表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

83/163

episode 83

ホテルの最上階、眺めの良いレストランへと入る。席はすでに予約してあり、窓際で夜景が展望できる。料理もコース。メニューを見ずとも、一つ一つ出されてくる料理に、壱花は戸惑いを隠せないようだった。

(いつもエスコートする女性とは、全然違うけど……)

ジェインは思った。

新幹線で宿泊先を訊き、そしていつもこうしてレストランで食事をする。当たり障りのない会話。身分はそうそう簡単には明かさない。お酒を飲み、会話を楽しみ、そしてそのままホテルの部屋へ。

上手くいけばそのままワンナイトも楽しむ。

けれど。

(壱花ちゃんはそんな女性たちとは違う。こうして一緒にいるだけで……壱花ちゃんをこうして見ているだけで、それだけで嬉しいだなんて)

壱花に会いたかった。そして今日というこの日、デートに漕ぎつけることができ、新幹線の中ではもう心が躍る思いだった。

マックで壱花に会った時から、手も足も身体も心も、どこもかしこも軽くなって。一日中を一緒に過ごすことができ、今ではランナーズハイのように軽い興奮状態だ。

「壱花ちゃん。食事、勝手に頼んじゃったんだけど、苦手なものがあったら残して良いからね。嫌いなものは無理して食べないで」

ワインを飲みながらジェインは壱花の様子を窺った。

ここへ来る途中、眼鏡をコンタクトに変えた。そして、いつもの美容室で髪をバレッタでひとつにまとめ、そして薄っすら化粧をしてもらった。桃色のルージュ。もちろん、洋服は藤色のワンピースだ。バッグ、パンプス、ネックレス。どれもシンプルなものだ。

「はあぁ。可愛いなあ」

ガチャンと音がした。壱花が、皿の上にフォークを落としてしまったのだ。

「ごご、ごめんなさい」

「いや俺が悪い。失礼。心の声がダダ漏れた」

満足だった。壱花は見違えるほどに、綺麗になった。もともと黒の深い瞳が気に入っていて、それが今日は黒ぶち眼鏡に邪魔されていない。

宝石のような、黒。その瞳。

「それはその平たいスプーンを使って。魚は柔らかいから、スプーンで十分切れるよ。すくって食べてみて」

「はい」

フィッシュスプーンを握り直し、口へと運ぶ。その様子を見ながら、ジェインも一口食べた。魚の身がほろりと崩れ、バジルソースの風味が口いっぱいに広がっていく。

「おいし……ジェインさん、すごく美味しいです!」

「うん、美味しいね」

「身はふんわりしてるし、皮目もパリパリしてて」

「だね」

「ソースも美味しい。なんだか良い香りがします」

「香草のバジルが入ったソースだよ。白身魚とよく合うね」

「バジル! おばあちゃんが庭で育ててました。そういえば、こんな感じの香りだったかも」

「壱花ちゃんのご実家はどこなの?」

「うちは県の端っこの方です」

何気ない会話。美味しい料理。なにより壱花の笑顔に癒される。

(このまま、俺の部屋に泊まってくれないだろうか)

時期尚早な気もしているが、どうせ明日もデートの予定を取り付けてあるのだから、ずっとこのまま一緒にいたって構わない。

(誘ってみよう)

実は、上手くいけばと、その準備も怠ってはいない。

壱花を改めて見る。満足そうに料理に舌鼓を打っている。ジェインはワインをぐいっと飲み干すと、ウェイターを呼んでもう一杯注文した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