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第164話 大事な話をしよう

 ここはネルの主賓席。準決勝終了後、俺はハルを連れてネルと千奈津に会っていた。決勝? 残念だが、まだ会場準備に時間が掛かっているんだ。ハルが王子を攻撃するついでに、新品同様の舞台を真っ二つにしてしまったからな。今はまだ、運営の方々が汗水を流して頑張っている最中。俺達に手伝える事なんてものはなく、こうして心から応援するしか支援方法はない。


 ……まあ、というよりも、それ以上に1度話しておかなければならない事があった。


「さあ、いよいよ決勝だ。例の約束、ちゃんと覚えているか?」

「当たり前じゃない。何の為に卒業祭にハルナとチナツを出したと思っているのよ?」

「え? あの、正式にお城に入れる資格を得て、魔王の討伐に参加する為じゃ?」

「「………」」

「す、すみません。何でもないです……」


 空気に流されて謝ってしまう千奈津の言い分も分かる。確かにそれは当初の目的だった。ただ今となっては、俺の人生が掛かった一大イベントへと早変わりしてしまっているんだ。もうハルと千奈津は2人とも決勝に進んだ事だし、第一の目標は達成していると言っても過言ではない。ならば、今優先すべきがネルとの結婚後の生活が決まる、決勝戦の勝ち負けである事は明白。今のうちに取り決めの最終確認をしておかねばなるまいて。


「はい、師匠! 私も気になっている事があるのですが!」


 しかし、鋼メンタルなハルには空気もクソも関係ない。こんな時でも何の躊躇いもなく話し掛けてくる。俺とネルは少し毒気を抜かれて、肩の力もついでに抜いた。


「手短に頼む」

「決勝に見事私と千奈津ちゃんが残った訳ですが、ウィーちゃんが敗北した今、ヨーゼフさんを放置して良いのでしょうか?」

「学長と共にリリィに監視させている。潔く諦めるなら、それで良し。何か企んでいるようなら、それはそれで良し! 今はヨーゼフそんなものよりも、こっちが優先事項だ。以上」


 ネルがうんうんと頷いて同意してくれる。一方で千奈津は「正気かよ?」みたいな顔をしているが、俺達は正気も正気だ。どう転ぼうと、後は勝機を掴むだけの簡単なお仕事。それでも対抗してくるようなら、もう暫く遊ばせてもらうだけだ。


「なるほど、了解です! 更にもう1つ質問です!」

「手短に頼む」

「先ほど師匠はネブルさんのセコンドをされていましたが、そちらのお見舞いには行かなくて良いのでしょうか? 師匠が無償で人助けをするなんてあり得ませんし、何らかの協力関係にあるんですよね? 師匠の支援があるからと、後半に私、結構ムキになって攻撃してしまいまして……」

「不要だ。あれはハルの為に用意した、ただの練習用サンドバック兼次期国王。外傷はないし、急所もしっかりと護ってやった。試合後に魔法でメンタルのケアもしておいた。後は王子の御友人達と時間が何とかしてくれる。今はディアス王子そんなものよりも、こっちが優先事項だ。以上」


 ネルがうんうんと頷いて同意してくれる。一方で千奈津は呆れて物も言えない顔をしているが、お前はいい加減に表情に感情が出てしまうその癖を何とかしろと。そうする毎に俺がセルフツッコミを心の中でしている事を、どうか忘れないでいてほしい。


「お蔭様でスッキリです! ありがとうございました!」


 満足して着席するハル。


「よし! 千奈津、折角だからお前も聞きたい事を今のうちに吐き出しておけ。その方が決勝で心置きなく戦えるだろ?」

「そうね。チナツ、何かあるかしら?」

「私、ですか? ええっと…… それじゃあ、1つだけ。卒業祭の優勝者と準優勝者、その2人だけが城の重要ポストに就ける事になるんでしょうか? 準決勝で負けはしましたが、ウィーなどは十分にその実力があったと思います。学院始まって以来の天才と称されるくらいでしたし……」

「何だ、負けた奴の心配をしていたのか?」

「えっと、すみません……」


 ハルと同様に何か聞きたそうな顔をしているかと思えば、千奈津は慈悲深い奴だな。流石は僧侶。そういえば、ハルと千奈津はウィーレルと友達になったんだったか? まあ、友達を降して進路を変えてしまったとなれば、気になってしまうのも無理ないか。ハルの場合、こういった勝ち負けには結構シビアで、決まった事には友達だろうと容赦ないからな。


「確定で権利を得るのは優勝から準優勝の2人までだが、条件次第ではベスト4の者も可能になる。ウィーレルはヨーゼフの孫娘だし、その辺りは無理矢理捻じ込んで来るだろ。だから安心して良いぞ」

「そ、そうですか。ホッ……」


 安堵する千奈津。まあ、それを利用して王子も捻じ込ませてもらうんだけどな。


「弟子達の疑問も解消した事だし、そろそろ本題に入りましょうか、デリス?」

「ああ、そうだな。どちらの弟子が勝っても恨みっこなし、新婚生活の居住区を左右する真剣勝負だ。ルールは明確にしておこう」

「それじゃ、さっきの試合みたいな手助けはなしにしましょう。チナツとハルナには、己の実力のみで戦ってもらわないと不公平でしょ? 不正は即負け。試合の勝敗に関係なく、私の屋敷で暮らしてもらうわよ」

「自分の愛剣を投じるという、暴挙に出たお人の台詞じゃないな……」

「ふふん、ルールには違反していないわ!」

「実力のみで戦わせるなら、試合中に指示を送るのも禁止だ。視線で誘導したりだな―――」



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



「師匠達、長くなりそうだね」

「ええ。あの調子だと、たぶん始まるまでやってるんじゃないかしら……」


 悠那と千奈津は許可を得て個室の外へと出ていた。デリスとネルの話し合いが終わりの兆しを見せないので、決勝に向けて体を温める名目を使ったのだ。実際は2人とも準決勝にて十分に体を解した為、そんな必要はなかったのだが。


「それにしても、決勝は千奈津ちゃんとの真剣勝負か~。こんな風に大会で試合をするの、いつ振りだろうね?」

「ずっと同じ学校だったから、公式の大会じゃまず当たらないからね。練習なら嫌ってほどぶつかったけど…… 結局、悠那が剣道を始めてひと月後には、全然勝てなくなったっけなぁ」

「えー、そんな事はないと思うけどな~」


 千奈津は中学の頃を思い出す。幼馴染の悠那を剣道に誘って、短期間で追い抜かれて、挫折して――― だけれども、ストイックに突き進む悠那に惹かれて頑張った、とても濃い時間を。


「千奈津ちゃん、私ね…… 今の私があるのは、小さい頃から千奈津ちゃんが支えてくれたからだと思ってる。感謝してもし切れないよ! 今まで、本当にありがとう!」

「ど、どうしたの、急に?」

「えへへ、何となくお礼を言いたくなっちゃって。あ、そうだ。ついでにこれも言っちゃう。千奈津ちゃん、次の決勝戦はいつもみたいに遠慮しないで、本気でぶつかってくれると嬉しいな。私も、千奈津ちゃんがいたからこその力をぶつけたいから」

「……えっと、それはどういう?」

「それは自分で考えてほしいかな! それじゃ、私は軽くランニングしてくるから!」

「あっ、悠那っ!?」


 そう言って、悠那は駆け出して行ってしまった。


「……私が、悠那に遠慮?」


 千奈津の心に、悠那の言葉がこだました。

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