第109話 平和的なお泊り
怪しげな宗教団体をオルト公に引き渡した俺達は、無事に依頼完了のお達しを頂戴する事ができた。途中、本来の派遣要員としてやって来た刀子達についても、俺ら冒険者との知り合いで、協力してダンジョンの探索をしたとして報告。石巨人の体の欠片も渕に渡したし、これで勇者としての面目は保てるだろう。もちろん、活躍の大部分は俺達にあるという事で話は付けている。
新たに発見されたダンジョンについては、オルト公から国へと報告される。捕らえた信者達からの事情聴取も始まるだろうし、1ヵ月もすれば冒険者ギルドから正式に発表、野心に溢れた冒険者達が挑戦するようになるかもしれない。今回俺がマッピングした地図(特別価格で売却済)が、大いに活躍するだろう。ま、お宝は俺達が漁りに漁ったから、暫くは良い噂は聞こえてこないだろうが。
さて、オルト公と私兵の皆さんは、まだまだ後始末やら何やらをしなくてはならないそうだ。報酬金諸々は後日受け取るとして、まずはテレーゼ嬢をお屋敷に送り届けなければならない。尤もこの時点でテレーゼ嬢は目を覚ましたので、背負って行くような事にはならなかった。ギベオン遺跡から少し歩けば、もうジーニアスの街に到着。流れるようにオルト公の屋敷にも到着、である。
「デリスさん、本日は本当にありがとうございました。また、後半はいつの間に眠ってしまい、帰り道でとんだご迷惑をお掛けしてしまって―――」
「いえいえ、あの石巨人を前にテレーゼお嬢様は立派に盾を掲げられたのです。誇りさえすれ、恥じる事は何もありません」
「そう言って頂けると幸いですわ。ですが、私はまだまだ道半ばだと思い知らされたのも、また事実。精進は怠りませんわっ!」
「流石はテレーゼお嬢様です」
テレーゼ嬢は物理的な護りだけでなく、その意志も鋼で構成されているようだ。もしかすれば、卒業祭までに一際成長するかもしれないな。
「それでですね、今回皆様と御一緒する事で新たな目標もできましたの」
「ほう、目標ですか?」
「ええ、是非とも聞いてくださいまし。 ―――私、土魔法を極めますわっ!」
「土、ですか?」
土魔法は大地や植物の力を司る魔法だ。誰かさんが使って見せたように、防御面を強化したりと搦め手もなかなか多い。個人的には光魔法をお勧めしたいけど、土も悪い選択ではない。何よりも鉄壁がより鉄壁になり、相手にするとなれば面倒な存在になる。
「私、これまでは護る事ばかりを考えてきましたが、今日マニさんの魔法を見て、ある種の可能性を感じましたの。これなら、もっと強固な絶対不沈艦に、完全無敵の護り手になれるとっ!」
「ぼ、僕の魔法を? 今日、良いところは全然なかったと思うけど……」
「何を仰いますかっ! 貴方の助けがなければ、今頃オダさんはあの世に直行しておりましたわ。もっと自信をお持ちになって!」
「あの世って…… いや、まあ、ぶっちゃけ死は覚悟してたけどさ……」
眼鏡君がジト目でハルをチラ見するも、当のハルは何処吹く風。まあ、鬼気迫るものを感じたんだろうが、ハルなら殺さないよう全力でやっていただろうさ。完全に敵対していたなら、盾なんて狙わず急所を突いていただろうし。
「ところで、皆様はもう宿を御取りになっておりますの? もう日の暮れる遅い時間です。ジーニアスの街は観光客や学生が多いですから、予約なしではなかなか宿泊できませんわよ?」
「え、マジで? ミスったなぁ。泊まる先なんて全然考えてなかったぜ…… 渕、当てはないか?」
「流石の僕も初めての街だと勝手が分からないかな。僕達、街には寄らずに直接ダンジョンに向かったからね」
