episode 163
「え? でもまだ……」
『わかってるよ。そりゃあ壱花にしてみれば、俺が暴走してるだけに見えるかもだけど』
スマホの画面の中でジェインは居住まいを正した。真剣な表情だ。壱花にとって、例えばそれまでの人生が変わってしまうような、そんな重大な事柄なのだろうか。
じっと自分を見つめてくる瞳。逃げたくとも逃げられないような、圧がある。
「あの……ジェインさん?」
その圧に耐えきれなくなりそうで、壱花は眉を寄せながら、スマホの画面に向かって問うた。
『うん。よし。えっとね、壱花ちゃん。俺のプロポーズね、今日、受けたってことにして欲しいんだ』
「えええ!! きょ、今日ですか?」
どういうことなのか、なにがなんだかわからない。頭も気持ちも混乱している。
『そうなんだ。実はみんなの前でプロポーズしたことには、意味があってね』
ジェインがにっこりと笑いながら、書類を見せてくる。そこには、『婚姻届』とあり、壱花はさらに混乱した。目をしばたいてから、凝視する。書類は本物のようだった。
「ど!ま、待ってください!」
『ど? ははは、壱花ちゃんは面白いなあ』
「……どういうことですか、と訊こうと思いましたのですがっっ」
『大丈夫? 落ち着いて落ち着いて』
「……け。こん」
くくくとジェインの含み笑い。
『壱花ちゃんさ、今月末の土日ってスケジュール空いてる?』
追いつかない頭でカレンダーを見る。
「はい。特に予定はありませんが」
『じゃあさ、その二日間空けといてもらえないかな。この契約結婚について、その時に説明するよ。金曜日の夜、迎えに行くね』
「契約結婚……早くその理由を聞きたい気もしますが……わわかりまし、た」
それでその日はお開きになった。
「なんか今日は色々追いつかない日だった……疲れた……」
のそっとベッドに入るが、どきどきした胸に、眠気はやってこない。落ち着かないし、なかなか眠れない。壱花は薬指にはめられたリングを何度も何度も触っていた。
結婚? 契約?
今日は驚くことばかりだった。
ジェインの辞任と起業、このサプライズの指輪、レイラさんがお兄さんだったこと、そして。
「結婚なんて考えてもいなかったし、まだ付き合ってもいないのに……」
お付き合いゼロからの結婚。甘い恋人時代は全部すっ飛ばして結婚。
「けっこん。けこん、けえっこん、む」
その時にピロンとLINEが鳴った。ジェインからだ。
(なにか忘れ物でもしたのかな)
スマホを開けてみる。
すると。
『さっき言うの忘れてたけど、壱花ちゃんってパスポートって持ってる?』
すでにベッドの中だが、眩暈がして倒れそうになった。
とにかくよくわからない1日が、ようやく終わりを告げた。
第1部 完
長きに渡りお付き合いくださいましてありがとうございます。遅筆でストーリーも遅々として進まず、しかも題名通りにいかずに苦労しましたが、なんとか第1部を書き上げることができました。
たくさんの方にお読みいただきまして、ありがとうございました。引き続き第2部に突入したいと思いますが、話数がすごいことになってしまっていますので、このまま一旦は完結登録させていただきたいと思います。
第2部では、ジェインと壱花の契約結婚のもだもだ騒動を書きたいと思っています。ジェインの秘密やジェインのお兄さん(お姉さん)や両親との絡み、新たなるライバル、二人のいちゃいちゃなどを書く予定にしています。
『溺愛がっつきオオカミCEOは、かつて遠恋だったぷるぷるひ弱な子ネコを遠慮なく可愛がり倒していますが、色々と訳あって今では激甘契約結婚続行中です。』(仮)
お時間がありましたら、お読みいただければ幸いです。
改めましてたくさんのブクマやスターをありがとうございました。書いている間、とても励みになりました。心から感謝を申し上げます。 三千




