!」
「さっきのタータの声は俺にも聞こえた。残念ながら二手に分かれてって訳にもいかないみたいだ」
当然だ。タータの狙いはカナセ本人だ。別々に逃げた所で追い掛けられるのはカナセだけなのだ。
「しかし俺達にもまだチャンスは残っている。それをさっき奴が教えてくれた」
「何か手があるのか?」
「あの巨大戦艦にも弱点は幾つかある。通常なら艦橋だが、今はあの機関部だ。そこを攻撃出来れば俺達にも勝機があるって訳さ」
「成程、タータの奴もあそこに居る訳だからな。狙うのならお誂え向きって訳か。けど機関部の周りは分厚い装甲板で囲まれている。どうやってそれを狙うんだよ」
「それはだな……危ない!」
会話の途中にデニスが叫んだ。戦艦からの斉射がカナセ達が身を隠す倉庫群に雨の様に降り注いだのだ。
「逃げろ、カナセ!」
周囲で爆発の炎が上がる中、二人は急いで倉庫群から退散し再び軍港内を走る羽目になった。
そして今度は岸壁近くのコンテナ置き場の中に隠れるとデニスが答える。
「カナセ、頭の中にある555號の構造を思い出せ。機関部から発生した熱はどこに吐き出している?」
「そりゃ、天井にあった排熱口……。そうか! 艦橋後部にある排熱塔か!」
「そうだ。特に今は陸上で運用している為、冷却用の水が取り込めない。代わりに排熱塔の開放は最大にしているはずだ」
「だから空気の出入りを優先して機関部まで筒抜けにしているかもって事か」
「だったらそこに向かって俺の魔煌弾を撃ち込めば……」
「機関部とタータの野郎を同時に叩けるって訳か!」
それを聞いてカナセの中で希望が湧く。
「ならデニス、さっさと魔煌弾を撃ち込んで……」
「いや、待ってくれ。それがそうは簡単にはいかないんだ」
喜び勇むカナセをデニスが止めた。
「上手くはいかないって? ドンと撃ったらお得意の誘導弾頭でギュンって曲げてズドンで良いんじゃないか?」
「いいや、ここからの話は企業秘密なんだが……。実は俺の魔煌技のホーミング・ショットにもいろいろと制約があってな。まずは弾の元の威力が上がる度に魔煌で弾道を捻じ曲げる事が難しくなる。そして弾道を捻じ曲げられた弾の威力は確実に落ちる。こればっかりは物理の神様の意地悪でどうする事も出来ない」
「それは魔煌弾でも同じって事か?」
デニスは頷いた。
「恐らくここから魔煌弾で排熱口を通して機関部を狙おうとしたら迫撃砲並みの曲射弾道を描かなくちゃならない。そんな事すりゃ、魔煌弾の威力は大分、落ちる。しかも乗ってるタータは馬鹿じゃない。さっきの艦橋への攻撃の時はなかったが、今、艦の周りには充分な魔煌障壁を張っているはずだ。恐らく排熱口の上にもな」
「なら本当に打つ手なしってか……」
カナセが落胆する。しかしデニスはそれを否定した。
「いいや、手は一つだけある。だがそれにはカナセの協力が絶対必要だ」
「何だよ、もったいぶりやがって。さっさとそのたった一つをやっちまおうぜ」
「判った、その言葉忘れるなよ」
カナセとデニスの反撃が始まろうとした頃、タータもまた二人を探していた。
圧倒的な戦力差は覆される事は無い。タータの勝利は目前に迫っていた。
問題があるとすればここから逃げられる事だが生憎、軍港の敷地内はどこも眺めの良い開豁地だった。
外に逃げ様とした所を狙い撃ちしてやればいい。
一方、湾内ではタータにとって思わぬ出来事が起きていた。
沿岸に停泊していたウラ鉄水軍の小艦隊が湾岸警備隊を伴って到来したのだ。
