表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

37/47

36話 空白の時間

 いよいよ、五年前の真相に近付ける。

 私は言葉を選びながら、質問を続けた。


「依頼を受けたのは、いつかしら?」

「……はっきり覚えてないが、配達の数日前かな」


 やはり、あらかじめ代役を依頼してあったのだ。

 改めて、巻き込まれたジャンの不運を想う。


「依頼内容は、覚えてる?」

「言われた日の指定された場所に行け。そこに体調を崩した男がいるはずだから、そいつの制服と配達証を借りて代わりに配達をしろ、と」

「制服を借りたの?」

「ああ。オレは持ってないからな」


 少しずつ事件の解像度が上がっていく。


「その後は?」

「城に行って、言われた通りに金髪の男から封筒を受け取ったよ」


 ……待って。


 そういえば、朝の時点でジャンと入れ替わったのなら、ジュールのところに取りに行ったのはディエゴということになる。

 代理の配達人にばかり意識がいっていたせいで、すっかり受け取りが頭から抜け落ちていた。


 だが……

 ジュールの部屋でのやり取りを、思い出す。


「運んだ人って覚えてますか?」

「うーん、若い男の子だったよ。運営の使いの子だと思うけど、流石に顔はもう覚えてないや」


 あの時、ジュールは若い男だったことしか覚えていないと言っていた。

 それもそうだ。制服を着た配達人相手に、顔まで覚えている方が稀だろう。


 私は思考を整理すると、再び目の前の男に集中した。


「受け取ったあとは、どうしたの?」

「……事務局に、届けた」


 答えに、間があった。

 何かある気がする。


「それだけ?」

「……」

「途中で誰かに会ったり、どこかに立ち寄ったりした?」

「……一ヶ所だけ」


 そこだ。封筒の中身に手を加える余地があったとすれば、そのタイミングしかない。

 その証拠さえ掴めば……


「場所は?」

「……覚えてない」

「誰に会ったのかは?」

「……それも、忘れた」


 ディエゴの目が泳ぐ。忘れたというのはおそらく嘘だ。

 言えば身に危険が及ぶと判断したのだろう。


「立ち寄った時に、封筒を誰かに渡した?」

「……」

「封筒を持っていなかった時間はある?」

「ある」

「どのくらいの時間だったか、わかるかしら」

「マジで覚えてない。けど十分とか、そんなもんじゃね」

「ずいぶん短い時間ね」

「本当はもっと待つかもって言われてたから意外と早かったなって……あっ」


 うっかり喋りすぎたのだろう。ディエゴが口を抑えた。


「その後は、言われた場所に持ってって渡した。そんだけ」


 そういうと、ディエゴはそっぽを向いてしまった。

 もうこれ以上話すことはない。そんな態度に見えた。


「他に覚えていることはない?」

「ないね」

「立ち寄った場所、本当に覚えてないの?」

「……ああ」


 あと一歩だった。

 受け渡しの場所さえわかれば証拠が掴めるかもしれないのに、肝心なことが聞き出せない。


「ディエゴ、もう少しだけ思い出しちゃくれないか」


 女将が見かねたのか、後から声を掛けてくれた。


「頼むよ」

「……この仕事をオレに依頼したのは、マルセロだ」


 ディエゴは渋々答えると、泣きそうな目でこちらを見た。

 やはり、背後にいたのはマルセロだった。私は確かな手応えを感じた。


「これ以上は、本当にもう思い出せない。勘弁してくれよ」

「わかったわ、話してくれてありがとう」


 私はそういうと、ディエゴを解放した。

 別れ際に礼金を渡すと、礼も言わずに懐に入れて立ち去った。


 ◇


「よかったのか?」


 ミゲルが、少し物足りなさそうな様子で私に問うた。


「ええ。ディエゴの様子を見るに、立ち寄った場所や相手を無理に聞き出しても、今の私たちには踏み込めない気がします。おそらく、マルセロの息がかかった場所のどこかなんでしょう」


 本音をいうと、もう一歩踏み込みたい気持ちもないではない。

 だが、今日の成果としては十分だ。


「これまでただの仮説だった事件の流れが、現実に起きたことだとわかりました。大きな前進です」


 そう、今までは封筒の入れ替えもマルセロの関与も、あくまで推測にすぎなかった。けれどディエゴの証言で、その流れがほぼ事実だと確かめられた。

 今は手に入った情報に感謝し、前に進むのみだ。


「これから、どうするつもりだい?」

「私以外にも、動いてくれている人たちがいます。一度屋敷に戻り、情報を整理しようかと」

「それがいいね。夜も遅いし、今日はもう帰りな」

「はい、お二人とも、本当にありがとうございました」


 私はふたりに頭を下げた。


「礼はいいから、また飯を食いにきておくれ。次は事件絡みじゃなく、ね」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