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第21話 出会い

 一方、カナセが潜伏した町ではカッツェ姉妹に拠る拉致作戦が本格的に発動しようとしていた。

 しかし狭い村の中のはずなのに当のカナセ・コウヤの姿が見つからない。

 村の中を歩き通した姉妹は疲労困憊の末、駅前の公園のベンチに座った。

「うみゃ~。疲れたニャ~」

「こんな事にゃらロムスとレムスを持って来るんだったニャ」

「駄目にゃ。あんな大きな物で街中を歩いたら逆に警戒されて隠れられるニャ」

 だがせっかく変装用の私服にまで着替えたのにこれではくたびれ損だ。

「そんな事より歩き疲れて喉が渇いたニャ」

「ニャら、さっき公園の入り口にアイスクリームの屋台があったニャ」

「妹者、買って来るニャ」

「ニャ! にゃんでウチが買って来るニャ! 見つけたのはウチにゃんだから姉者が買って来るニャ!」

「ニャらじゃんけんで決めるニャ」

「判ったニャ。じゃんけん、ニャ!」

 勝負の結果、妹のパールが買いに行かされる羽目になった。

「姉者酷いニャ……。ウチがじゃんけん弱いの知ってる癖に……」

 ぶつぶつと愚痴を零しながら屋台の前に来るとパールは財布の蓋を開けた。

 横には先客が居た。

「おばさん、バニラひとつ」

 アイスクリームを注文する少年の声が聞こえる。

 パールは何気なしに少年の方を見た。

「みぎゃああああああああああああああああああああああああ!!」

 しかし少年の顔を目にした途端、パールは仰天した。

 立っていたのが今まで探していたカナセ・コウヤ本人だったからだ。

「ふみゃあああああああああああああ……」

 パールは驚いた拍子に転んで尻餅を突き手にしていた財布の中身を地面にぶちまけた。

「おい、大丈夫か?」

 転んだパールに気付いたカナセが慌てて手を差し伸べる。

 その手をパールは反射的につかんだ。

「あ、ありがとニャ」

 パールは困惑しながらカナセに礼を言った。

 そして立ち上がった頃にはカナセはパールが落とした小銭を拾い出す。

「そんな事、気にしなくていいニャ! 自分でやるニャ!」

「いいよ、もう終わったから……」

 そう言うとカナセは拾い集めた小銭をパールに全部、渡した。

「重ね重ねありがとうニャ」

「どういたしまして」

 そう笑って答えるとアイスクリームを受け取ったカナセはここから立ち去ろうとする。

「ちょっと、待つニャ!」

 それをパールが慌てて止めた。

「よかったら一緒にアイス食べるニャ! 向こうに姉者が居るニャ。皆で一緒に食べる方が楽しいニャ」

 そう取り繕うパールの顔をカナセはじっとみる。

 長い亜麻色の髪を左に束ねた、猫の様なかわいらしい女の子だった。

 喋り方も特徴的で、とても彼女がウラ警のエースだとは思いもしない。

「それじゃあ、お邪魔しようか……」

 カナセも可愛い子のお誘いに悪い気はしない。

 それにしても今日は美人によく会う日だ。

「ウチの名前は……タマコにゃ!」

 ベールは唐突に偽名で自己紹介する。

「俺はカナセ・コウヤっていうんだ」

 それにカナセは何の疑問も無く本名で答えた。

「ま、間違いないニャ……。資料の写真で見たカナセ・コウヤにゃ……」

 妹は心の中でつぶやく。

 今まで探していた超一級のお訪ね者だ。決して逃してはならない。

「じゃあ、付いて来るニャ。姉者を紹介するニャ」

 カナセがタマコの後を付いて行くとベンチに彼女とそっくりな美少女が座っていた。

「ふみゃああああああああああ!」

 妹に連れられたカナセを目の当たりにした途端、姉のベールも座っていたベンチの上でひっくり返る。

「紹介するニャ! 姉者のスズコにゃ。カナセ・コウヤも仲良くするニャ!」

 妹は両手にアイスクリームを持ちながらカナセに姉を紹介した。

 その後、本来は敵同士の三人が同じベンチに仲良く座ってアイスクリームを食べ始めた。

 そんな中、姉が妹に耳打ちした。

「今がチャンスニャ。アイスクリームをぺろぺろしている隙に捕まえるニャ!」

「けど、私らの手もアイスクリームで塞がってるニャ。せっかくのアイスを捨てるのかニャ?」

「それは勿体ないニャ。にゃら、カナセ・コウヤよりも先に食べてしまうニャ!」