異常事態に駆け付けた水軍艦隊は十隻のタイフォン級モニター艦だった。
小艦隊は軍港に陣取る555號に向かって早速、計20門の105㎜砲による砲撃を開始した。
着弾は十七発。1037號の砲撃など全く相手にならない程の衝撃が555號の船体を叩く。
しかし砲弾を受けても中のタータは涼しい顔だ。
「初弾でこの命中率なら合格点だが、今は資源の無駄遣いだな」
果たして、砲撃の煙が晴れたら中から555號が艦影を覗かせた。
主砲弾の直撃だったにも関わらず魔煌障壁と分厚い装甲板に守られた船体には傷一つ付けられていない。
「先ほどは艦橋を壊されたが、もう油断はしない。さあ、次はこちらの番だ! 禍つ青き光の滅却を!」
タータがお決まりの台詞を放ちながら、一瞬だけ魔煌障壁を解除すると今度は555號による意趣返しが始まった。
203㎜砲と127㎜砲による同時攻撃は一瞬で淡海の上を新たなる阿鼻叫喚の地獄絵図に変えた。そして二射目で小艦隊と沿岸警備隊を完全に壊滅させた。
「他愛ない。まるで話にならんな……」
機関室の中でタータが肩を竦める。巨大最新鋭戦艦の前ではモニター艦が何隻来ようとも全く敵でなかった。
タータは沈没していく艦影を眺めながらほくそ笑んだ。
「沈んだ後は漁礁にでもなって魚が増える手助けでもするがいい……。そしてここが済めば次はゴディバを沈めてやる!」
そんなタータの不遜な態度はまるで自分が裁きの神にでもなった様な振舞いだった。
だがタータがウラ鉄艦隊に勝利を収めた時には既にカナセとデニスは最後の行動を起こしていた。
小艦隊と555號の戦闘終了に紛れながら二台の戦闘車両が目標目掛けて突進した。
前方がカナセの1037號、後ろがデニスの1308號。どちらも車両形態で縦一列に並んで突き進む。
しかし555號の探信能力は既に二両をお見通しだ。
「来たな、不逞の魔女の弟子!」
ヨシュアの薬の魔女が聞けば卒倒する様な罵りをタータは吐いた。しかし自然崇拝主義者の彼にすれば当然の評価だ。
タータは小艦隊を撃滅している副砲とは反対側の副砲四基を動かして見せる。
一人のマギライダーが複数の砲を制御する事など至難の業のはずなのだが、彼の才能と執念がそれを可能にした。
「飛んで火に寄る夏の虫だ! 発射!」
四基の副砲、計八門がカナセ達目掛けて発砲された。
しかしそれを二両が並んだまま器用に回避していく。
「小癪な!」
今度は更に小さな40㎜機関砲塔まで動員して二両の足止めに掛かる。
しかし歴戦の戦士達の突進が止まる事は無い。
そして二両は遂に555號の船体の鼻先にまで近づいた。
「いくぞ、デニス!」
それを合図にカナセは1037號をヴァイハーンに変形させた。
「了解!」
その直後、デニスが1038號をメイルに変形させ、ヴァイハーンの肩に飛び乗った。
岸壁の先端でヴァイハーンが強く跳躍する。
「彗脚煌焔渦!」
カナセは跳びながら更に火と風の合わせ技の魔煌技を発動させた。
それはかつてカナセがジゴバ領のバイクレースで使った加速魔煌技の応用技だった。
ヴァイハーンの足裏から強力な熱風の噴射が起きると二騎のマギアギアの体が風に乗って更に高く浮かび上がらせる。
「いけええええええええええええええええええええ!!」
僅かな飛行が頂点に達した所でヴァイハーンは肩に乗ったメイルを全力で上に向かって投げた。
それに合わせて跳躍したデニスのメイルはそのまま555號に張られた魔煌障壁の上に飛び乗った。
メイルは障壁の上を駆け上る。
