第294話 つまらないものですが
アレゼルの飛空艇を降下させて、廃村の近くに着陸。昨日とは偉く違うレベルで天気は良く、船は殆ど揺れる事がなかった。快適な船旅を約束するクワイテットフライトなだけはある。
「おーい、元気に生きてるかー?」
「あ、師匠!」
謎の黒い山がすぐそこに置かれていて少し心配していたけど、ハル達は元気に俺らを迎えてくれた。
「……いや、声は元気だけど。一体どうした?」
「えへへ、魔法を使い過ぎました」
千奈津とゼータが立って出迎えてくれたのに対し、ハルは地面に仰向けになって寝転んでいる。ステータスを確認してみれば、MP残量がもう殆どない。ハルが言う通り、徹底的に魔法を使い込んだみたいだ。
「そんなに強い敵がいたのか? 良いとこレベル5のモンスターくらいだって、アレゼルから聞いていたけど?」
「予定ではそうだったんですが…… 予定外にこれが出てきまして」
「これ?」
「この山みたいなモンスターですよ、デリスさん」
寝転んで上手く伝えられないハルの代わりに、千奈津が指を指してフォローしてくれた。
「……あ、モンスターだったのか、この黒山!」
「言われてみれば、これって黒い毛玉だったのね。こんな雪山じゃ、目立って擬態にならなそうだけど」
「えっと、今は真っ黒なんですが、最初は真っ白だったんです。悠那と戦っているうちに、こんな色合いになってしまいまして―――」
更に千奈津が状況説明をば。かくかくしかじか、と。なるほどな。
「―――はぁー! このでかいの、ジャイアントフィンドの親玉かいな! 元々山奥に隠れ住んどったモンスターやけど、こんな個体がおったんやねぇ~」
「このモンスター、今まで単体でしか見つけられてなかったんだろ? これ、結構な大発見かもな」
アレゼルから船の中で聞いた話になるが、スノウテイル産の特定危険種に指定されているジャイアントフィンドは、これまで雪山の遭難者達からの目撃情報をもとに、英雄クラスの冒険者によって討伐されていた。だが、そのどれもが単体行動する者達で、これだけの群れになるなんて話は前代未聞。千奈津の話によれば隠密行動を得意としているようだし、今まで雪山の奥地に隠れ住んでいたのかもしれない。遠目だと、どう見たって山にしか見えないもんな、このサイズだと。
「差し詰め、こいつはジャイアントフィンドの成体、ジャイアントジャイアントフィンドってところか」
「師匠、それはないです」
「デリスさん、私もその命名はどうかと思います」
「デリス、センスを疑うわ」
ちょっと君ら、辛辣さがネルに似てきてません? おじさんのジョークは寒いものだけど、もっと優しく包み込んでくれても罰は当たらないと思うよ?
「おおっと! これはこれは、メイドイン・ゼクスのゼータはんじゃありまへんか? こんな場所でお会いできるとは、奇遇でんなぁ!」
「アレゼル様こそ、船を使ってなぜここに?」
「まあまあ、細かい事はお気になさらず。これ、つまらないものですが~」
「あ、これはどうもありがとうございます。ええっと…… おおきに、でしたっけ?」
「ふあ~! ゼータはんはめっちゃ勉強家でんな!」
こっちはこっちで、唐突に始まるアレゼルの営業トーク。エルフとしては有り得ぬ動作だけど、ぺちんと自分の頭を叩く音が小気味好い。うん、あの2人は一先ず置いておこう。
「で、このジャイアントフィンドのボスをハルが1人で倒したのか? 魔法だけで?」
「すっごく頑張りました! あと、お腹も空きました!」
千奈津に茶色い棒状のものを渡され、それをモグモグと咀嚼するハル。何それ、甘い匂いがするけど? チョコバー的な何か?
