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第3話 魔女二人

 二人がブリーフィングルームに到着すると後になってカナセ達の上官であるホーナー・ナット大尉が入室してきた。

 二人は起立したまま、カナセがマリウスに比べややぎこちない敬礼をする。

 ナット大尉は二人がボスと呼ぶのに相応しい偉丈夫だった。身長2mの黒い髪に彫の深い顔立ちの大男で、黒い瞳で二人を見るとこう言った。

「本日1400時より両名には海上都市ダグウィードに向けて出動を申し付ける」

 それは魔煌技実験騒ぎに対する叱責ではなく二人に対する新しい命令の指示だった。

「出動? 都市へ哨戒任務ですか?」

 少尉が訊ねるとナット大尉は否定した。

「否、先ほどダグウィード側からボートタウンの方で火災が発生したという通信があった。だが現場で治療を行う医師の手が足りんらしい」

「そこで焼け出された市民に対する救援要請が我が艦隊に送られてきたという訳ですか」

「人道的見地とダグウィードとの友好関係を鑑みて我等は医師の派遣を決定した。艦隊からは魔煌士組合所属の二名が送られる」

「って事はボス。俺達の任務はそのお医者様の送り迎えって訳ですかい?」

 今度はカナセが聞く。だがその口調は軍隊臭さも薄く、まるでヤクザ者の舎弟や職人の弟子の様な口の聞き方だった。しかし大尉は特にそれを咎める事はせず説明を続けた。

「そうだ。緊急かつ安全に送迎が可能と理由で我が隊が選ばれた」

「お医者様は誰が行くって言うんです?」

「現在選定中との事だ。こちらが出発する頃には決定しているはずだ」

「その中で俺達が選ばれたってのはよほど優秀だからって理由ですね?」

 カナセが嬉しそうに訊ねる。しかし今度ばかりは大尉ははっきりと否定した。

「いや、臨時招集のカナセ特務曹長は正直、訓練時間が足りてない。その為の穴埋めに少しでも船に触れさせるのが目的だ」

「成程、嬉しい限りだな、曹長」

「全くであります、少尉殿」

 二人が調子よく声を合わせる。

 その後、移動機材や航路、そしてタイムススケジュール等の説明が細々と行われた。

 はっきり言えば難しい任務ではない。小型艇に医師を乗せて送り迎えをするだけだ。それにここはまだ八カ国連合の勢力範囲内だ。ウラ鉄の陰に脅える必要も無い。

「ではこれより各自装備を速やかに整え中央甲板に集合せよ。特にカナセ特務曹長はこの任務を親心と思い存分に励め。両名とも作戦任務中は決して気を抜く事の無い様に。では解散!」

「イェス、ボス!」

「それと、曹長。先ほど私が旗艦に出向で不在の時、貴様が爆発で騒動を起こしたとカッシーニ中尉から報告があったが事実か?」

「イエス、ボス! 事実であります!」

 カナセは悪びれる事もなく断言した。

「原因は貴様の魔煌技練習の失敗であるという報告が入ったが相違ないか?」

「お言葉ですがボス。魔煌技は大成功であります。自分は無声詠唱で魔煌障壁の展開に成功に至りました」

「了解した。貴様達ふたりには罰として明朝より一週間、当艦の便所掃除申し付ける。朝は混雑する為、起床時間前に済ませる事。割り当てはカナセが兵員用、マリウスが士官用とする」

「げっ!」

 二人が声を揃えて呻いた。

「不服か?」

「いいえ、ボス! マリウス・ルーメン、カナセ・コウヤの両名、明朝より一週間、当艦の便所掃除二か所、謹んで承ります!」

 因みに広くて汚れやすいのは利用者の数が多い兵員用のトイレだった。


 二人は作業用の制服の上からヘルメット、救命胴衣等、装備一式を身に着けると直ちにムラクモの甲板上に出た。

 甲板ではクレーンを使って二隻の小型艇が浅い乾舷から降ろされようとしていた。

 小型艇は水兵の足代わりにされる艦載艇ではなく最新鋭の戦闘艇で、海上に浮かぶ先細りの船体はまるで鋭利なナイフの様に野心的な容貌をしていた。

 戦闘艇はケルピー級高速突撃艇、通称「ケルピー」、水馬とも言われる新兵器だった。

 全長15m。全幅2.4m。僅か7tほどの船体に70番コアを使った合計出力3000煌力を超える二つのコアモーターを持ち、甲板中央には背骨の様な75㎜長砲身ライフル砲を搭載した化け物だった。

