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第108話 幕引き

 めでたしめでたしと言ったな。あれは嘘だ。いや、嘘ではないけど、まだやり残した事があったのだ。謎のダンジョンを後にしようとした俺達であったが、ふとある疑問が思い浮かんだ。ギベオン遺跡から繋がる道がギミックによる隠し通路だったとすると、このダンジョン本来の正式な入り口はどこにあるのかと。


 テレーゼ嬢は寝てしまったが、依頼にはダンジョンの探索も内容に含まれている。報酬を貰うからには完璧に。ないとは思うが、後で難癖付けられては堪らないのでハルと千奈津、刀子を連れて未探索の場所を探す事となった。ダンジョン側の秘密通路の入り口にて、眠ったテレーゼの護衛としてネルとリリィ、ゴブ男が残る。凸凹3人組も来たそうにしていたが、ハル達の動きに付いて来られそうにないのでお留守番。あんな戦闘を見せられた後でもあったので、案外すんなり納得してくれた。


「んん? お姉さん、どこかで会った事があるような……?」

「気のせいよ、気のせい。私は流れの冒険者よ」

「そ、そうかなぁ? ううーん……」

「「……(ぷるぷる)」」


 眼鏡を掛けただけの変装をしたネルが、眼鏡君にそんな風に疑問を投げ掛けられていた。本人は変装が完璧だと思い込んでいるので、変に堂々としているせいもあってなのか、なぜかバレてない。そんなやり取りを遠巻きで見るリリィと渕は、笑いを堪えるのが必死のようで肩を震わせていた。流石に探偵さんは誤魔化されないようだ。ちょっと気掛かり。


 その一方で、俺達の未探索ダンジョンの踏破は滞りなく進んでいた。まあ、ダンジョンの奥の方から片付けて、ボスも先に討伐してしまっているからな。後は出入り口に向かうだけの簡単なお仕事という訳だ。出くわす石獅子達を払い除け、トラップを踏み潰す。その先にあったのは、外の光だった。


 ダンジョンの出入り口と思われる場所を抜けると、そこはどこかの森の中だった。木々が高らかと生い茂り、洞窟のように形成されていたダンジョンの出入り口は蔦や葉などで覆って隠されていた。これでは注意深く探さないと、この入り口はなかなか発見できないだろう。ただおかしな事に、この隠し方は自然にできたものと言うよりは、人為的に意図して隠しているような感じだ。


「師匠、何か変な人達がいます」

「あー、変な人達に会っちゃったなぁ」

「な、何だ、お前達はっ!?」


 そして、ダンジョンを出て直ぐの広場には謎の黒装束の集団。数にして20人ほど、どいつもこいつも怪しげな杖を持ち、髑髏を模した首飾りをぶら下げている。どっからどう見ても真っ当な装いではない。過激な宗教団体とか、そんなイメージである。


 まあ、空が見えればこちらもの。大体の位置は確認できた。ジーニアスの街やギベオン遺跡からは少々離れているものの、オルト公が治める領土の範囲内だろう。これは報酬金も期待できる。


「き、貴様ら、そこは我らが神の聖地なるぞ! 不敬な、そして不浄なる身で踏み入れるでないっ!」


 この集団の中でも特に異様な格好をした、教祖っぽい代表者が興奮した様子で叫んでいる。手に持った杖をガンガンと地面に叩き付け、墨を塗りだくった醜悪な顔は真っ赤に変わっていた。聖地、このダンジョンに俺達が入ったのが余程癇に障ったらしい。


「聖地? おかしいな、この場所にそのような届け出は出されていない筈だ。聖地を作るほど大きな団体なら、その辺りも法を順守しているのだろう? 我々はこの地を治める領主、オルト・バッテン様から任を受けた遣いである。そもそもお前達は何者だ? 我らにはお前達の身分を確認する義務がある」


 ハル達に待ての合図を出して、形式的に常套句を言っておく。大人しく捕まってくれれば楽なんだが、まあ素直に従わないだろうなぁ。


「そ、そんな事は関係ないっ! 我らは遥か昔からこの場所を聖地とし、神を崇めてきたのだ! 失せろ、失せろ! 喩え領主だろうと、不当に所有地を奪う権限はない筈だっ!」

「なら、この土地の権利書を見せてみろ。お前の言葉に偽りがないのならば、当然持っているのだろう?」

「こ、ここには、ない……」

「であるなら、我らと同行願おうか。何、お前が権利書を見せてくれるまでの短い付き合いだ。それが済めば、聖地として扱おうと別荘として住まおうと、我々の知ったところではない。ああ、だが――― モンスターが闊歩するダンジョンの存在を知りながら、それを秘匿していたのであれば重罪だぞ? 民を危険に晒すダンジョンは国の管理下にあり、常にその脅威を抑えなければならない重要なポイントだ。国の条文にも記載されている、子供でも分かるこんな常識、知らなかったじゃ通用しないからな?」


 ここまで言ってしまえば、もう教祖様はタジタジ。周りの信者達も酷く困惑してしまっている。


「……刀子ちゃん、知ってた?」

「ハッハッハ、まっさかー」

「悠那は兎も角、刀子は城で学んだ筈でしょうが……! 一般常識全般、必要最低限……!」

「……マジで?」


 俺の背後で漫才している女子高生は放っておこう。ああ、いや、そろそろ出番かも。


「この者らは異端者だっ! 殺せ、殺してしまうのだぁー!」


 教祖様がそう叫ぶと、信者達は手に手に武器を持って走り出した。分かり切っていた事だが、交渉決裂である。


「よし、正当防衛だ。お前ら、殺さない程度に無力化しろ。腕や足を折る程度は許す。全員生かしてオルト公の前に連れて行くから、その辺気を付けてなー」

「はーい」

「おっしゃ! 悠那、どっちが多く仕留められるか勝負だっ!」

「仕留めちゃ駄目でしょうが……」


 敵は20人とごく少数、それも魔法使い紛いなレベルの奴らしかいない。刀子の加わったハル達の相手ではないだろう。途中、逃げ出そうとする者の処理も計算すれば、まあ、十数秒以内で事足りるだろう。


 さて、大体のお膳立ては出来上がったな。不当に占拠した土地を聖地と敬う悪徳宗教が、聖地ダンジョンへの入り口を隠していた。どんな儀式をしていたのかは知らないが、恐らくはあの石巨人を神として崇拝していたんだろう。幸いにも、ここのモンスター達は決められた経路しか巡回しないゴーレムだった。が、これがダンジョンの外にまで出て行くタイプのモンスターであれば、周辺の村々の1つや2つが消滅したって不思議ではない話だ。だから新ダンジョンの発見者には高額の報酬が支払われるし、それを意図して隠せば逆に重罪となってしまう。


 今回の場合、俺は新ダンジョンの発見及び探索、違反者の拘束、そのどちらをも達成している事になる。刀子との戦いでハルの鍛錬にもなったし、様々な要素が積み重なって報酬も倍々! 笑いが止まらないとはこの事だな。フハハ。


「師匠ー! 無力化終わりましたー!」

「旦那ぁ! 俺が1人多かったぜー!」


 おっと、そうこうしている内に終わってしまったか。信者達の有様を見るに、足を折られて歩けぬ者、首トンをされたのか無傷のまま気絶する者、普通に殴られて昏睡する者と無力化のされ方は様々だった。さあ、誰がどの方法で倒したのやら。

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