「悠那が1人で戦ったのは本当です。魔法しか使えない制限下だったので、結構時間は掛かっていましたけど…… 大体、ネル師匠達の乗って来た船が見える30分前まで、ずっと通しで戦っていた感じです」
「ほう、言い付け通り魔法だけでか!」
「ギィ君に血を吸わせたり毒を盛ったり槍を刺したり、色々やりましたよ~。体が大きい分、毒を巡らすのも一苦労で…… ふう」
チョコバーを数本完食して、漸く立ち上がるハル。応急のエネルギー補給は無事完了、といったところか。 ……ギィ君って何だろう?
「毒責めをした結果、白かった毛が黒くなった訳か」
そこら辺に倒れてる奴らの中にも、毛が黒くなってるのが所々にいる。それはハルが倒した分で間違いなさそうだ。
「あ、そうだ! すみません師匠、今から解体作業に入りますので、お時間頂ければと!」
シャキンとポーチから狩猟ナイフを取り出すハル。やる気なのは良いけど、今からこれ全部となると、あのボス猿も含めれば相当な時間になってしまう。いくらハルと千奈津が解体作業に手慣れてきているとはいえ、これはきつい。
「まあ待て。ここに解体作業のスペシャリストがいるから、今回はそいつにも御助力願おう。おーい、アレゼル!」
「聞こえてるわ! 誰がスペシャリストやねん!」
「ハハハ、決まってるじゃないか~」
「デリス、あたしがタダ働きするような女じゃないって事、よ~~~く知っとるやろ?」
そんなもんは一般常識レベルの知識だろ。言われなくても、よ~~~く知ってるわ。
「アレゼル、そういうお前は知っているのか? このジャイアントフィンドの素材、そこのゼータ様の御所望品なんだ。目の前で顧客が汗水垂らして解体仕事してるってのに、お前さんはそれを茶をすすりながら眺めているだけなのか?」
「な訳あるかいっ! ゼータはんも人が悪いなぁ。それならそうと、この剥ぎ取り職人のあたしにゆうてくれれば良かったのにぃ~」
「え? あ、はい、すみません……?」
「ではでは、あたしもお手伝いしますんで。ま、5分もあれば十分や。おーい、あたし専用道具持ってきてぇな!」
部下に飛空艇の中に置いていた道具を持ってこさせたアレゼルは、それはもう目で追えない速さで手を動かし始めた。こいつ、顧客の前だと驚くほどちょろいぞ。口実を仕組んだ俺の方がびっくりしてしまった。
「あ、黒い獲物は私がやりますよ。毒で危ないので!」
「アッハッハ! ハルちゃんは気が利く娘やな~。でも心配あらへん、世の中にはもっとごっつい猛毒もあってな、それを解体するのもあたしが一番得意だったもんや。ぶっちゃけ、デリスよりよっぽど上や!」
「本当ですか!?」
「ぐっ、痛いところを……」
「まあ、事実ね。デリスは専用スキルがない癖に解体作業が信じられないほど上手いけど、アレゼルのはその道を究めてるから。ま、相手が悪過ぎるのよ。大方、スキルの枠が勿体ないからって、ハルナにも『解体』を覚えさせてないでしょ?」
「う……!」
異様に鋭いね、君!
「えー、それこそ勿体ないわー。限られた資源を最大限有効活用できる、ええスキルやで?」
「その点は認めるけど、魔法使いとしては微妙だろ。お前みたいに職業に合ったスキルって訳でもないんだぞ?」
「ハルちゃーん、解体スキルはええスキルー。取らなきゃ損損、なんやで~♪」
「そ、そんなにですか……!?」
「おい、俺の弟子に変な歌を吹き込むなっ!」
ちょろいなんて前言撤回! 油断も隙もないね、君っ!
「あの、元々私がお願いした依頼でしたし、私も……」
「私もお手伝いしますよ、アレゼルさん!」
「それじゃ、微力ながら私も」
「おう、なら1つ勝負しよか~。全部解体し終わるまでに、一番数が少なかった人は罰ゲ~ム。はい、スタート!」
それって、アレゼルは絶対罰ゲームにならないパターンじゃ……
「何余裕かまして突っ立っとるんや、2人とも。当然デリスとネルも参加企画やで?」
「「は?」」
その後、全ジャイアントフィンドの解体は3分で終わった。




