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幻精鏡界録  作者: 月夜瑠璃
第3章 夢幻の邂逅
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第22話 夢の始まり(1)

 

 その日の夜。私はルーザとオスクとで夕食の食材の買い出しに行っていた。

 廃坑から帰ってきたら日はすっかり沈んでいて、辺りは暗闇に包まれていた。時間が遅いことを理由に、今日はフリードとドラク、シルヴァートさんも私の屋敷に泊まることになった。今日、屋敷にいる人数は6人。基本的に私一人分だけの備蓄している材料では量が足りないため、私達は買い物に行く必要になったというわけだ。


 一気に人数が増えたことは、いつも一人だった私にはとても嬉しい知らせだ。その分作る量が増えて大変だけど、今夜の食事は賑やかになりそうだな、なんてワクワクしていた。そして今は必要な分の食材を買い終わり、今はもうすぐ迷いの森に着くという所まで来ている。


「あーあ、なんで大精霊たる僕がこんなことしなくちゃならないんだっての」


「文句言うな。お前だって食べるためのやつだろうが」


「もう……2人ともケンカはやめてよ」


 少しでも話し合って仲良くなるきっかけが掴めるよう、3人で行ったもののずっとこんな調子。良い機会になるどころか逆効果になってしまっている。


 そもそも、なんでこんなに仲が悪いんだろう。妖精と大精霊……種族は違ってもお互いに得意としているのは闇の魔法の点とか、責任感が強いところとか、共通点はあるのに。

 ……まあ、なんとなく原因はわかる。お互いに出会った時の第一印象の悪さが根深すぎて、相手の良いところを見ようとしてないからなんじゃないか、と。だったら、この買い出しのことを言い出した私がそのきっかけを作るべきだ。


「……ねえ、オスクはなんで大精霊の役を引き受けようと思ったの?」


「うん? なんだ、唐突に」


「ちょっと、気になってて。改めて思うと500年も役目を請け負っているから、その理由を教えてくれないかなって」


 私の言葉にオスクは軽く「あっそ」と返すと、顎に手を当てて考え込む。態度は面倒くさいと言いたげな雰囲気ではあったけど、私の頼みを聞き届けてくれたようだ。


「ま、思い立った動機とか細かいところまでは覚えてないけど、やりたいことがあったわけでさ」


「大精霊にならないとできなかったこと?」


「そう。光と闇の精霊達の確執を無くしたかったんだよね」


 光と闇の精霊の角質を無くす────精霊の事情をまだ深く知らない私でも、オスクの真剣な表情からそれはとても困難なことだったということがすぐにわかった。そして、オスクはその目的に行き着くまでの経緯を語り始めてくれた。


「光と闇はお互いがあってこそ。それこそシルヴァートみたく月と同じような表裏一体だってのに、いつもいがみ合っていた」


「どうして……いがみ合っていたの?」


「さあね。ご丁寧に本に記してあるわけでもないから調べようもないし、僕が予想するにただ気に入らないからっていうくっだんない理由だろうさ」


 嫌そうに顔をしかめながら、オスクは確執を無くしたい気持ちに至った経緯を話してくれた。

 オスクが言うには、光の精霊達は何の証拠もなく闇の精霊達を悪と決めつけて忌み嫌っており、闇の精霊もそんな態度をされて嫌悪感を抱いていたとのことだ。それも、何千年も前から。


「周りの奴らも、年中そのことについて愚痴ばっかり言ってさ。毎日毎日光の精霊への罵る言葉を聞かされて、こっちとしては正直もうウンザリだった」


 でもオスクにはずっと昔から一緒にいることが多かった、闇の精霊と仲良くしたいと考えていた光の精霊がいたらしい。そのおかげでオスクは周りとは違う考えを持てていた、と言った。

 その光の精霊は、いつか一緒に今の状況を2人で変えようと言ってきたんだそうだ。


「それには僕も賛成して、100年くらいはとにかく力を磨いて認められるように努力した。それでなんとか大精霊の役を譲り受けたんだけど……」


「けど?」


「譲り受けたのは通過点に過ぎないってこと。何千年単位って途方もない時間からあったものを、数年で改善するのは無茶もいいとこだった。頑固な老人どもには説得に苦労するし、若い奴らにはそんな馬鹿な老人どもの古臭い考えに流されないように言い聞かせるでホント面倒だった。上に立つなら強くなきゃいけないから、魔法の腕もひたすら上げてな」