「させるか!」
タータが127㎜砲一門を仰角いっぱいに上げ障壁の上のメイルを狙う。
そして射撃の為に展開していた魔煌障壁を解除した。
「やれせて堪るか!」
だがその瞬間、まだ空中に浮いたままのカナセが75㎜砲でデニスを狙っていた副砲の砲身を見事、撃ち抜いた。副砲は爆発しデニスは事なきを得る。
「カナセ・コウヤ!」
副砲を破壊されたタータが叫んだ。
だがここでタータの中で迷いが生ずる。
目標は二つ。間近まで接近するデニスのメイルか、不倶戴天の敵であるカナセのヴァイハーンか、先に狙うのはどちらだ。
そしてタータの悲願がカナセに照準を合わせた。
「スモーク!」
目の前の副砲の全てがこちらを向いた時、カナセは残りの煙幕を張り、更にジェットの噴流で急激に巻き広げた。
金属粒子の混じった煙で555號の探信はヴァイハーンを見失う。
「ど、どこだ!」
タータが懸命にヴァイハーンを探す。
しかしタータが神経を注ぐべきはカナセの行方では無かった。
焦りの中でタータは魔煌障壁の再展開を忘れてしまっていた。
その隙を突いてメイルが排気塔の天辺へと降下していく。
「よし、いい仕事だ。総統閣下!」
デニスは思わず賞賛の声を上げた。
そして降下の中でカナセに作戦前、言った事を思い出す。
「カナセ、この作戦、成功の如何に関わらず。お前はやる事、やったら全力で脱出しろ」
そう言うとカナセは嫌な顔をした。
「それってどういう事だ? お前を投げ終えたらそのまま逃げろって事か?!」
「そうだ。この作戦、どっちに転ぼうがチャンスは一回きりだ。多分、俺は攻撃の直後、機関部の爆発に巻き込まれる。待ってたって無駄だって事さ」
「仲間を置いて逃げろってか?! そんな事出来る訳……」
「仲間じゃ無ぇ! お前は総統! 俺はただの兵士! 悪いがファイタスにとって命の価値がまるで違うんだ。今、お前に死なれたらせっかく勢いに乗り始めたファイタスがしぼんじまう。お前を殺す訳にはいかないんだ!」
「そんな……仲間じゃないって……」
デニスの言い方にカナセは一瞬、唖然としたが、すぐに怒りが込み上げる。
「馬鹿野郎! そんな屁理屈、俺が聞くと思うか?!」
しかしデニスもここぞとばかり言い返す。
「いいや、嫌でも聞いてもらう! お前は生きて戻れ! そしてファイタスの為、ロータスの為、この淡海でウラ鉄に苦しめられている人達の為に戦え! でないと戦士としての俺の面子が丸つぶれじゃないか……」
「だからって……」
「頼む、カナセ。ここは黙って俺の言う事を聞いてくれ……。そしてお前にとって本当の責務を果たすんだ……」
「いいや、やっぱり聞けない! 俺だってむざむざ仲間を失うのはたくさんなんだよ!」
「カナセ……」
頑として譲らないカナセにデニスは少し困惑した。
そして不意に別な事を語り始める。
「カナセ、俺の親父の事は話したっけかな?」
「ああ、リーナさんから少し聞かされた。ファイタスの宣伝用のチラシを持ってウラ警に連れてかれたって……」
「そうだ、それだ。けどな、現実はちょっと違うんだ」
「違うって、どういう意味だ?」
「実はな……それを仕組んだのは俺なんだ」
デニスの言葉にカナセが息を飲む。
「ウチの親父はな……。外面は仕事の出来るお人好しで通っていたが、家の中じゃ別の顔を持っていたんだ」
「別の顔?」
