episode 77
陽の光が差している。
その光がステンドグラスを通して、柔らかな色となり、そしてジェインに降り注いでいた。
(綺麗……)
言葉を失い、すぐに鉛筆を握り直した。さらさらと黒い線を走らせる。ジェインの背が高いのは、否応なしにわかっていたし、横顔ならしっかり盗み見ることができるため、鼻も高いことも知っている。ただ、真正面からはあまりはっきりとは見たことがない。それほど眩しい人だからだ。
青い瞳。緩やかなウェーブのかかった金髪。さらさらと鉛筆を滑らせていく。金髪より少し茶色がかったアーチ状の眉。唇は薄く、いつも微笑みを浮かべている。
完璧な人だ。さらには仕事もできて、CEOという名のトップに君臨している。
(そうなんだ、どこまでも完璧で、人からの信頼も厚いし。本当にすごい人なんだな……)
名古屋支社の社員の間でも、草壁ジェインの話題で持ちきりだ。
「また出張に来てくれないかしら。そしたら今度こそは押しまくるのに!」
主に女性から。イケメンだのセクシーだのハイスペックだのと噂は尽きない。そんな人がなぜ、自分なんかに構うのか?
好きだと言われても、耳を疑ってしまう自分がいる。
現に今も、だ。
あの、ステンドグラスの綺麗な光を浴びれば、自分も少しは綺麗に見えるだろうか。あの、柔らかな光の中なら一緒にいても、遜色なく見えるのだろうか。
もっともっと綺麗な格好をしたら、自信を持って並んで歩けるようになるのかな。
(……そんなわけない)
胸が。
ぎしっと軋んだ気がした。
どれもこれも、自信はこれっぽっちもない。自分はまず、顔を上げて堂々歩くことすら、覚束ないのだから。
本当は、ジェインにプレゼントしてもらったブラウスとスカートを着て、今日のお出かけに臨みたかった。
それなのに。あの日に起こってしまった事件で、すべて台無しになってしまう。今から1週間前のことだった。
ジェインが外せない仕事があると言っていたその日。日曜日の午後。前から機会があったら一度入ってみたいと、憧れていた駅前のオシャレなカフェへと向かった。
ジェインから贈られた洋服が、背中を押してくれた。パステルオレンジとイエローのグラデーション。そのセットアップを着ると、憧れのカフェの中にいてもきっとおかしくないと、思えたからだ。
「いらっしゃいませ〜」
席に案内される。周りは若い女性ばかり。やはりみな、可愛く着飾っている。
「入っちゃった……」
ドキドキしながら、カフェラテとガトーショコラを注文した。今日は自分が主役。そんな風に夢見心地でガトーショコラを完食し、カフェラテを半分ほど飲んでいた時に。
目の前にいつのまにか、和田弥一が立っているのに気がついた。
「えっ! や、やっ……ちゃん」
一瞬。ひゅと息を飲んだ。
「どうして、ここ、」