「あら、よっ!」

 カナセとマリウスは海上に降ろされた高速突撃艇にそれぞれ乗り込んだ。

 操縦席は進行方向から見て船体の右側、二人乗りでまるでレシプロ戦闘機のコックピットの様な形状をしており、砲を挟んで左右に二門の20㎜機関砲が搭載されていた。

 更に実際の戦闘では大型艦船用に超浅深度短魚雷を二発、搭載する事になっている。

 二隻の突撃艇のコア・モーターが同時に動き出した。

 白波を立てる船体にはそれぞれヴァイハーンとカスケードの名が記されている。

 ケルピーはヨシュアの新戦術によって誕生した最新鋭の水上艇だった。

 従来の淡海での海戦は古来からそうであった様に互いの艦隊が縦列で接敵し会い、船体の横腹を晒しながら旋回砲塔による砲撃を繰り返す艦隊決戦が主であった。

 しかし喫水が浅く、比重の軽い淡水の中の艦容では、おのずと搭載出来る装甲防御と砲火力に限界が出てくる。

 そこで新しく開発されたのが高速突撃艇と呼ばれる新兵器とその為の新戦術だった。

 高速突撃艇の戦法は極めて明快だった。重厚長大な巨砲巨艦主義から軽薄短小な高機動

戦術への転換。小型の戦闘艇に不釣り合いなはほどのマギ・モーターと大型艦砲を搭載し、高速で敵艦船に接近し一撃離脱で攻撃を行う。

 更に魚雷も淡海の浅い水深のせいで隠密性が保てないのなら一層の事、弾体を水面から半分出してしまおうという割り切った仕様になっている。

 要は水上の艦上攻撃機といったところだ。

 そしてその最初の実戦部隊が今回の作戦に配備され、先日、初めて実戦に投入された。

 その際、戦闘に参加した四隻は敵の勢力圏内でこちらの損失無しに相手の哨戒艇四隻を全て撃沈するといった初戦果をもたらしたのだ。


 二隻のケルピーは慣らし運転を兼ねながらゆっくりと戦闘母艦ムラクモを離れると、派遣される医師を乗せるべく旗艦ヨークタウンへと向かった。

 カナセとマリウスはモーフィング・マギアを発動させながら的確に操艦をこなしていく。

 ケルピーの操縦者はいずれもマギライダーが選ばれた。軽い船体の中での発動機の高出力と艦砲の高火力がいずれも一般の船乗りでは扱い切れないからと言うのがその理由だ。

 慣らし運転を終えたケルピーがヨークタウンの乾舷から突き出たタラップに接岸した。

 タラップには二人の魔女が居た。

 そして二人ともカナセのよく知る人物だった。

「ようこそ、わが艦に。お嬢様のご来船を歓迎いたします」

 カナセはにこやかにタラップ上の魔女のひとりに手を差し伸べた。

 しかし魔女はカナセの前でぷいっと顔を背けると、水兵達にマリウスが操るカスケードの方に自分の荷物を置く様に指示した。

 荷物が積み終わるとカスケードに降り立った魔女がにこやかにマリウスに微笑む。

「今日、一日よろしくお願い致しますわ、艇長」

 魔女の正体はクレアだった。

 そしてカナセの方を一度だけ振り向くとその小さな口元からいっぱいに舌を出した。

