第350話 不良メイド
その後、新たに空いたスロットには関連スキルを会得させるようにと念を押し、今度の活動についての説明を行った。ハルは目を輝かせ、千奈津は溜め息を漏らし、刀子からは意味深な瞳でがん見される。そんないつもの空気の中で講義が終わると、ネルは千奈津を連れてさっさと鍛錬場へと向かってしまった。何でも、覚えた固有スキルの練習をするらしい。そういやあの固有スキルの読み方、まだ教えてもらってなかったな。結局何だったんだろうか?
「え? リリィヴィア様が目覚められたら、もう出発されてしまうんですか?」
「ああ。名残惜しいけど、先を急ぐ理由があってさ。2、3日後にアル・ノヴァを出て、リムドの巣がある竜神の島に向かおうと思う」
廊下を歩きながらハルと固有スキルの確認をしていると、たまたまゼータと遭遇。ちょうど良いので、俺達の出発予定を話しておく事にした。
「そうだったんですか。この数日間、とても仲良くして頂きましたから、いざ離れるとなると寂しくなりますね……」
「うう、私も寂しいです…… あ、そうだ! ゼータさんも一緒に行きましょう! そうすれば寂しくありません!」
「こらこらこら、急に何を言い出すんだ? ゼータが困るだろうが」
「フフッ、お気持ちだけ頂きますね。ゼクス様より依頼された仕事もありますし、私もそろそろスノウテイルへ戻らなければならないので。アレゼル様もジバ大陸にご用事があるようですので、日程を調整次第ご一緒させてもらおうかと」
「何だ、アレゼルもここで離脱か。あれでも大企業の社長様だし、まあ忙しいよな」
「うう、寂しいです……」
あわよくば飛空艇を借りられれば、なんて都合の良い考えをしていたんだが、どうもそれは無理そうか。竜神の島はゼン大陸最北端の、更に北へ進んだところに位置する島だ。国内を移動するのとは訳が違い、歩いて行くにはあまり現実的ではない距離である。しかし、だからといって走って行けば以前のデスマーチの二の舞だ。ううむ、俺達に未来はないのか?
「ハル、間違ってもネルに移動方法は何なのかって聞くんじゃないぞ? あいつの事だから、ダッシュ&遠泳で良いじゃない! で、話が止まっちゃうから」
「え、それじゃ駄目なんですか?」
「お前とネルが良くても、俺と千奈津が駄目なの。出発日までに俺が何とかしとくから、絶対に口走ったら駄目だ。これは振りでも何でもないぞ、オーケー?」
「流石は師匠、頼りになります! オーケーです!」
ビシッと親指を立て合う俺達。さ、俺達もネルに倣って、固有スキルの鍛錬をしますかね。
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ミーティング室を出た後、刀子はリリィヴィアが眠る寝室へとやって来ていた。講義と称してデリスとネルが話した内容を、師であるリリィに伝える為だ。
「―――って事で、リリィ師匠。師匠が起きたらこの国を出発するって、旦那達が言ってたぜ。 ……なあ、聞いてっか?」
「すぴー……」
「いや、聞けよ! 自分で弟子の俺に伝言役を頼んだんだろっ!?」
が、肝心のリリィはベッドの中ですやすやと鼻ちょうちんを浮かべるほどに惰眠を貪っており、一向に起きる気配がない。今この場には大八魔仲間のアレゼルやゼクスがいない為、リリィはただの駄メイドと化していたのだ。昨日火血バレーにて、悠那並みの華麗な技術を披露した人物とは思えない、大変幸せそうな寝顔である。
「う~…… うりゅしゃいにゃ~。聞ぃてる聞ぃてる、超聞ぃてりゅよ~」
「そのあざとい話し方、お願いだから止めてくれよ。たぶん旦那、そういうの好みじゃないぜ?」
「マジで?」
「マジだよ。つか、割かし意識ハッキリしてんじゃねーか! さっさと起きろ!」
「うぇー……」
仕方ないといった様子で、上半身だけベッドから起こすリリィ。ついでに長い長い欠伸を盛大にして、その紫の瞳に大粒の涙を浮かべた。
「トーコちゃん、最近私へのリスペクトが足りなくない? ご主人様には熱い視線を向けてるのに、私には面倒臭い上司に向けるそれになってるよ?」
「よく分かってんじゃねーか。胸に手を当てて自分の行いをよーく思い起こせば、普通に分かるもんだと思うぜ?」
「しょ~がないじゃ~ん、これが私の真の姿なんですもの~」
「うわ、暴れんなよ! 子供か!?」
リリィは再びベッドへ寝転がり、ジタバタと両手両足をバタつかせる。こんな細腕ではあるが、ステータス上のリリィの腕力は、フンドよりも数段高い。その為レベル8に到達した刀子でも、これを止める事は困難を極める。下手をしたら、触れた瞬間に怪我をしてしまう強烈な攻撃なのだ。
「やば、疲れた……」
「前々から思ってたけど、リリィ師匠って馬鹿だよな? 特大ホームラン級の馬鹿だよな?」
「そんなお馬鹿さんに更生させられた不良は、一体どんな顔をしているのかなぁ? やっぱ感謝の念が足りんよ、君ぃ~」
「ずっとこんな調子じゃ、誰だって愛想を尽かすわ! ああっ、ベッドの上で菓子袋を広げるなって! 菓子屑が落ちるだろーが!」
そう言いながらも、テキパキと掃除を進めリリィの世話をする刀子。すっかりと習慣が体に染み込んでしまったというか、何だかんだ言いながらもやる事はやるのである。
「それにしても竜神の島、リムドのいるところか~…… 今まで要注意吸血鬼なママばかりに注意がいってたけど、あそこも大概なんだよね~。いくらトーコちゃん達が強くなったんだとしても、生きて帰れるか微妙な線っぽい。そしてクッキーが美味しい、実に美味」
寝ながらモグモグとクッキーを咀嚼するリリィが、意味深で不吉な内容を咀嚼音の間に挟み込む。そろそろぶん殴ろうかと考えを巡らせていた刀子であるが、リリィのあまりのやる気のなさに拳を下ろすのであった。
「駄メイド師匠、せめてそれっぽい事を言う時くらい、キメ顔の1つでも作ってくんねぇ? ったく、その意味深な言葉に反応しなきゃなんねぇ俺の身にもなってくれよ。もっと深刻に反応してやりてぇのに、全然雰囲気が乗らねぇよ」
「やーよ? そんなの、常時キメ顔なママみたいだもん。あと、駄メイド言うな。それを言って良いのは、忠誠を誓ったご主人様だけだから~」
「クッキー食いながら忠誠云々言われたって、旦那は嬉しくねぇだろ」
「本人の目の前じゃないから良いの」
クッキーを大方食べ終わったリリィは、それで満足したのか布団にくるまり始めた。うつらうつらと瞼が重くなっていき、もう眠る寸前といった様子だ。
「ふぅああ…… まあ、安心しなよ。次に目が覚めたら、私がトーコちゃん達を鍛えてあげるからさぁ~。たぶん、2日後くらい……? それまでは、ハルちゃん達と適当に鍛錬しといてぇ……」
「うわー、微塵も安心できねぇ発言。分かった分かった。適当に世話もしといてやるから、さっさと寝てくれ」
「うーい。ところでトーコちゃんさぁ…… 何でメイド姿なの?」
「てめぇが世話する時は着ろっつったんだろうがぁーーー!」
ベルセルクの乗った刀子の拳が放たれるも、リリィはこれを華麗に回避。そしてベッドから転げ落ちた。




