episode 21
「お似合いですよ」
鏡の前でぎこちなく、立ち尽くしている。
購入予定の客ならば喜んでポーズ、まではいかなくとも身体を斜めにしたり、くるりと一周回ったりする場だろう。
けれど、壱花はそれをしない。なぜなら、購入しようとして、この店にやってきたわけではないからだ。
「このバッグ可愛いよ。すごく似合ってる」
オレンジ色の温かみのある、ショルダーバッグだ。
「壱花ちゃん、黒のワンピースが多いから、差し色として、バッグと靴をどうかなと思って」
壱花が、はっと顔を上げた。鏡に映った表情は曇っていて、暗い。
「やっちゃんが……あ、彼氏なんですけど、黒のワンピース一択にしろって」
一気に興がさめた。黒一択だって? 壱花の個性を潰す気か。
ジェインの硬くなった表情を見て、壱花が空気を読んだ。
「あ、でも! 黒だと間違いないっていうか、組み合わせとか考えなくてもいいし、私もその方が楽だから……」
さながら彼氏の言うことなら何でも聞く、お人形のようだ。
ため息を吐きたくなる。
おでこを見せただけで、こんなにも可愛いんだぞ。色とりどりのワンピースならもっと垢抜けて可愛いくなるはずだ。
けれど。
「うん、黒ね。壱花ちゃんに、一番似合ってるよ」
それも本心だと正直に言う。深い宝石のような黒の瞳にぴったり寄り添っていると思うからだ。
だからこそ、その美しい黒に少しだけでも色を足していきたい。
「これを貰おうか」
「ジェインさん! こんな高価なバッグ、買えませんから!」
「美味しいハンバーガーのお礼にプレゼントさせて」
「ええぇ! そんなのはダメですよ! だってマクドナルドは、スーツを汚しちゃったお詫びに……」
壱花の肩からショルダーバッグを取ると、店員へと渡す。
「んーーー? そうだっけ? でも俺、調子に乗ってナゲットもポテトも頼んじゃったしなあ。あと、シェイク? あれもうまかった。俺ばっかり良い思いをしても申し訳ないから、これでチャラにしてくれない?」