「べぇ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!!」

「なっ、何だよ!」

 クレアの態度にカナセが唖然とする。彼女が自分の船に乗るのを拒否するとは思ってもみなかったからだ。

 クレアはマリウスへの挨拶が済むとカスケードの操縦席横の予備の座席に腰掛けた。

 そしてそれ以上、カナセとは目を合わせようとはしなかった。

 彼女は怒っていた。珍しくスカートを捲られた事を根に持っていたのだ。

「ぐぬぬぬ……」

 カナセは何も言えずに歯ぎしりする。

 しかし怒っても仕方がない。悪いのは当然、カナセ本人なのだ。

「姫はお怒りの様だ……」

 無線からマリウスの笑う声が聞えた。

「まあ、今日の所は自分が責任もってエスコートするよ。だから安心してくれ」

 一方でカナセの背後から違う声が聞こえた。

「今日の送迎はあなたがしてくれるのかしら?」

 振り向こうと、そこにはもう一人の魔女が立っていた。

「ラーマさんか……」

 それはあのラーマ・パトリックだった。

 紫髪のショートボブに眼鏡を掛けた知的美人。ゴーレムを操る人呼んで「石像の魔女」だった。

 彼女とは最初に会ったのは魔煌士組合本部での登録審査でだった。

 そして後にカーニャ村で起きた国奉隊襲撃事件の祭、カナセは彼女に救われた。

 久しぶりの恩人との再会にカナセの機嫌も持ち直す。

「久しぶりね。カーニャ村の時、以来かしら?」

「じゃあ、アンタが派遣されるもう一人の魔女って訳か?」

「そうよ。今日、一日よろしくね」

 二人の魔女が乗り込むと二隻の船が同時に動き出した。

 船足はすぐに巡航速度に達し風と水面の境界を駆け抜けていく。

 雲の流れも魚が跳ねる波紋も瞬く間に通り過ぎ、波間の彼方へと消えていった。

「凄い、さすが新兵器ね!」

 後部座席でラーマが称賛の声を上げる。

 実際にケルピーは早かった。世界中探してもこの速度に達する軍用高速艇は他には存在しない。

「なら、今度、うちのボスに言ってやってよ。美人に言われればきっと喜ぶ」

「ボス? ホーナー・ナット大尉の事ね」

 大尉は民間の高速船造船メーカーから水軍に入隊した変わり種の経歴の持ち主だった。 

 お陰で2mを超える巨体に反してマリウス以上に軍人らしさに欠けていた。

 同時に彼はこの高速突撃艇計画全体の立案者でもあった。そして日頃から、この高速突撃戦隊創設の為に自身は水軍に入隊したのだと吹聴していた。

 要はこのケルピーこそが大尉の実現した夢の結晶だと言えた。

「なら、さしずめこれは夢の小舟ね。それを操縦出来てどんな気持ち?」

「まあ、控えめに言って最高だね!」

 カナセは溌溂とした笑顔で答える。

「ボスの夢の事なんてどうだって良いけど、こいつは本当に良い船だよ。良く走るし曲がる。それに撃った弾もよく当たる。この前、初めてコイツで実戦に参加した時だってガンボートを一隻、沈められんだ」

