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混沌の科学  作者: 藤原時照


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小太郎と言う猫

 猫の名は小太郎になった。

 それは、かつて後藤の実家に居ついた野良猫の名。

 見た目はちがうが、あの猫とイメージが重なってそう名付けた。

 小太郎は、あの日から後藤夫妻の家に居ついている。

 居ついているという言い方をするのは、いつもいるわけではないから。

 小太郎は知らないうちに外出している。

 ドアも窓も締め切っているというのに。

 その小太郎、後藤の帰り道で待ち構えていて一緒に帰って来ることが多い。

 この日も後藤と一緒のご帰宅だ。


「ねえ、猫って去勢するのが普通なの?」

 みゆきが思いついたことを口にした。

 すると――

「や!」

 小太郎のいる方向から声が聞こえた。

「小太郎?」

 後藤が小太郎に話かけた。

 しかし、小太郎は身づくろいをしていて後藤の声に反応しない。

「去勢――」

「フーッ!」

 言いかけると、小太郎が後藤を威嚇した。

 そして、立ち上がるとドアの方に走って行った。

 ドアは閉まったまま。

 しかし、小太郎はそのドアをすり抜けて消えた。

「怪奇現象が普通になって来たわね」

 みゆきがそんなことを言った。

「ごめんね。気味悪いのを連れてきて」

「気味悪くはないわ。なんだか懐かしい気がするのよね。昔から知っているような……」

 みゆきもまた後藤と同じように思っているらしい。

 ということは前世で?

 そんな考えが頭をよぎる。

「良平さん、そういえば、しゃべる猫って都市伝説で聞かない?」

「ああ、うん、ネットで読んだことある。ほかにも小太郎みたいなのがいるのかな」

「これからはそういうことが普通になっていくのよね?もう怪奇現象が起きてもリセットされないみたいだし」

「オカルト現象が普通な世界か。それも面白いかもしれないね」

「だったら魔法使えるようになるかな?私も魔法少女に」

 みゆきの話が明後日の方に飛んだ。後藤は話題が飛んだことよりも「少女」の部分に突っ込みを入れそうになったが、なんとか自制した。みゆきが突っ込みを待ち構えているような気がしたから。

 だから話題を変えた。

「小太郎、戻って来るかな?」

「あ、逃げた。いいけど」

 みゆきはやはり突っ込みを待っていたようだ。

「動物と話しができたら日常生活が面白くなりそうね」

「でも、それだと肉を食べられなくならない?」

「う、それはあるかも」

 みゆきは牛や豚が命乞いをする光景を思い浮かべた。

「じゃあ、猫と犬限定を希望します」

 みゆきはおかしなことを言い出した。

 後藤は、誰に希望するというのだと思ったが、すぐに思い直した。

 これはみゆきの感覚の方が正しい。

 人の思いが影響するように世界が変わっていけば、願うことはおかしなことではない。

 これからは、それが当たり前になっていくのだ。


 その日、後藤が一人で入浴していると、風呂場に小太郎が現れた。

「小太郎君や、今日はいいけど、新婚さんは夫婦で風呂に入ることもあるんだから、気をつけようね」

 後藤はふざけてそう言ったが、小太郎は知らん顔をして洗面器を前足でたたいた。

 湯を入れろという合図だ。

「はいよ。温度はどう?」

 後藤が聞くと、小太郎は前足で温度を確かめた。

 そして、そのまま何も言わずに洗面器に入って丸くなる。

 顎を洗面器の縁に乗せて。

「猫って水に濡れるの嫌がるんじゃないの?」

 後藤が聞いても小太郎は反応しない。

「ところで、キミが洗面器に入っていると、私が身体を洗えないんだけど」

 小太郎は知らん顔をしている。

――うーん、猫っぽい。

 後藤は猫に寛容だった。

 

「あ、小太郎帰ってきたのね。にゃおー」

 後藤が小太郎をタオルで拭いているのを見て、みゆきが声をかけた。

「う、冷えた。あとお願いできる?もう一度温まって来る」

 小太郎がぶるぶるとやって室内に水が飛び散るのを懸念し、後藤は自分の身体を拭く前に小太郎を拭いていた。おかげで、すっかり身体が冷えてしまった。

 みゆきがうなずくと、後藤は急いで湯船に飛び込んだ。

「コタちゃん、かゆいとこはありましゅか~」

 みゆきの声を聴きながら、後藤は浴槽に深く身体を沈めて身体の力を抜いた。

 

 人と人とが心でつながったら?

 動物と意思が疎通できるようになったら?

 このまま世界が変わっていけば、そんなことも起こり得る。

 皆がつながっていけば――

 そこには良いこともあるだろうが、間違いなく大量の問題が発生する。

 知らずに済ませたい相手の負の感情までわかってしまう。

 その負の感情が生じた理由まで読み取ることができれば、相手を理解してあげられるようになるだろうか。

 そうすれば人はわかりあえるのか?

 そのとき、後藤の頭に石黒役員の顔が浮かんだ。

 あの手の人間は、相手に如何なる不都合があろうと、常に自分の利益を優先する。

 それで誰かが死のうと気にしない。

 実際、石黒役員はパワハラで何人か死者を出している。

 相手の嫌がる気持ちが流れ込んで来たら、逆にそれで発奮するのではないか。

 後藤には石黒役員がそんな人間に見えている。

 世の中には他人の不幸を甘い蜜のように感じる人間がいる。

 石黒役員はそんなタイプだ。

 だが――

 そういう人間にも性格がゆがむきっかけはあったはず。

 幼い時から相手の気持ちが読み取れるのなら、人は性格がゆがむことなく育つだろうか?

 後藤の考えは、性善説や性悪説に及んだ。

 そこで後藤は気がついた。

 自分は夢の中で前世と思える記憶に触れたことがある。

 日本人の何割かは、前世の記憶を持っているという説もある。

 ひょっとしたら、明瞭さの度合いがちがうだけで、人は誰しも前世の記憶の欠片を持って生まれてくるのかもしれない。

 だとしたら――

 生まれてすぐであっても人は白紙の状態ではない。

 カルマを抱えて生まれてくるのだ。

 前世で自分のしたことを悔やんでいるのなら、やり直そうと考えるかもしれない。

 生まれた環境次第では、カルマを解消するケースもあるだろう。

 生まれ育った環境次第で変われる可能性はある。

 だとしたら、責めるべきは環境ということになりはしないか。

 それなら――

 悪人はかわいそうな人なのか?

 一度はそんなふうに考えた。

 しかし、後藤は寛容な考えをすっぱりと切り捨てた。

 石黒役員を思い浮かべてしまったから。

次回からの数話は、ちょっとテンプレを意識した流れになります。

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