 しかし二人が相談し合っているうちにカナセはアイスクリームをバクバクと三口でコーンごと食べてしまった。

「ふみゃ!」

 その勢いの良さに姉妹は仰天した。

「どうしたの? 急に驚いた様な声を出して」

「アイスクリーム、舐めずに食べたニャ……」

「ああ、これって舐める物だったのか……」

 辺境生まれのカナセはアイスクリームの正しい食べ方も碌に知らない。

「全く、とんだ野蛮人にゃ……」

 お陰で姉妹はカナセを捕えるチャンスを失う。

 しかしそんな事を気にする事もなくカナセは姉妹に聞いた。

「ところで君等はこの町の子達かい?」

「違うニャ、ゴディバから来たニャ」

「そうニャ、実は逃げて来たニャ」

 そう最初に姉が答えると妹が乗っかった。

「逃げて来た?」

 その一言にカナセが不思議そうな顔をする。

「実は親の作った借金で首が回らなくなったニャ。だがら借金取りから逃げて来たニャ。払えなかったら下層界のエッチなお店に連れてくって言われたニャ……」

「それは酷い……」

 カナセは姉妹の身の上を聞いて眉を歪める。

 何の疑問も持たず二人の言葉を信じ同情した。

「可哀そうに……。それでこれからどこに行くんだい?」

「大河川の向こう側に行こうと思ってるニャ」

「大河川の向こうって、ファイタスの勢力圏って事かい?」

「そうニャ、そこまで行けば借金取りも追っかけて来ないはずニャ」

「けど川を渡ったら、反逆者扱いだ。もうこっちには戻れないぜ」

「借金まみれよりマシニャ! 私らは生きるチャンスが欲しいニャ!」

 成程、彼女達の言っている事は正論だ。ならば手助けしてやるのも筋ではなかろうか。

「ところであっちには何か伝手はあるのか?」

「そんなモノ無いニャ。出たトコ勝負ニャ」

「だったら、ラッツ村ってところに来ないか? そこに孤児院があるから暫く泊めて貰えばいい」

「それってどういう意味ニャ? 何ゃんで向こうの事に詳しいニャ?」

「実は俺も西の干拓地から川を渡って来たんだ。要するに向こうの人間って訳さ。だからその気があるんなら俺が後見人になってやってやるよ」

「ニャ! それは有難いニャ!」

 姉妹はわざとらしく諸手を上げ喜ぶ振りをする。

「さて後は川の向こう岸に渡る方法だけど……。俺がやった方法が帰りも上手くいくとは限らないしな」

「それだったらウチに一つ情報があるニャ」

 姉が目を輝かせてカナセに答える。

「この干拓地の南の岸に西に亡命を手伝ってくれる船乗りが居るって話ニャ。それに頼めばいいニャ」

「ウチ等、その情報を頼りに南に下って来たニャ」

「ならそこまでいく足が必要だな……」

 生憎、鉄道は先ほどのファイタスのテロで不通になったままだ。復旧の見込みも無い。

「判った、足は俺が何とかするよ」

「何か当てはあるのかニャ?」

「ひとつだけな。まあ、俺に任せてくれ」

 そう言うとカナセはベンチから立ち上がり、今度は駅の方へと向かった。

 普段は静まり返っている小さな町の駅舎は今は北行の線路の事故で大混乱に陥っていたた。だが何も駅舎を襲撃しようという訳ではない。

「よし、あった、あった」

 目当ては駅の駐車場に停めてあった社用車だ。

 社用車は薄緑色の軽自動車でドアにウラ鉄の社章が記されている。

 カナセは隠れもせず大胆に近づくと魔煌障壁による突貫戟を発動させ鍵を壊した。

 そしてそのまま社用車に乗り込みモーフィング・マギアを使って走らせる。

「悪いがこいつはもらってくぜ」

 社用車はそのまま道端に居た姉妹を乗せると南に転進しながら村から離れていった。

「ふふ~ん。ざっとこんな物さ」

 カナセは二人の前でハンドルを握りながら自慢気に鼻を鳴らした。

「うみゃ。なかなかやりおるニャ」

 社用車を盗んだカナセを見てベールはしきりに感心する。

「大胆不敵かつその手際の良さ。敵にしておくのは惜しい男ニャ……」

 そんな中、妹が姉に耳打ちする。

「どうするニャ? いつカナセ・コウヤを捕まえるニャ?」

 すると姉は答える。

「もう少し待つニャ。さっきアイツが言ってるラッツ村って所に行くニャ。そこが反乱軍の新生魔煌技の研究施設かもしれないからニャ。そこも占領して新生魔煌技の秘密も丸々を貰い受けるニャ」

