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第166話 決勝

「時間となりました。これより、チナツ・ロクサイ選手とハルナ・カツラギ選手の決勝戦を開始致します。両選手は舞台へおいでください」


 卒業祭のラストを飾る大舞台。その開始時間が迫り、放送部による全体連絡が成される。粉砕されてしまった舞台も今ではしっかりと修復され、再び新品となって蘇っていた。観客達は随分と前に着席して、まだかまだかと時刻を確認してばかり。それほどに、この決勝戦に期待していた。


「いよいよですわね。ハルナさんとチナツさんの戦い、この瞳に焼き付かせて頂きますわ!」

「結局最後まで観客席ここにいましたね、テレーゼお嬢様……」


 そう、とっても期待しているのだ。


 時同じくして、デリスとネルの話し合いにも区切りが付いたようである。今は2人仲良く、主賓席にて舞台を見下ろしている。


「おい、ネル。何で腕に抱きついているんだ?」

「試合中、デリスが何をするか分からもの。だから何が起こっても良いように、こうして密着しているの。決して他意はないわ!」

「そ、そうか……」


 ……密室である事を良い事に、ただただいちゃついているようにしか見えないが、一応は試合の行方を見守っている。


 そんな師匠達の行動など露知らず、悠那と千奈津は舞台へ上がっていた。この決勝にて、遂にドッガン杖の使用を解禁された悠那。既にグラヴィを使っているのか、その足取り、足音はこれまでよりも軽い。一方の千奈津も既に抜刀を終えており、炎魔剣が紅き刀身を晒している。千奈津の体にも凄まじい魔力が巡っている事から、彼女の奥の手であるアルマディバインブレスが施されているのが推測できた。両者とも、万全を期しての登場だ。


「千奈津ちゃん、よろしくねっ!」

「悠那……」


 開始線に立って、一度深呼吸。心臓の鼓動を感じながら、悠那の目をしっかりと見据えて言う。


「私、絶対に負けないから。勝ちたいのなら、全力で向かって来て」

「うん、そうする。いつも通り、全力でいくね!」


 想いを言葉にして、ゾクリゾクリとまた体が反応する。


(そう、そうだった。悠那はいつでも私を対等に見てくれていて、全力だった。一歩下がるなんて慢心をしてちゃ、勝てるものも勝てなくなる。これで、真に悠那と向かい合える……!)


 千奈津が纏う空気の色が変わる。色といっても、それは肉眼では確認できないもの。だが、悠那はそんな千奈津をジッと見て、少し口元を緩ませた。


「両者とも、準備はよろしいですね?」

「はいっ!」

「いつでもっ!」

「それでは――― 試合、開始ぃ!」


 高らかに宣言された、今日一番の開始合図。両者の姿はその場から消え、小細工なしに真正面へ駆け出していた。悠那の力強い踏み込みはそれだけで舞台を砕き、地を踏み締める度に穴を開けていく。千奈津の足取りは逆に静かで、実に滑らかなもの。駆けている足音は無音に近く、だというのに悠那よりも速い。両極端な2人がぶつかるのに掛かる時間など、瞬きの間で十分。観客達の認識の外で、2人は間合いに入っていた。


「ハアッ!」


 まず振るわれるは、リーチの長い悠那のドッガン杖。直撃の瞬間まで極限に軽量化して、悠那の両腕から放たれる打撃と斬撃の複合攻撃。それは王子の木製長剣など、比較対象にならないくらいに鋭利かつ迅速。ドッガン杖の持ち主以外の魔力を弾くという性質上、当たりでもすれば、如何にアルマディバインブレスを施している千奈津といえど、ただでは済まない事は確実。


 横殴りに広範囲を巻き込むドッガン杖の攻撃。今卒業祭で初めて使用された凶悪なる杖は、その名の通り何もかもを轟音と共に粉砕して見せた。一振りで舞台を真っ二つに叩き割り、千奈津側の面を斜めになる形で宙に浮かせたのだ。圧倒的暴力によって、完璧に修繕された舞台は開始1秒と持たずに破壊された。舞台製作功績者達の悲鳴を聞く間もなく、更に戦況は動いて行く。


(本気だ。悠那は本当に、本気だ……!)