「や、やること尽きないね……」


「まあね。それで色々やってたら、いつの間にか500年経っていた」


「……」


 オスクが遠い目をしながら話しているのを、ルーザはずっと黙って聞いていた。

 ……今の話で、何をどう思っているんだろう。


「結局、今はどうなってるの?」


「多少は改善したけど。だけど最近、その協力してやっていた光の大精霊はどっか行っちゃうし」


「え……」


「だから昼間にもそいつの居場所を話さなかったんだよ。もう何年も顔を合わせてない。早い話、行方不明ってこと」


 オスクは何気ない風を装っているけど、表情が誤魔化せていない。

 寂しそうで……どこか悔しげな目をしている。それほどまでにいなくなった光の大精霊は、オスクが信頼していた相手なのが伝わってきた。当然、オスクは何年も何年もその足取りを掴むためにあちこちを探し回ったけれど、結局見つからなかったそうだ。


「あいつが頑張ってくれていたおかげで、行方不明の原因の濡れ衣を負わされるのは免れたけど……ね」


「そう、だったんだ」


「この際だから一応言っておくけど、光のエレメントのことに関しては心配ない。光の精霊達と交渉して、エレメントは僕の管理下に置かせてもらってる。だが、今は渡せない。世界のためを思うならさっさとお前らに託すべきなんだろうけど、簡単に手放したらあいつが消えたことを肯定するような気がして気分が悪い。単なる僕の我儘さ」


「い、いいよ、託されたといっても私達は力を貸してもらってるに過ぎないんだし。いつか光の大精霊が見つかれば、その時に渡してくれればそれでいいから」


「……ふん」


 そこで、今まで黙っていたルーザが急に口を開いた。


「まだその目標が完全に達成できたわけじゃないんだろ? お前はそいつがいなくなったからって、そのための努力をやめるつもりか?」


「……は? 止める訳ないだろ、いなくなったぐらいで。じゃなきゃ、あいつの頑張りをドブに捨てるようなものじゃん」


「……なら、いい」


 ルーザはそれだけ言うと、目の前に見えてきていた迷いの森にスタスタ入って行った。


「はあ⁉︎ なんなんだよ、ホントに!」


「まあまあ。ルーザなりの応援なんだよ」


 でもいい感じだ。ルーザがオスクの今までの頑張りを認め始めてくれている。

 今まで言うか言うまいか迷って内緒にしてしまっていたけれど……『あのこと』を教えてあげるいい機会だ。


「オスクは気づいてないかもしれないけど、ルーザあれでもオスクを色々気遣っていたんだよ」


「あの鬼畜妖精が? まさか!」


「いいから。オスクが慣れていない仕事だからムラがあっても見逃して自分でやり直したり、お腹が減っているって言った時には料理を多めに盛り付けてあげたりさ」


「……!」


「口ではああ言ってても、部屋を精霊用にするために四苦八苦しながらもちゃんと用意したりって、受け入れてくれていたんだよ」


 それになんだかんだ言ってルーザもオスクといる時は表情が明るい。私も前は自覚していなかったけど、やっぱり一人よりみんなでいる方がずっと楽しい。きっと、ルーザだってそれは同じ筈。


「ルーザも素直になれないだけなんだと思うの。オスクもそういうところ、少しでもいいからわかってあげて」


「……」


 私がそう言うと、オスクは黙り込む。複雑そうな表情を浮かべて、考え込んでいるらしい。今の今まで、自分に嫌っていると認識していた相手が、実は気遣っていたことを知って戸惑っているのかもしれない。

 でも、やっぱり教えてあげるべきだ。このまま、2人がすれ違うばかりなのは私も嫌だから……。


「……ま、努力はしてやるよ」


「うん。ありがとう」


 私はオスクに笑いかけた。

 まだどこまで改善したかはわからない。けれど、何もしないよりかはよくなった気がする。


 今は2人の様子を見よう……そう思いながら私もルーザの後を追った。

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