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【完結読切・全5話】最後の手紙を届ける日  作者: 鷹司 怜


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第五章 最後の手紙を届ける日


 翌朝。


 誠司は自宅の縁側で目を覚ました。


 いつの間に帰ってきたのか覚えていない。


 夢だったのだろうか。


 終列車も。


 美咲との再会も。


 すべて。


 そう思いながら立ち上がる。


 その時だった。


 机の上に一通の封筒が置かれているのが見えた。


 見覚えのある字。


 山崎美咲。


 誠司は静かに封を開いた。


 最後の手紙だった。


 誠司へ


 これを読んでいる頃には、私はもう本当にいません。


 だからまず言わせてください。


 会いに来てくれてありがとう。


 ずっと待っていました。


 あなたはきっと、自分を責め続けてきたのでしょう。


 卒業式の日のこと。


 言えなかった言葉のこと。


 私を失った日のこと。


 でもね。


 私は一度もあなたを責めたことなんてありません。


 だって私も同じだったから。


 言えなかったこと。


 伝えられなかったこと。


 たくさんありました。


 人生は不思議です。


 少し違う道を選んだだけで、景色が変わってしまう。


 でも私は幸せでした。


 悠人と出会えたから。


 紬が生まれてくれたから。


 そして。


 あなたを好きになれたから。


 だからお願いです。


 もう立ち止まらないでください。


 私を忘れなくていい。


 思い出も捨てなくていい。


 でも前を向いてください。


 人は誰かを愛したままでも未来へ進めます。


 私はそれを知っています。


 最後に。


 紬を見つけてくれてありがとう。


 あの子は強い子です。


 でも少しだけ寂しがり屋です。


 もしできるなら。


 時々でいいから笑わせてあげてください。


 きっとあなたならできます。


 それでは。


 今度こそ本当にさようなら。


 ありがとう。


 高橋くん。


 大好きでした。


         山崎美咲


 誠司は最後まで読み終えた。


 涙が止まらなかった。


 けれど。


 不思議だった。


 十五年間抱えていた痛みが、


 少しだけ温かなものに変わっていた。


 失った悲しみではなく。


 愛された記憶として。


 胸の中に残っていた。


 その日の午後。


 誠司は紬を訪ねた。


 施設の庭で、紬は一人ベンチに座っていた。


 赤い傘は持っていない。


 代わりに空を見上げていた。


「終わったよ」


 誠司が言う。


 紬は振り返った。


 その瞳はすべてを知っているようだった。


「会えたんですね」


「ああ」


 紬は小さく微笑んだ。


 そして初めて話し始める。


 美咲のこと。


 神崎悠人のこと。


 事故の日のこと。


 自分が二人の娘であること。


 そして。


 両親が生前、誠司のことを何度も話していたことを。


「お母さんね」


 紬が笑う。


「高橋くんは優しい人なんだって」


 誠司は思わず苦笑した。


「そんなことない」


「ううん」


 紬は首を振る。


「だから会わせたかったんだと思う」


 風が吹く。


 桜並木が揺れる。


 季節外れの花びらが一枚、


 二人の間を舞った。


 誠司は空を見上げた。


 青空だった。


 どこまでも高く。


 どこまでも遠い。


 もう後ろは見ない。


 忘れるわけではない。


 忘れたくもない。


 美咲はこれからも心の中にいる。


 ずっと。


 それでいい。


「帰るか」


 誠司が言う。


 紬は立ち上がった。


「うん」


 二人は並んで歩き出す。


 桜並木の先へ。


 未来へ続く道へ。


 しばらく歩いたあと。


 紬が不意に聞いた。


「ねえ」


「ん?」


「お母さんのこと、今でも好き?」


 誠司は少し笑った。


 そして迷わず答える。


「好きだよ」


 紬も笑う。


「そっか」


 誠司は青空を見上げた。


 眩しい光の向こうに、


 あの日の赤い傘が見えた気がした。


「でもな」


「ん?」


 誠司は前を向く。


 穏やかに。


 静かに。


 けれど確かに。


「今は未来も好きなんだ」


 紬は何も言わなかった。


 ただ笑った。


 その笑顔は少しだけ美咲に似ていた。


 春の風が吹く。


 桜が舞う。


 そして二人は歩いていく。


 もう二度と止まらない足で。


 未来へ。


 まっすぐに。


             ― 完 ―

【本日締切!コンテスト応援のお願い】

『最後の手紙を届ける日』を最後までお読みいただき、本当にありがとうございました。

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