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21.ドワーフとの出会い

 小さな丘を越えて、ちょうどお昼を過ぎた頃、ドワーフの村が見えてきた。

 

 「あれが俺たちの村だよ!」

 

 三人の子供たちが駆け出した。

 

 村の入り口辺りに、若い大人のドワーフが数名ウロウロしていたが、子供たちの姿に気付くと安堵の表情を浮かべた。

 

 「お前たち、どこに行っていたんだ!」

 

 「ずっと朝から探して、心配したのよ……そんな小さい子を連れて」

 

 どうやら子供たちは、親たちに内緒で湖まで遊びに行ってしまったようだった。

 

 子供たちはシュンとして、口々に「ごめんなさい」と謝っていたが、一人の男親がオレリーたちに気付いた。

 

 「あの……あなた方は?」

 

 「急に訪ねて申し訳ない。私はルシアン・シルバーヴェル、こちらは妹のオレリーです」

 

 「はじめまして、オレリー・シルバーヴェルですわ」

 

 「ああ、シルバーヴェルの領主様のお子様たちでしたか。こちらには、どのようなご用事で?」

 

 「あの……ドワーフの皆さんに事業のご提案で参りました。村長様にお会いしたいのです」

 

 オレリーの思いもしなかった言葉に、ルシアンたちは驚いた。

 

 大人のドワーフたちは顔を見合わせて、先ほど声を掛けて来た男親がリーダー格らしく口を開いた。

 

 「分かりました、ご案内しましょう。子供たちの様子を見ても、あなた方は信用できそうだ。私はビノの父親でゴートと言います」

 

 こうしてオレリーたち一行は、ゴートの案内で村長と会えることになった。


 ◇


 ドワーフの村は、小さいが雑貨店やパン屋など商店も揃っており、道も雪に滑らないように石畳に舗装され、子供たちの明るい声が響く住みやすそうな村だった。

 

 「お嬢様、私、初めてドワーフの村に来ましたわ」

 

 「私もよ。とっても活気があって楽しそうな村ね」


 村の中心の広場まで来ると、赤い屋根の建物の前でゴートは立ち止まった。

 

 「村長、お客様をお連れしたよ」

 

 扉の向こうで作業をしていた老人は手を止め、何かを探るような鋭い目つきでオレリーたちをジッと見た。

 

 「ゴート……約束もなく来た人間を村の中に入れるとは、どういうことじゃ?」

 

 重みのある声で、静かにゴートを咎めた。

 

 「えっ……いや、子供たちも懐いているようだったし、このお嬢さんが父さんに会いたいって言うから」

 

 「ハァー、本当にお前はまったく。少しは警戒心も必要じゃぞ」

 

 (二人の会話の雰囲気から、村長とゴートは親子のようだな)

 

 ルシアンはスッと村長の前に出て、品位ある心のこもった振る舞いで挨拶をした。

 

 「ふーむ、お若いのに立派なご令息のようじゃな。それで、会いに来られた理由をお聞かせ頂こうかのう」

 

 「ご挨拶が遅れました、私は妹のオレリーでございます。突然ご訪問しましたこと、お詫びいたします。お、折り入ってお願いがございます……事業パートナーのご提案ですわ」

 

 「それは突然ですな……ほお、その若者が持っているものは、セレナ湖の洞窟で取って来たのじゃな?」

 

 サミは、腰に下げた袋の中に洞窟で削り取った鉱石を入れていることを言い当てられ、警戒心をあらわにした。

 

 「ホッホッホッ、騎士様、そう警戒せんでくれ。ドワーフはとても長生きでな、色々と人よりは五感が研ぎ澄まされるんじゃよ」


 「それを信用しろと!」

 

 「サミ~、失礼でしょ。申し訳ありません。あの、村長様は、この鉱石の存在をご存じでしたの?」


 オレリーに叱られ、サミはシュンとなった。

 

 「ワシのことはロワジと呼んで下され。すでに忘れ去られた伝説じゃが、セレナ湖は光の精霊セリュネア様が眠りにつかれた場所と言われておる」


 ロワジは口にはしなかったが、オレリーからセリュネアのオーラを感じていた。


 「ゴホンッ、続けよう。そこにはセリュネア様の宝物も隠されていると言い伝えられておってな……」

 

 (精霊セリュネア様? オレリーの精霊も確かセリュネア様だったはず。セレナ湖に来たのも、加護と何か関係があるのか?)

 

 「まぁ、精霊セリュネア様の? そんな伝説がセレナ湖にあるとは知りませんでした」

 

 (えっ? オレリー、知らなかったのか? という事は、たまたま精霊の加護で導かれたのか……)

 

 ルシアンは、ひとり頭の中でグルグルと考えを巡らせていた。

 

 「その騎士様の腰の袋から、何か強いオーラを感じたのでな。伝説を思い出して、鎌をかけさせてもらったんじゃよ」


 そう言ってロワジはウィンクした。

 

 オレリーは、ロワジの実直でユーモアもある人柄に、直感で事業のパートナーとして良い相手だと感じた。

 

 「実は、セレネ湖の近くの洞窟である鉱石を見つけました。この鉱石は、帝国の流行をひっくり返すくらい素晴らしい宝石になるはずですわ。そこで、ドワーフの皆さんの知識や加工技術の力をお借りしたいのです」

 

 「なるほど……まずはその鉱石を見せて頂けるかな?」


 サミから鉱石を受け取ると、ロワジはアイルーペを掛けて丹念に調べた。


 「見たこともない鉱石じゃ……預からせてもらおう。そうじゃなぁ、初めての鉱石じゃ、少し時間はかかるかもしれん。宝石には加工できると思うが、やってみんことには……」

 

 「それで構いませんわ。納得のいく宝石に仕上げて下さい。ご連絡頂ければ迎えの者を寄越しますわ」

 

 ◇


 それからしばらくして、ロワジとゴートそしてビノが屋敷にやって来た。

 

 「お待ちしておりましたわ! ようこそ、シルバーヴェル家へ。 ビノもよく来てくれたわね」

 

 ビノは、見たことのない上質で華やかなしつらえの屋敷と使用人の多さに驚き、応接間までの廊下をワクワクしながら歩いた。

 

 「オレリー嬢、なかなか手ごわい仕事じゃったぞ、ハハハッ」

 

 そう言いながら、美しくカットされた宝石を一つ取り出した。

 

 「ん? お嬢、これは……洞窟で採取した鉱石と色が違います! お嬢を欺こうとしているなら……」

 

 キッとロワジを睨みつけ、サミは剣に軽く手を掛けた。

 

 「おいおい、サミ、落ち着け。確かに、僕たちが洞窟で見つけた鉱石は、ルビーのような石だったはずですが。理由を聞かせて下さい」

 

 ロワジが困ったようにオレリーの方を見て、「説明といわれましても、ワシらも……」と口ごもった。

 

 「あら、とっても美しいエメラルドね。まるでオレリーの瞳のようだわ。ねぇ、あなたもそう思うでしょ」

 

 「そうだな、セシル。この美しさなら貴族も満足するクオリティーだろう。オレリー、良くやった」

 

 「ジャメル様、セシル様、そうではなくてですね、鉱石の色が違うんですっ、うぐっ」


 「ちょっと、うるさいわよ」

 

 サラがサミの口を押さえて、強制的に黙らせた。


 「さぁ、皆さま、黙ってご覧頂ければ、すぐに謎は解決いたしますわ!」


 オレリーも少し興奮気味に、その宝石を手に取った。

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