「ニャ! 流石、姉者だニャ。じゃあ、当分、ウチ等はカナセ・コウヤと一緒に居るって事ニャ」

「ニャ。そういう事になるニャ」

「うみゃ~ん。そうにゃのか。それは良い事にゃ~」

 そう言いながら妹は喉を鳴らした。

 ウラ鉄の社用車は大堤防の外側にある小さな船着き場に到着した。

 そこには小さな動力船が桟橋に横付けされていた。

 桟橋に居た年老いた船乗りにベールだけが近寄る

「みゃ。おじいさん、久しぶりニャ。孫のキャサリンにゃ」

 どうもそれが合言葉らしい。

 暫く二人だけの交渉が始まった。

「あれが運び屋のじいさんって訳か……」

 痩せ細った老人のそれらしさにカナセは納得する。

 しかし彼が運び屋というのは真っ赤な嘘だ。

 老人は列記としたウラ鉄情報部所属の職員のひとりで、ここはファイタス側に工作員を送り込む為の秘密基地だった。

「おじさん、乗せて良いって言ったニャ」

 ベールの子芝居の後、三人は老人の操る小舟に乗って淡海に出た。

 小舟は淡海を遠回りしながらファイタス側の哨戒網を意図も容易く突破すると、ラッツ村へと進路を取る。

「じいさん、この仕事は長いのかい?」

 船の上でカナセが老人に聞く。

「……」

 しかし老人は一言もしゃべらない。

 代わりにパールがカナセに訊ねて来た。

「わざわざウラ鉄のところまで来て何をしてたなニャ?」

 するとカナセが困った顔をしながら答える。

「実は借り物の魔煌書を無くしちまったんだ。結局、手に入らなかったけど……」

「うみゃ、それは大変にゃ。どこに無くしたニャ?」

「どうやら淡海に落としたみたいなんだ」

「みゃ? 淡海に落とした?」

 パールが不思議そうな顔をする。

「実は急に眩暈がして、その拍子に淡海にドボン」

「にゃぁ~。それは災難ニャ。具合はもう大丈夫なのニャ?」

「ああ、そっちはもうへっちゃらさ」

「それは良かったニャ。今までも立ち眩みとはあったのかニャ?」

「いいや、全然。あんな眩暈を起こす事なんて初めてだった」

「にゃら原因不明ニャ」

「そういう事さ……。せっかく大事な魔煌書だったのに、持ち主にバレたら大目玉だよ」

 そう言ってカナセは肩を竦めた。

「その時、何ゃにかしていたかニャ?」

 今度はベールが訊ねる。

「ああ、確か歌を歌ってたかな」

「何の歌だったニャ?」

「子守歌さ。子供の頃、師匠だった人に歌ってもらった奴でね」

「ふ~みゃ、子守歌で気を失うのかニャ……」

「因みに落とした魔煌書は何ゃにニャ」

 再びパールが聞いた。

「ミスラ写本さ」

「ミスラ写本?! ふ~む……」

 姉妹は揃って考え込む。

 こう見えても二人は一流の魔女だ。ミスラ写本の意味は充分理解している。

 子守り歌。眩暈。ミスラ写本……。

「判るのかい?」

「全然判んにゃいニャ」

「そうか、実は俺も全然、判んニャいだ」

 そう言って三人は笑い合った。

 だがカナセの言葉に二人はある閃きを覚えていた。

 そしてヒソヒソとふたりで話始めた。

「姉者、これって多分、アレにゃ……」

「そうニャ。マギアトラップの一種ニャ」

 マギアトラップとはその名の通り魔煌を使った罠の事だ。

「多分、ミスラ写本が子守り歌に反応して攻撃したニャ!」

 ベールはそう小声で結論付ける。

 エリザベス・アムンヘルム失踪後も新生魔煌技の研究はウラ鉄だけではなくどこの国の魔煌士系学術機関で熱心に行われていた。

 その秘密はロータスの魔女の残したミスラ写本にあるとされているが、この難解な魔煌書の解読には未だに誰も成功していない。