「本性はな、家族を平気で殴る様な暴力親父だ。外で気に食わない事があれば、それをお袋や俺や妹のエミを使って当たり散らしてた。酒で酔っぱらいながらな。俺もよく小さな事に難癖を付けられて殴られたもんさ。学校の成績が悪いとか、箸の持ち方が悪いとか、お前の顔が気に食わねぇとか、その日によって理由は変わるんだ」
「それってリーナさんは知っているのか?」
「いいや知らないはずだ。同じ地区の中でもリーナの家とウチとは棟も別だし少し離れていたからな。それに彼女も幼かった……」
それを聞いた時、カナセは喫茶店での二人の会話の温度差の理由を理解した。リーナにとって美しい思い出の日々でもデニスにとっては鬱屈した暗い幼少期の記憶でしかない。
デニスが口ごもっていたのも当然だった。
「まあ、それはさておき、俺は毎日、親父に殴られる度に思ったよ。このままじゃいつか俺達家族はこのロクデナシに殺される。そんな未来を俺が止めなきゃってね。耐えかねた俺は学校や警察に相談したりもした。しかしこの国の公共機関ってのは反逆者の捜査には心血を注ぐくせに家庭内の問題には不介入を決め込みやがる。全くの職務怠慢だよ」
「……」
「結局、俺の直訴は取り上げられるどころか逆に父親に告げ口され、また殴られた。全く酷いもんさ、この国の仕組みって奴は。そんな絶望の中、目の前に落ちていたのがファイタスが町中にばらまいた宣伝用のチラシだった。触っただけで訴えられる禁制品だよ。だがそれを見た瞬間、俺の中で起死回生の悪知恵がひらめいた。親父を一発ぎゃふんと言わせる方法を思いついたんだ。俺はチラシを隠し持つと布団の下に敷いて皺を延ばし、綺麗に折り畳んで親父の上着のポケット入れた。そして公衆電話で大人の声を真似して嘘の情報を警察に垂れ込んだんだ。後はリーナも知っている通り、親父はファイタスの内通者として逮捕された。俺はこれで親父が懲らしめられると思った。だがそれは間違いだった。なぜならその日から俺は親父とは会う事はなくなった。顔も見ていない。いや、親父だけじゃない。お袋やエミとも会ってなんだ……」
「会ってないって何でだ? 逮捕されたのは親父さんだけだろ?」
「後で知った話だがお袋も親父の共犯者にされて逮捕された。この国では疑われた時点で犯罪者だ。今は多分、親父とお袋は別々の刑務所に入れられている」
「そんなチラシ一枚でか?……」
「されどチラシ一枚だ。それだけウラ鉄はファイタスの行動に神経質になっている証拠だ。だがもしウチにウラ鉄に何かしらのコネがあれば何とか出してもらえたかもしれない。けどな、貧乏長屋暮らしの工員じゃそういう訳にもいかなかった」
「自分のやったいたずらだって言わなかったのか?」
「言ったさ、何度もな。しかし聞き届けられなかった。事件を子供のいたずらだってするより内通者の逮捕にした方が手柄に出来るからな。そしてどんなに願っても、もう両親が二度と帰って来ないと判った瞬間、俺は自分が犯した過ちって奴に打ちひしがれたんだ」
「それがメイヴィスの言っていた悲惨の正体か……」
「いいや、本当の地獄はそれからだったさ」
デニスは虚ろな瞳でつぶやいた。
「犯罪者の子供にされた俺とエミはウラ鉄の特殊少年兵の養成所に送られた。そして着いた途端、離れ離れにされると、その日から地獄の訓練が待ち構えて居た。俺は教官から反逆者の息子と蔑まれ鞭打たれながら自分の馬鹿さ加減を呪った。どうして親父の折檻ごときに自分は耐えられなかったんだってな。教官の鞭に比べらた親父に殴られるのなんて生易しい物だったさ。そんな教官からの鞭を妹のエミも受けていると思うと俺は妹が不憫でならなかった。そして妹の事を思い浮かべながら何万回も心の中で謝ったよ。馬鹿な兄貴を許してくれってな。そして養成期間が済むと実戦デビューだ。戦闘魔煌士として訓練を受けた俺はファイタスの内乱の鎮圧に刈り出された。そしてそれが済めば養成所に戻され、命令が出ればまた出撃する。二度目はロータスの外の国だった。後はそれの繰り返しを何年も続けたよ。しかしそんな日々も突然、終わりを告げた」