「師匠、私達はどうします?」
俺の場合、今からでも当てはある。あるが、この流れはもしや―――
「でしたら、今日は私の家にお泊りになっては? 明日になればお父様もいらっしゃるでしょうし、ちょうど良いですわ!」
「えっ、いいのっ!? ラッキー!」
やはりか。領主の屋敷に宿泊する大義名分は十分に立っているし、その愛娘であるテレーゼのお誘いともなれば断る理由もない。用心深い渕は抜きにしても、刀子や眼鏡君から残りのクラスメイト達の力量を聞き出せるチャンスも巡って来る。第一に、今日の夕飯が豪勢になる! ハルのレパートリーも広がるっ! こっそりこの料理長の所へ学びに行かせよう。うん、そうしよう。
「では折角のお誘いですし、私達もご一緒したいです。ああ、そうだ。テレーゼお嬢様、土魔法の会得を目指すなら、まずは杖術のレベルを上げる必要がありますよね? 今夜だけでも鍛錬にお付き合いしますか?」
「良いんですの? 願ったり叶ったりですわ! 実のところ、杖の鍛錬方法について悩んでおりましたの。あれだけ巧みに杖を操るハルさんの師であるデリスさんなら、正に適任! オーガに金棒、ドラゴンに鰭、ですわっ!」
テレーゼ嬢とはハルと良好な関係を築いてもらいたいし、未来の騎士団候補生でもある。このくらいの手助けはしても良いだろう。手探りでやってちゃ、杖術スキルのレベル100なんて夢のまた夢。そんなところで腐らせるには、彼女は惜しい逸材だ。
「師匠、それなら私は自主練してますね」
「ああ、悪いが今日は――― いや、待て」
千奈津に刀子、それにネルを呼ぶ。
「デリスの旦那、どうした?」
「いやさ、今日はテレーゼ嬢の指導をする事になって、ハルの鍛錬の相手ができないんだ。それで、折角だから彼女に指導をお願いしようと思ってさ」
「は? ちょっと、デリス―――」
「彼女って、旦那の冒険者仲間の?」
「ああ。どうせなら、刀子と千奈津も一緒に付き合ってもらえないか? その方がハルや彼女も張り合いがあるだろ?」
「……ああ、なるほど」
千奈津は何かを察したのか、眉間にしわを寄せた。もちろん、千奈津は普段からネル直々に鍛錬を施されている。この誤魔化しは眼鏡変装を未だにやっているネルへの配慮だ。
「いいぜ! どうせ夜は暇してんだ、納得するまで付き合ってやる!」
「皆で鍛錬か~。楽しそうだな~」
「………」
そんなに楽しいものではないと、千奈津の泳いだ目が語っている。取り敢えずはこれで良し、と。
「ちょっと、勝手に決めないでよ。これでも目立たないようにしている身なのよ?」
ネルが眼鏡をクイッとやりながら、ひそひそと話し掛けてきた。君、本当にその眼鏡が気に入ったのね。
「まあまあ、弟子達も乗り気だし良いじゃないか。さっきも言った通り、今夜だけはテレーゼ嬢の鍛錬に付き合う事になった。卒業祭までのスケジュールを組んだりしてさ、最終的にはテレーゼの上司になるネルに恩恵が回ってくるんだ。今日くらいはお願いするよ。いっつも千奈津にするようにで構わないからさ、この通りっ!」
「ま、まあデリスがそこまで言うなら…… でも、本当に千奈津にするようにしか指導できないからね?」
「ああ、それで構わない。よろしく頼む」
「頼まれたわ。まずは倒壊しても大丈夫な建物を探さないとね! ディアーナのようなスラム街があれば手っ取り早いのだけれど……」
俺はテレーゼ嬢から専用の地下鍛錬場を借り、結界を入念に展開。そこをネルに明け渡した。お嬢様、今日ばかりは屋敷の中庭で鍛錬すると致しましょう。怪我をされては大変です。




