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1/世界

 太古の昔より、人間という生き物は幾度もなく戦乱を巻き起こした。同族、同種、同じ土地で生まれ、血潮の色も同じく赤……。だというに、彼らはそれを多く欲した。

 

 時には名誉の為、大義名分の為……独特の狡猾さを駆使し、言葉として語る戦火の発端としては随分と綺麗事を並べたが、現実に反映すればその多くは血と血で抗い、報復と侵略と略奪の光景で汚濁され、そこで行使するのは暴力のみ。故に、善やら悪とは矛盾しており、誰かを殺す為に手を下す事には変わりないのだ。

 

 その昔、歴史書にも記されない虚無の時代に神は自身の写しがどれだけの繁栄と権威を誇示できるのかの試練を試すがために、人間を生み出した。

 

 何故神は人間を創造したのか? その根幹は未だに解明されておらず、今日では生誕の起因を追究するのは禁忌として暗黙の了承。そして人が知恵を持ち、神という存在を認識し始めてから「それは神々が我々に与えし恩恵」という一言に片付け、以後に至る。

 

 だが彼らが起こしたのは神々と同じ高貴な耽美とは真逆の永久の闘争──。人よりもはるかに麗しく、自然と共存する生命を脅かすどころか自らの肥やしにすべく糧にし、あまつさえ己の祖であり親である神々の神域を幾度も穢した。……それも幾星霜も。

 

 無論、その結果を見て神が決断したのは試練に不合格という結果。誰も有無どころか反論しない、独断を。

 

 神学者の多くは「人間という生命は神自身の複製──勿論その強大な力は大きく減らしている──故に高貴な生命体なのだ」──と豪語している。しかしながら彼らは自分自身の性格が神と同じく、傲慢から由来しているとしたらどうなるのだろうか?

 

 だとすれば人間は自分達を創造した神自体を否定するという事になる。……がしかし、神は咎めなかった。終末論が語られ、その時が近付いても神が滅亡の鉄槌を下すことさえも……。

 

 勿論当時の人々は戦慄した。多くは「神の怒りが遂に下される」と慄き一時的な騒動も沸き起こったことも。……がその傍らでも人間は日課の如く人間を咎め、それどころか反比例にも断罪に処していた。

 

 いつまでも紡がれる負の連鎖。終わることも飽くこともない、善も悪も欺瞞だらけの世界に侵蝕して……。

 

 だからこそ遂に神は傍観を捨て、世界に光を落とした。自らが過ちが生んだ貶めとして、けじめとしての、今日では“浄化”と呼ばれる光を────。

 

 

 

 

       ◆

 

 

 

 

 ここまでが神話に語られる、「最後の審判」から抜粋、引用した世界の出来事である。

 

 その後の世界の詳細や神が世界に降り注がせた“浄化”の正体やその後の歴史を綴った記録は今日ではもはや失われ、その出来事自体もお伽話と化している。だがその様な言葉や「最後の審判」という本があるという事は、人間は“浄化”から生き延びているという証明に他ならない。

 

 ともあれその後については説明しようにも全てが有耶無耶で曖昧極まりない内容ばかりの本しか見つからず、これといった確証出来る資料がないので南西の大陸のクレピヌ地方出身の歴史学者ノルデリムという男性が自ら遍参した、面白い書物とその冒頭を簡略に説明して締め括ろうと思う。

 

 

 

 

       ◆

 

 

 

 

『かつて“浄化”によって我らの文明は滅ぼされたが、それでも人間は立ち直った。しかし人々の多くが思想や信条、理念を掲げた時、善と悪の王が対峙して、多くの犠牲を払う大戦争が生まれた』

 

『しかしながら長い時を経て人間は奮戦し、勇敢で我らが僥倖の善の王こと「聖王」の勝利によって、信奉者らは歓喜し、暦にその王の名称を冠する聖王暦を採用した』


『またその戦いに於いて悪の王とされる「魔王」は醜悪な生命体「魔物」を生み落とし、それを世界中に拡散して人々を恐怖の闇に覆い尽くされた』

 

『だが前述した通り聖王が魔王との熾烈な戦いに勝利したことで、「魔物」の多くは人間達に排斥されたが、一部の地方ではまだ「魔物」は少なからず生き残っているらしい』

 

『それから年月を経た聖王歴253年。海を越えた小さな大陸でとある災厄が訪れ、風の噂では大量の「魔物」が現れたそうだが、その大陸に向かう海峡は至る所に岩礁が立ちはだかり、潮の流れも複雑で誰も調査に向かう者はいなかった』

 

『それから誰もがその噂を忘れかけた聖王歴301年。その海を越えた小さな大陸の海路から1隻の船が寄港したらしく、その出来事は湾港の船乗り達の間と近辺の地域にまで持ち切りになった』

 

『その際、船に搭乗していた詩人が港の酒場で酒を煽りつつ語り紡いだ、摩訶不思議な物語がある』

 

『詩人から伝播した現在では多くの人々に親しまれるその物語だが、その内容は近世でも一番人気の冒険活劇として知られている反面、真贋定かでない荒唐無稽な出鱈目混じりの派生作品も存在している事は衆知の事実だ』

 

『そして今回は、その出鱈目の検証を含めた私自身が収集した資料や証言を基にした“ストライダー”の物語をこの本に綴ろうとしよう』

 

 

『そして此度私が“ストライダー”の物語を記すきっかけとなった、多数の貴重な資料を提供してくれた黒髪の麗人に多大なる感謝を────』

 

 

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