「何があったんっだ?」
「練兵場をウラ鉄の兵站基地と勘違いしたファイタスが襲って、そのまま占領したのさ。突然、地獄の日々から解放された俺は練兵場の中を駆けずり回って妹の姿を探した。しかし女の方の訓練施設をどれほど探しても妹は見つからなかった。俺は他に解放された女の訓練生に訊ねた。すると彼女はエミがとっくの昔に死んでいた事を泣きながら教えてくれた。爆弾の解体訓練の時に間違って切っちゃいけないコードを切ったんだとよ」
カナセは絶句した。デニスに掛ける言葉も見つからない。
「それから俺はファイタスに連れてかれた。ここに残るか大河川の向こう側に行くか好きな方を選べって言われてね。解放された全員がファイタス側に向かった。そこでモンベル団長の練兵場に鞍替えして、また地獄の訓練の始まった。しかしその時の俺の気持ちは充実していた。何故なら練兵場の中はウラ鉄への恨み辛みで充満していた。誰もがウラ鉄を憎んでいた。俺の苦しみはそこでウラ鉄への憎しみに変換されて皆と混ざり合い、逆に居心地が良かった位だ。そして俺はその練兵場でマギライダーとなりウラ鉄と戦う兵隊の一人になった。だからだ、カナセ……」
デニスは昔ばなしを終えるとカナセと向き合った。
「俺はファイタスをどうしても勝たせたい。少しでも自分の馬鹿を取り戻して、あの世で両親や妹に真面に面が下げられる人間になりたいんだ。だから俺は誰よりもお前に今、死なれちゃ困るんだ。だから頼む。俺をここで一人前の戦士にしてくれ」
そんな事をカナセの前で言ったのをこの刹那に思い出していた。
デニスは死を覚悟していた。それは全てカナセとファイタスを守る為の決断だった。
そしてカナセはデニスの気持ちを受け止めてくれた。
この片道作戦に命を掛けて協力してくれた。
「デニス・ワイルダー、人知れず故郷の大地に死す……。俺なんかには勿体ないくらい出木過ぎなお膳立てだな……転移!」
デニスは空中でメイルをガーネット・クラウンに変形させた。
二本の脚はマギアギア吸収され両腕は二門の魔煌砲へと変わっていく。
眼下には巨大な排気口が開いていた。
魔煌障壁は張られていない。カナセの存在に気を取られたタータの再展開が間に合わせずに居たのだ。
その千載一遇のチャンスにデニスは魔煌砲の引き金を引いた。
両腕の大きな砲口から赤い光がほとばしる。
形の無い光は瞬く間に、排気口に吸い込まれていき、巨大ダクトの中を二度ほど屈折した後、コア・モーターに到達した。
逆流状態の赤い魔煌を吸い込んだコア・モーターは突然の負荷に耐え切れず一瞬で暴走する。
「ひっ!」
四基のコア・モーターの間に挟まれながら、カナセに気を取られていたタータはすぐさま己の傍で起きた異変に気付き短い悲鳴を上げた。
しかしそれが精一杯だった。
コア・モーターは内側から崩壊し、更に張り付けたままの爆弾までも誘爆させた。
「お父様! おかぁさま!」
襲い掛かる爆炎の中でタータは叫んだ。そしてそれが最期の言葉となった。
禍つ青き光の滅却を!