「ふふ、べた褒めね。でもカナセ君、あなた、確かコア探査能力があるんでしょ? ならコア・レーダーの操作手でも良かったんじゃない?」

「ああ、魔煌探信班の事かい? あっちも一応、適正検査は受けたけど最終的に振り落とされた」

「何があったの?」

「笑い話なんだけど、その検査で俺の探知能力がせいぜい200mが限界だって事が判ったんだ」

「200mですって?!」

 ラーマが驚きの声を上げる。

「それじゃあ、使えないわ。肉眼で見た方が早いもの」

「審査官にも同じ事、言われたよ。精度は太鼓判でも艦隊周辺の早期警戒には役に立たないって。どもこれでもここに来てからの訓練で3㎞に伸びたんだぜ」

「あら、凄いじゃない。たった二ヵ月で十五倍になるなんて」

「けど3㎞でもまだ足りないって。そんな水平線を見る距離よりも短いんじゃ、せいぜい夜間の見張りに使えるくらいだって」

「あらら、それは残念ね」

「それに俺としてもこっちの方が性に合ってる。狭いレーダー室に籠っているより外の空気を吸いながら日を浴びてる方が良いよ」

「成程、確かにトラスニークを救った英雄さんにしてみればこっちの方が華があって良いわよね」

「クレアもそう言われたよ。貴方はマギライダーなんだからこっちの方が貴方らしいって。それにしてもラーマさんがお医者をやってたって本当の事だったんだね」

「まあ、今は副業みたいなものだから、人に知ってもらう機会も少ないかな?」

「でもクレアと比べて荷物が少ないみたいだけど……」

「あの子は薬の魔女、魔煌薬による治療がメインだから。ガラス瓶が嵩張るのよ」

「ラーマさんは違うのかい?」

「私は外科医。執刀による治療がメインよ。それと薬は効きが強いのを少ししか持たない主義なの。だからカーニャ村で飲ませた薬はよく効いたでしょ?」

「執刀ってメスで腹を掻っ捌く奴だよな」

「ええ、そうよ。もっとも掻っ捌くのはメスではなくこれを使うわ」

 そう答えるとラーマはカバンから緑色の正八面体の物体を取り出した。

 多面体は握りこぶしほどの大きさで、吹き荒ぶ突風にも屈せず不思議な力で宙に浮いていた。

「何それ?」

「マギアメス。私の商売道具。魔煌による医療機器のマギアルマよ」

 ラーマは一枚の紙切れを取り出すと正八面体の前に差し出した。

 一瞬だけ正八面体が青白く輝きだす。

 その直後、紙切れは粉々に切り刻まれ突風の中に散った。

「ひえぇ~。凄ぇ切れ味」

「患部を直接、早急に物理的に治療していくのが私の魔煌技。まあ、こんな具合に原因療法で治療を進めていく訳よ。どこか調子が悪い所があったら言いなさい。薬学と違って対症療法じゃないから効き目も確実よ」

「じゃあ手足が吹っ飛んだ時はお願いするよ」

「ところで相変わらず仲が良いわね、あなた達」

 ラーマが並走するカスケードを眺めながら答えた。

「クレアの事かい?」

「こんな所にまで一緒に来てるなんて」

「まあね、って言いたい所なんだけど、ちょっと今、喧嘩してて絶賛、嫌われ中」

「それは御愁傷様」

「いつもはすぐに許してくれるんだけど……。どうも今日は女心が臍を曲げちゃって。虫の居所が悪いみたいだ」

 カナセは操舵しながら肩を竦める。

「なら気を付けなさい。あの子、一度、本気で嫌うと、とことん煙たがるタイプよ」

「まあ、それはタモンで経験済みだしって……。え? それって、どういう事? ラーマさんがクレアに嫌われてるって意味?」

「経験者は語るよ。隣に居た途端、息を止めてくる事もったわ。一緒の空気を吸うのが不愉快ですって」

「本当かよ?! 何したの?」

 ラーマの証言にカナセが驚いた顔のまま聞き返す。

「別に何かをしたわけじゃないわ。有体に言えば意見や考え方の相違って奴かしら」

「考え方の相違?」

「戦争の事よ。はっきり言えばあの子は主戦派。私は和平派。その相違で私はあの子に嫌われてるの」

「和平派?」

「知らない? 和平派はこの無益な戦争を止めて平和的な条約を結ぶって考え方の人達の事よ」

「殺し合いを止めて奴等と手を結ぶってか?」

「そうよ。互いが互いを認め合って対等なパートナーシップを結ぶの。どちらかが支配するのではなく友達同士になるって訳。私達は二つの力が互いに手を取り合って一つの平和を目指す事を願っているの。言わば線路が繋ぐ平和の懸け橋って所かしら」

「その為に働くのが和平派か……」

「でもあの子はそれが気に入らないの。相手をヨシュアから追い出すまで徹底的に戦うって言ってるのよ。そして最後は敷かれている線路を引き剥がす所まで考えてるわ」

「そこまでか?」

「そこまでよ。あの子は心底、鉄道を嫌っている」

「それは前に聞いたけど……」

「とにかく、あの子は私達が提唱するお互いが納得できる妥協点に見向きもしない。それどころか和平の考え方を穿った見方でしか理解しようとしないわ。ウラ鉄への利敵行為だって言ったりしてね。酷い時は反逆者とか売国奴とか言いたい事言って罵るの。まあ、主戦派を口にしている連中はみんなそんな感じだけどね」

 そう言ってラーマはクレアを非難した。

「でもおかしいぞ。そんなアンタが何で戦いに参加してるんだ?」

「確かに私は平和を願っているけど、ただ祈っているだけじゃ平和が訪れない事も知っているわ。その理屈判る?」

「うん、まあ……世の中、きれい事だけじゃあ済まないから」

「それにさっき対等なパートナーシップって言ったけど、結局、対等に話し合うには対等な力が必要になる。でも私達の求めている戦いは、飽くまで相手をこちらのテーブルに着かせる為だけの最小限のものよ。クレア達が考えている様なとことん殲滅させるだけの泥沼の戦いを望んではいない」

