第295話 脱ジバ大陸
解体作業を終えた俺達は、次に剥ぎ取った毛皮等々を鞄にしまうなり、飛空艇に運ぶなりして運搬に移った。が、親玉はサイズがサイズ、それも毒で侵され扱うにしても大変危険な状態である為、一度に運ぶのは断念せざるを得なかった。アレゼルが別の輸送船を手配してくれるらしく、一先ず余った分はここに置いておく事に。ご丁寧に、これら素材はまとめてゼクスの国に送られるそうだ。
「何から何まで御助力してくださり、ありがとうございます。こんなにも良くして頂いたと、ゼクス様に必ずお伝え致しますので」
「いやいや、あたしは人として、エルフとして当然の事をしたまでで~。困った時は助け合いの精神! 決して見捨てはしない! これ、クワイテット社の社是ですねん。ま、挨拶もまた基本やし? ゼクスはんにはよろしく伝えてぇな。むふふ」
どうしたら人が、いや、エルフがあんな胡散臭い話し方ができるようになるのかと、不思議になるレベルで胡散臭い。しかしながら、対するゼータは純粋に感謝の気持ちしかないようで、どこまでも真面目だ。頼むから、あの卑しい顔にほんの僅かでも疑問を抱いてくれ。こっちが心配になってしまう。
「デぇリスぅ、また失礼な事考えてん? あたしってエルフは、善意の塊やで?」
「本当の善人はそんな事言わないんだよ…… ところでゼータさん、これから君はどうする? 悪いが、ハルと千奈津はここから飛空艇で別大陸に渡らせてもらうから、帰り道はご一緒できない。街に帰るのなら通り道だし、心優しいアレゼルさんが船に乗せてってくれると思うぞ?」
「おっ! 何だかかんだ言って、デリスも分かってるやん! 乗せるで~、めっちゃ乗せるで~」
俺もアレゼルを乗せただけです。
「そうですね、素材一式は送って頂けますし…… 一度、ゼクス様がいらっしゃる『アル・ノヴァ』に渡りたいと思っていました。ご迷惑でなければ、その……」
「お、それなら行先は同じゼンの大陸やん! ええよええよ、お姉さん送ったるよ! ちゅうか、どうせ荷物も一緒やし」
「よろしいのですか?」
「わあ! それじゃ、また暫くは一緒だね、ゼータさん!」
こうして、ゼータもアレゼルの飛空艇に乗る事に。改めて考えてみると、この船の中には俺の弟子であるハル、ネルの弟子の千奈津、リリィの弟子な刀子、ゼクスの弟子(?)みたいなゼータがいる事になるのか。ちょっとしたブームみたいだな、弟子ブーム。
「今更ですけど、船、おっきいですねー」
「うーん…… あのボス猿を見た後やと、何となくインパクトに欠ける感もあるけどなー……」
船、もとい今回の旅で乗せてもらうアレゼルの飛空艇は、船員を含めて百人が乗れる代物だ。この世界に超限定的にしか存在しない、超希少品でもある。実質ゼクスのとこでしか製造されておらず、販売される事もない為、どんな大国の王だろうと個人使用はまずできない。アレゼルがクワイテット商事の移動手段として使えるのは、このスノウテイルの国と同じく、ゼクスと数少ない利害関係者である為。でなけりゃ俺だって所有したいわ、こんな便利なもん。
「何というか…… 凄くSFチックなデザインですね。これ、現代の技術超えてませんか?」
「部分的にはそうだろうな。やっぱ魔法の存在が大きいし、ゼクスはその上で科学技術を使うから…… 差し詰め、魔法と科学の夢の共演ってやつだ」
「それなら、武器とかも期待できそうですね!」
ハルはメイドイン・ゼクスの軍事部門に大変興味があるようだ。将来の夢は、レーザー光線を合気で跳ね返す事です! なんて夢を語りそうで怖い。そして実現させそうで恐ろしい。
「さ、お喋りは船ん中でもできるさかい! まずは乗った乗った! 全速前進でゼンの大陸に向かうで~」
「では、お邪魔します!」
「おう、邪魔されるわ!」
パンパンと両手で手を叩くアレゼルに催促されながら、俺達は飛空艇へと乗り込むのであった。
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飛空艇が発進してから間もなくして。それはジバ大陸を抜け出し、いよいよ広大な海へと向かおうか、という時に起こった。
「罰ゲームタ~イム♪」
「「いえ~い……」」
嘘みたいに晴れやかな笑顔を浮かべるネルと、この世の終わりみたいなノリで合いの手を入れる、俺と千奈津。両極端な陽と陰の感情は決して相容れず、俺ら2人は早くこの時間が去ってくれる事を願うばかりだった。
「お、何か面白そうなもんが始まったなぁ」
「絶対に罰ゲームを被らない位置にいる奴は、そりゃ良いだろうよ。面白いだろうよ……」
というか、お前があそこであんな事を言わなければ、こんな事には……! 一瞬でもこいつを天使だと思ってしまった昨日の俺を殴りたい。殴って目を覚まさせてやりたい! そいつは天使の面を被った、悪魔的腹黒エルフだって!