その言葉はメグレ・タータにとって辞世の句とはなり得なかった。
機関室で起こった爆発は四基のコア・モーターを破壊しながら爆炎と衝撃波を四方にぶちまけた。
その中で上昇したエネルギーの一部が排気口からダクトの中を通り外部への排気塔から吐き出された。
排気口の傍に居たガーネット・クラウンは爆発の炎を真面に喰らう。
「!!」
爆圧を浴びたクラウンがデニスと共に吹き飛ばされた。
騎体は鋼鉄製にも関わらず空中で弧を描き、淡海の方へと飛ばされそのまま着水した。
衝撃を受けたマギアギアの中でデニスの体が跳ねた。
「ぐあっ!……」
着水後、ガーネット・クラウンはそのまま水の中へと沈んでいく。
そして為す術もなくデニスは気を失った。
操縦席の周囲で漏水が始まる。
デニスには近いうちに溺死の運命が待ち受けていた。
一方、地上でも555號に最期の時が訪れようとしていた。
機関部の爆炎が弾薬庫の扉を吹き飛ばし船内で誘爆を起こす。
それが次々と連鎖反応を起こし最終的に大爆発へと繋がった。
天地が割れんばかりの凄まじい空気の膨張が、555號の巨大な船体を一瞬、風船の様にふくらますと、後は木っ端微塵に吹き飛ばした。
直後に発生した衝撃波が地上にあるあらゆるものをなぎ倒す。
大爆発は地表に大穴を開けると軍港を更地にし、それでも物足りず被害をカデルナの市内にまで及ぼした。
立ち並ぶ工場群の一部が潰れ、火災が発生し、緊急事態を知らせる警報が鳴り響く。
町では民間人まで多くの負傷者を出し、混乱に包まれていった。
そんな、未曽有の破壊を起こした張本人は海中に沈んだままだった。
頭まで水に浸かった瞬間、その息苦しさにデニスは目覚める。
最初、自分が淡海に沈んでいる理由が判らなかった。
しかしこれから死ぬのだけは確かだった。
爆発の衝撃で体の節々が痛む。だがそれ以上に逃走中に負った傷が祟って体力が削られていた。
「ここで死を待つ他、無い様だな……」
デニスはおもむろにつぶやく。
「後はカナセが無事に脱出した事を祈るだけだが……」
今の自分にそれを確かめる術はない。
だがそんな詮索を巡らせている間に頭の上のハッチが開いた。
ハッチから流水と同時に腕が伸びるとデニスの体に掴み掛かり車内から引き摺り出した。
身体が海面から浮上した。
肺の中の空気が入れ替わると暗かった東の空が白く滲んで見える。
それは間違いなく夜明け前の光だった。
「デニス! 大丈夫か!」
すぐそばで声が聞こえた。
「カナセ……」
こんな所でデニスを助けるのは彼しかいない。
「何故だ……。俺を置いて逃げろって言ったのに……」
「逃げたさ。けど逃げた先に上手い具合にお前が居た。だからついでに助けただけだよ」
それがカナセの答えだった。
だが一目で判る嘘だ。
カナセは最初からデニスを救う気でいた。
爆発に巻き込まれたガーネット・クラウンが淡海の方へと吹き飛ばされたのを見付けたカナセは脚に残っていた最後の推力を振り絞ってそれを追い、デニスを救出したのだ。
「そうか……。ついでにか……」
そして、そんなカナセの嘘にデニスもそれ以上付き合う事は無かった。
「555號は?……」
「大丈夫だ。やっつけだよ。港の方を見てみろ……」
言われるままデニスは港の方を海面から眺めた。
既に衝撃波は去った後だった。しかし爆心地から熱風が吹き荒ぶ。
倉庫群は吹き飛び、僅かに残った鉄の骨組みだけが劫火に晒され無残な姿を晒していた。
そんな港の爆心地の中心に巨大戦艦の骸が横たわっていた。
しかしその姿にデニスは唖然とする。
「……」
言葉も出ない。新鋭戦艦の中央からは300m近い火柱が立ち昇り、天をも焦がす勢いで赤々と輝いていた。
炎の下では砲塔も艦橋も履帯もほとんどが粉微塵にひしゃげ、原型を留めていない。
そして少し離れた更地には尖頭部を地面に突き刺した巨大ドリルの円錐が無造作に直立していた。
しかしその巨大な円錐も最後には自重に負け、ドシンッという大きな地響きを起こしながら倒壊していった。
「俺達、やったんだな……」
デニスが海面に浮かびながらつぶやいてみせた。
「ああ、作戦は成功さ」
カナセが安堵の溜息を漏らす。
しかしまだここからの脱出する仕事が残っている。
二人は感慨に浸る間もなく、海面を泳ぎ始めると港への再上陸を果たした。




