第21話 司る者達(2)
「ああ、その理由だが……起きるのが面倒臭いからだそうだ」
シルヴァートさんが真面目な顔をしてそんなことを言うものだから、みんなずっこけてしまった。
「ここまで緊張感高めておいて言うことじゃないだろ!」
「私はいつだって真面目だ。ふざけた態度はとらん」
「真面目な顔をして間抜けなこと言われてもね……」
流石のドラクも呆れ顔。シルヴァートさんの厳格な雰囲気が台無しだ。
どんな理由かと思えば、ただの大精霊自身のワガママのようだ。あれだけ空気が張り詰めていたというのに、そんな呆れた話を突きつけられてみんなもどう反応すればいいかわからず、苦笑いしている。
起きるのが面倒臭いって……ちゃんと役割を果たしているのかな? しかもこんな、『滅び』が侵攻してこようとしている大事な時に。
「……とりあえず、星の大精霊は必然的に後回しになりそうだな。オスクはどいつを知ってるんだよ?」
「んー、水と風の大精霊なら僕も関わりが深かったけど。あの2人は持ち場は変えてない筈だし、案内も出来る。特に水の大精霊は『遠写の水鏡』を持っているから、先に行くべきっしょ」
「『遠写の水鏡』?」
「名の通り、水を媒介して遠く離れた相手や景色を写せる。たとえ異世界にあってもな。それさえあれば、どこにいてもその堅物と連絡も取れるようになるとかさ」
オスクはそう説明しながら、シルヴァートさんを指差す。
へえ、それは凄い。それがあれば他の大精霊とも情報交換がしやすくなる。情報が少ない今の状況じゃ、魅力的な道具だ。だからオスクも優先して行くべきだと言ったんだろう。これから『滅び』に対抗していくためには、協力を取り付けた大精霊との情報交換が重要になってくると思うから。
オスクによれば、水の大精霊は光の世界にある『シールト公国』にいるそうだ。
シールト公国というのは、ミラーアイランドよりさらに南にある小さな島国だ。ただ、かなり距離があるからシノノメ公国よりも時間がかかる。いざ行くなら、もう少し先になりそうだ。
「ま、敵だって動き出したのはついこの間なんだ。焦っても仕方ないし、鈍くてもいいとまでは言わないけど、何もすぐ行く必要はないさ。お前らが行けると思ったタイミングで充分。そいつらへの説明くらいは僕が引き受けてやるさ」
「ありがとう、オスク。あと……そうだ。あの『エレメント』を媒介する杖ってどこにあるの?」
「え⁉︎ あ、え〜と、そいつはだな……」
オスクは目に見えて動揺し、シルヴァートさんまで目を逸らして気まずそうだ。
あれ、私何か変なこと聞いたかな? シルヴァートさんも、オスクだってこんなに自分のペースを崩すなんてこと滅多にないのに。それに質問内容だって『滅び』に対抗するためのことで、2人に何か不都合なことは一切無いはずなのに。
「おい、まさか無くしたなんてことないよな?」
「ル、ルーザさん、流石にそれはないんじゃないですか? そんな大事なものに限って紛失、なんてことは」
「えーっと……実はそれが大正解なんだよな」
「え……」
今のオスクの言葉の理解に追いつかず、しばしの沈黙が続き……そして突如として、それは破られた。
「「「「えええっ⁉︎」」」」
「え、ちょっと待って。どういうこと⁉︎」
エメラがあたふたしながら事情を聞くと、大精霊2人は揃ってため息をついた。
「取ってこようと思って探しに行ったらこのザマだ。その杖がある世界に行ったら、盗まれたらしくてな」
「その行方を追ってみたが既に売りさばかれ、今では何処に出回っているかもわからん」
オスクもシルヴァートさんもさっきまでとは打って変わって、バツが悪そうに縮こまっている。盗まれたなんて言い出しづらかったに違いない、だから2人とも今まで黙っていたんだろう。
とにかくその杖は今現在、盗難・売却・そして行方不明、になってしまってるのか……。
「よりによって一番最悪な状態だな……」
「面目無い……」
「どうすんだよ、『滅び』を止めるには必須じゃないのかよ⁉︎」
「しょうがないだろ、僕の管理下じゃないんだから‼︎ こればっかりは尻拭い効かないんだよ、鬼畜妖精!」
「お、落ち着いてください、お2人共。その『遠写の水鏡』が手に入れば、ある場所も突き止められるかもしれないんですから」
フリードが間に入ると2人はなんとか言い合いを止める。
2人とも、誰に責任があるかははっきりしない今は言い争っても仕方ないとわかったらしく、すぐに引き下がった。
「……チッ、そうだな。文句言ったって仕方ない」
「ま、成り行きで見つかるかもしれないし。気長にやるか」
とりあえず、今は居場所が明確にわかっている大精霊はここまでらしく、ここで話は終わりにした。
この後は特に予定が無いし、ルーザ達にミラーアイランドを案内するというのもいいけど……
「あ! ねえ、ルージュ。せっかくこうして集まったんだし、廃坑に行ってドラゴンにお礼しに行こうよ!」
「あ、そうだね。ドラゴンにはいっぱい助けてもらったし」
エメラの提案に、私は迷うことなく頷く。
氷河山の事件を解決できたのはドラゴンの助けがあってこそと言っても過言ではない。ドラゴンがいなかったら、私達は氷河山の頂上に辿り着くことさえ叶わなかっただろう。
「ドラゴン……あ、あの火炎竜ですね!」
「そうだな。あいつにも世話になったからな」
「うむ。あの結晶を破壊出来たのもあの者の協力があってこそだ。私も同行したい」
「じゃあ決まりね! 問題はどうお礼するかだけど……何がいいかな?」
「果物とかいいんじゃねえか? あそこ、ドラゴンの他にちっこい魔物がいたろ?」
「あ、そうだね。魔物達が喜んでくれるものなら、ドラゴンも満足してくれそう」
みんなも、シルヴァートさんもその案に賛成してくれた。そうして私達は早速、ドラゴン達に贈るフルーツを調達しに王都へと向かい、適当なフルーツを買った後に目的の廃坑へと行った。
魔物達は最初、いきなりの来訪に驚いていた様子だったけど、フルーツを見せると途端に大喜び。興奮しながらフルーツをそれはもう美味しそうに食べてくれて、ドラゴンもそんな魔物達を満足そうに見つめた後、「ありがとう」という気持ちを私に伝えてくれながらフルーツをもらってくれた。
私達はそんなドラゴン達を微笑ましく思いながら、この穏やかな時間を楽しんだ。