「ええっと、まずは千奈津からね」
「は、はい!」
「雪山での討伐数、3人の中で少なかったら罰ゲームって話だったけど…… 貴女自身としては、体感的にどうだったかしら?」
「……自分としては、一番倒したと思います」
にこやかなネルの笑顔をしっかりと見据えて、千奈津はそう言い切った。おお、千奈津神、ナイスガッツ……!
「ふむ。ハルナとゼータはどう思う?」
「ビリっけつは私かな、と。親猿さんを倒したのは私でしたけど、やはり後方支援だと数はこなせなかったので」
「ハルナさんとチナツさんの意見に同じです。私も前衛として頑張りましたが、鬼気迫るチナツさんには敵いませんでした」
「なるほどなるほど」
「「………(ゴクリ)」」
隣に正座する千奈津に釣られて、俺まで唾を呑み込んでしまう。結局のところ、この判定は自己申請に任せる形になってしまうからな。やろうと思えば、ハル達の中で話を合わせて、数の調整だってできるんだ。後は審判役のネルがどう思うか、なんだが―――
「よし! よくやったわね、チナツ! 師として誇らしいわ!」
「あ、ありがとうございます!」
ネル判定、セーフ。分かっていた事ではあるが、なかなかの緊張感だった。ハルや千奈津が嘘をつく筈がないし、自分でそう申請した時点でセーフはセーフだろう。
「こ、こう、かしら?」
「……え、ええと?」
なで…… り、なで…… りと、ネルがかなり残念な感じで千奈津の頭を撫で始めた。前回のが首の骨を外す勢いの高速なでなでだとすれば、今回のは生まれたばかりの子犬に触れるが如くの超スローなでなで。前の反省を活かそうとしているのは痛いほど理解できる。が、こいつは流石に不器用かとツッコミを入れたい衝動に駆られてしまう。褒め慣れていないにもほどがある。
「不器用かっ! こうやろ、もっと普通に撫でて褒めればええやろ!?」
「ええっ、そんな事言ったって……」
「い、いえっ、十分嬉しいですっ! 大丈夫ですっ!」
うん、代わりにアレゼルが突っ込んでくれた。よく分からないが、ダマヤの商人魂が騒いだんだろうか? 何であれ、千奈津の罰ゲームはこれにて消滅した。
―――で、本当の問題はここからな訳なんだが。
「ほな、ネルが褒めるのに悪戦苦闘しているから、ここからはあたしが進行したるで。罰ゲームタ~イム♪」
「心底嬉しそうだよ、このエルフ……」
「あん? 何かゆうたか、ビリっけつのデリス?」
「いえ、何にも」
そう、解体作業を効率良く行えなかった俺は、見事最下位の地位を掴み取ってしまった。それもこれも、俺の近場にあったモンスターばかりから解体しやがるアレゼルのお蔭だ。フハハ、最初から嵌める気だったなこの野郎。
「ハァ…… 茶番はもういいからさ、本題にさっさと入ってくれ。こんな遠回しに言わなくても、お前の口から言ってくれればやってやるっての。何の仕事の依頼だよ?」
「流石デリスは話が早いなぁ。ハルちゃんの師匠なだけあるわ。あたしがハルちゃん達に稽古つける代わりにな、ちょっちやってほしい事があんねん」
見た目だけは美少女なアレゼルが、素材を殺す事なく見た目通りに微笑む。それはエルフの造型としては自然な事なのだが、俺としては酷く不気味な事だった。




