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82/163

episode 82

観念し藤色のワンピースを手渡した。

狭いフィッティングルーム、お互いの息がかかる距離。しかも。

「壱花ちゃんは、綺麗な肌色してるから、この美しいパープルは映えると思うよ」

鏡の前、背中にジェインの体温を感じた。

そのジェインといえば、もうすっかり別のスーツに着替えている。ただスーツとはいえ、そこまで堅くないものだ。ラフなカジュアルスーツとでも言うのだろうか。中にはホワイトのニット。胸元が少し開いている。

(ジェインさん、かっこいいな)

大人の男。そのパーフェクトな男が、壱花の背後に立ち、ワンピースを当てているとはいえ、壱花を抱きしめている形になっている。

それに気づいた壱花の胸が、どっと鳴った。早鐘のように打ち上がっていく心臓の音。顔は火照り、ワンピースどころではない。

そう。鏡に写るジェインは完璧すぎて、しかもその体温に包まれている。壱花は目のやり場に困ってしまい、下を向いた。

「壱花、下を向いたらだめだよ。ちゃんと自分を見てごらん」

後ろから回した右手で、壱花のあごを優しくくいっと上げる。

「ほら、壱花にすごく似合ってる」

ジェインの右手に促され、照れながらも鏡を見た。

美しい藤色のワンピース。黒縁のメガネが完全に合ってはいないけれど、いつもの自分とは別人のように見える。

(こういう服を着れば、私も少しは可愛くなれるかな)

「壱花」

耳元で囁かれ、どきっとした。

「すごく可愛いよ。さあ、着てごらん」

そして、ワンピースを壱花に渡すと、「ここでずっと見ててもいいんだけど」と笑いながらジェインはフィッティングルームから出ていった。

壱花はワンピースを抱きしめた。まだ顔は火照っていて熱を持っている。

(試着するだけなら……)

そして、ワンピースの袖に腕を通していった。


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