 その事実は魔煌技に携わる多くの魔煌士の常識であり、カッツェ姉妹も例外ではなかった。しかし子守歌を歌った途端、魔煌書が反応を示したという話は初耳だった。

「これは間違いなく魔煌書からのメッセージにゃ」

 優秀な魔煌使いならそう考えるのが普通だった。

 それだけにカナセの話が事実ならば驚くべき発見だった。

「やはり流石はロータスの弟子って所ニャ……」

 しかしまだ、その子守歌が魔煌書とどう関わっているかまでは判っていない。

「これはどうしてもカナセ・コウヤを捕まえなきゃダメにゃ!」

 姉妹はカナセの横顔を眺めながら決意を新たにする。

 そんな彼女達の思いにまるで気付く事も無く、カナセは船の舳先に座りながら淡海の先をずっと見続けていた。


 その頃、メイヴィスの援軍によって無事に救出されたクレア達はそのまま最下層から脱出した。

 しかしここから素直にラッツ村に行けるという訳ではなかった。

 ウラ鉄警備隊弐號隊全滅の報を受けた本部が本国守備隊に命じて非常線を張ったのだ。

 そのお陰でクレア達はウラ鉄の勢力圏から出られない状態に陥っていた。

「ちょっと、このままじゃ、私達、また袋のネズミじゃない!」

 ゴディバから離れた荒野に二台のオープンカーが停まると、赤いボンネット越しにナナミがデニス達を叱咤する。

「大丈夫だ。ウラ鉄の勢力圏からは脱出出来る。ちょっと時間が掛かるけどな」

「それはそれとして、先生、私達はカナセ君に会わせて頂けますよね」

「いや、今すぐには返事は出来ん。彼はファイタスにもウラ鉄にも重要な人物じゃからな……」

 そう言ってゴッペル先生はクレアの要求を渋る。

 そんなヨシュア側とのやり取りを眺めながらメイヴィスが不思議そうな顔をする。

「ちょっと、彼女達って何者よ?」

 メイヴィスがクレアを見ながらラーマに訊ねる。するとラーマが答えた。

「聞いて驚きなさい。今、あのクソ親父と話してるのはヨシュアのクレア・リエルよ」

「クレア・リエルって空爆の魔女?!」

 メイヴィスが彼女の正体を聞いて驚いてみせる。

「その空爆の魔女がなんでロータスに? って、まさかカナセ君を探しに来たとか?」

「そのまさかよ。ヨシュアに連れ戻す気らしいわ」

「成程、彼氏を追って来たって訳ね……、かわいいとこあるじゃん」

 そうつぶやきながらメイヴィスが微笑んで見せる。

 そして改めてクレアの面差しを見詰めた。

「ふ~ん。確かに凄い美人よね。カナセ君が夢中になる訳か……」

 するとメイヴィスがゴッペル先生に言った。

「先生、会いたいって言ってるなら会わせてあげましょうよ」

「メイヴィス、儂はお前さんに意見を求めては居らんぞ」

「いいじゃない、会わせてあげなさいよ。どうせ、今のままじゃファイタスもジリ貧なんでしょ?」

「ソフィア、お前は黙って居れ!」

「けど、そうした方がカナセ・コウヤから協力を引き出せると思うけど。それが嫌なら理想と一緒にファイタスも滅びれば良いわ。バラバラのままね」

 そう言われると先生も考えざる得ない。

「……判った。お前さんをカナセ・コウヤに会わせよう」

「本当ですか?」

「ああ、約束しよう」

「ありがとうございます、先生」

 先生の約束の言葉を聞いてクレアに笑顔が戻る。

 しかしゴッペル先生は最後にこう釘を刺した。

「ただし、お前さんに協力してもらいたい事がある」

「協力?」

「最も、多くは期待して居らん。それに最後に決めるのはカナセ・コウヤ本人じゃからな……」

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