「成程、判るよ……。でも、何か引っかかるなぁ」

「何がかしら?」

「結局、和平を結ぶって事は、最後にはウラ鉄が今までやってきた事を許すって事だろ? お互い話し合いで決着付けるってのは妥協点を探すって事だから」

「究極的にはそうね」

「それって無理なんじゃないかな? 特にクレアみたいに肉親を殺されたり、住んでいた土地を奪われた人達は納得しないんじゃないか?」

「そこは残念だけど、ひとりひとりの個人的感情は辛抱してもらうしかないわね。あれは戦争だから仕方が無かったってね」

「無理やりにでも諦めろってか?」

「でもどこかで止めないと死者と憎しみの数はこれからも増え続けるわ。そうなった時に今度死ぬのはヨシュアの中の誰か。もしかしたらアナタかもしれなし私かもしれない。それで良いの? それでもカナセ君はクレアの意見の方が正しいと思う? どちらかが全滅するまで殺し合うのが私達が受け入れる未来だと本気で思う?」

「そんな事は……無いと思うよ」

 カナセはラーマの言いたい事を理解した。

 そして黙り込んだ。

 黙り込んだのは心が揺らいだからだ。それだけラーマの言葉には説得力があった。

 確かに殺し合いを続けていても良い事など何もない。続けばこれからも大勢の人々が死ぬことになる。老いも若きも男も女も関係ない。

 下手をすれば先日のトラスニークの戦いの後、カナセとクレアはミリアの墓の前で泣いていた可能性だってあったのだ。

 しかしクレア達、主戦派の言い分も当然だと思った。ヨシュアを無茶苦茶にしておいて何の贖罪も無く仲良くしましょうと言われても無理な話に聞こえる。

「難しい話だな……」

「理屈は簡単よ」

「ラーマ、ひとつ聞いて良いか?」

「何でも聞いて頂戴」

「和平派の考え方の人ってのは多いのか?」

「組合の中でもまだ一割くらいでしょうね。もっとも組合本部は新首都のトラスニークにあるからそう考える人は少ないわね。でもリードヒルを含むヨシュアの西側ほど和平派の人達が多いわ」

「それってウラ鉄に支配されているからか?」

「そうとも言えないわ。ウラ鉄の考え方は別に和平的って訳じゃ無いから。むしろ長引く戦いへの厭戦気分からでしょうね。でもその事で面白い話があるの。あなたが来る数か月前の事よ。リードヒルのある西側でウラ鉄との共存の是非を巡る住民投票が行われた。その投票の結果、ウラ鉄受け入れが過半数越えていたの」

「それって本当の事か?!」

「揺るぎない事実よ。理由はどうあれ西の人々は和平を望んでいるのよ。多分、トラスニークと違って国内の主戦場だから肌身で戦争の辛さが身に染みてるんでしょうね」

「……」

 この国には戦いを望む者と拒む者が居る事は確かだ。だが誰もが自らの信念に従って己の舵取りをする。

 ならばそんな人達の思いが詰まったこの戦争は一体、どこに向かおうとしているのか?

 そんなカナセを見かねてラーマが最後に言った。

「迷っているのなら、もっと色々な人の意見も聞いてみるのも良いわ。まだ時間はあるし急ぐことはない。でもカナセ君、この戦いに参加している以上、この国にとって何が正しいではなく何が一番幸せか、その答えは必ず出さなきゃならない日が来る。それだけは忘れないで」

 一旦、ラーマとの会話が途切れるとカナセはケルピーの操縦に集中した。

 訓練を兼ねているとはいえ、ここは艦隊の外だ。ウラ鉄に所属する奴等の水軍とうっかり出くわす可能性もあった。

 そんな中、前方でカナセが何かを見つけた。

「少尉、前方約3㎞。コアの反応を確認。数は2つ。恐らく4番コア。その場で止まったままでいる。肉眼で見えるか?」

 カナセが自分のコアの索敵範囲ギリギリの場所で前を行くカスケードに警告する。

「いいや、何も見えない。何だろう? 艦艇か? 漁船か何かじゃないのか?」

 マリウスから無線が返ってくる。

「そうかもしれない。取り合えず注意してくれ」

「了解」

 その後、二艘の高速突撃艇はコアの反応のあった場所に到着した。しかし周囲を見渡しても水面には艦影どころが小舟一艘の姿も見えない。

「何も見当たらないぞ。カナセ、コアの反応は?」

「健在だ。水中の中だ」

「沈没船じゃないの?」

 横でラーマが答えた。

「そうかも……。どうする、少尉? 止って調べるか」

「いや、このまま一旦、離れよう。自分達の任務はダグウィードに二人を送り届ける事だ。あちらへの到着に遅れる方が良くない」

 そうマリウスが答えると二隻のケルピーはコアの反応のあった水面から離れていった。

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