 嬉々とした気持ちでいる千奈津は、衝撃で浮かされた舞台の上にいた。傾斜45度で傾く舞台に張り付くように、姿勢を低くしたまま悠那の姿を脳裏に焼き付ける。心の躍動が炎魔剣にも伝わったのか、刀身に灯される炎は激しさを増し、今にも爆発しそうな様子になっていた。


 ……だが、まだこれを使う時ではない。次の手は、もう2人とも打っていた。


「クライムランス!」

「グリッターランス!」


 地上に展開される黒の槍、空に展開される白の槍。数えるのも億劫になる数多のそれらが槍先を互いに向け、射出。高速で飛来して、ぶつかって、辺り構わず散って――― 魔法の殴り合いは卒業祭が許容するスペース全ての空間で行われ、最早決戦場は白と黒でしか判別ができない。


 一見互角にも見える激突であるが、実際はそうでもない。見る者が見れば、槍数は千奈津の白の方が多く、衝突した際の勝敗も明らかに白が押していた。単純な魔法のぶつけ合いになれば、悠那が千奈津に勝てる道理はないのだ。


(やっぱり凄いなぁ、千奈津ちゃんはっ!)


 ドッガン杖を盾に黒槍を突破してきた白槍を防ぐ悠那は、千奈津が漸くその気になってくれた事に心躍らせる。昔から千奈津は人を立てる事ばかりで、自らの気持ちを優先させる事がなかった。そんな千奈津が、この戦いで自らの勝利を求めている。悠那は心から喜び、真心を尽くして千奈津をぶっ潰そうと誓った。


 突き刺して盾にしていたドッガン杖を舞台から抜き、すかさず振り上げる。その間の回避は自力で処理、軽快なフットワークは大型武器を持つ者の動きではなかった。


「ほっ!」


 悠那が振り上げたドッガン杖を、思い切り叩き付ける。標的は、自らが乗る舞台だった。悠那が乗る舞台は、試合開始と共に真っ二つにされた片方側。それがこの第2撃で更に砕かれ、大小様々な形状の瓦礫と化す。自ら形成した瓦礫の中から、悠那は比較的大きなサイズのものを瞬時に選択して、手に取る。こうなれば後はどうなるか、もう分かるというもの。


「「あー……」」


 デリスとネルは声を揃えて次の展開を予想した。そう、悠那お得意のアレである。


 ―――ギュン!


 悠那は自らの身長の2倍以上もあろう瓦礫を拾い上げ、千奈津に向かって投擲した。瓦礫自体の強度はそこまででもなかろうと、そのサイズは脅威。剛速球で繰り出された弾丸は、降り注ぐ白槍を一身に受けながら突き進み、千奈津へと到達する。


(前よりも速いっ……!)


 舞台から空中に飛び移り、瓦礫弾を回避する千奈津。瓦礫は千奈津のいた場所に衝突して、斜めっていたもう片方の舞台を一切合切粉砕した。だが、脅威はそれでは終わらない。最初の瓦礫の影に隠れるように、次の弾も放たれていたのだ。千奈津がどこに飛ぶのか予測していたのか、その瓦礫は正確に千奈津を狙っていた。


「―――っ!」


 炎魔剣を振るい、瓦礫を斬る。瓦礫はバターの如くあっさりと分断されて、千奈津の横を通り過ぎる頃には炎で包まれていた。 ……だが、それでもまだ、脅威は過ぎ去っていない。その瓦礫の奥には、漆黒の凶器を携えて飛翔する悠那がいたのだ。危険察知スキルが瓦礫奥を猛烈に警戒したと思った矢先、これである。


「そうくると思った!」

「さっすがっ!」


 紅き剣と黒の杖が交わり、爆風が辺りに散らばった。

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