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俺は冷たく固い感触を肌で感じながら目が覚めた。
「ん、ここは……?」
辺りを確認すると薄暗くカビ臭い牢屋に俺はいた。手足は鎖で繋がれており誰がどう見ても投獄者だ。
一体これはどういう事なんだか意味が分からない
俺は自分のありえない事態に大声で叫んだ。
「誰かいないのか‼ なんで俺が鎖に繋がれて牢屋に閉じ込められているんだいるんだっ‼」
鎖に繋がれ牢屋に入れられるような悪いことをした覚えはない。何故こんな状況になったのか意識を失う前の事を考えてみる。
(……確か俺は冒険者ギルドでデタラメな悪名が広がっていた事に絶望し、冒険者ギルドを飛び出して目的地もなく走り、立ち止まった場所で蹲っていたはず。その後……そうだ! 俺は女の子に会ってあまりの美しさと可愛さに目を奪われ、女の子が目を合わせてきた途端、意識が朦朧とし気を失ったんだ)
なら……俺を牢屋に入れたのはあの時出会った女の子なのか? もし、そうだとして理由はいったい。
首を傾げ疑問に思っていると、コツコツ、と足音が聞こえてくる。
音のする方へ目を向けているとあの時の美しく可愛い女の子が現れた。
おそらく年齢は14歳ぐらいだろうか? 美しい紫色の髪を靡かせ、美しいドレスから覗く黒いタイツに包まれた綺麗な足には、思わず目がいってしまう。
美しくもどこか幼く可愛い顔とは裏腹に蠱惑的で妖艶な色気を放っており、顔を見るのは2度目だが、女神とも思える姿にはどうしても目を奪われてしまう。
「ふふふ、どうやら起きたようね。気分はどうかしら?」
女神にような女の子に、可愛くも甘く蠱惑的な声でそう聞かれ、その声が気持ちよく、脳が溶かされるような感覚を覚え「ああ」と恍惚の声を漏らしてしまう。
それほどまでに目の前の女の子は魅力的なのだ。
「まるで犬みたいね貴方。そんなに私と遊びたいの?」
恍惚な顔で見とれていた俺は、女の子に犬みたいと言われ、ハッ! と溶かされていた脳が正常に戻っていく。
「何で俺を牢屋に入れるんだ‼ 俺は牢屋に入れられるような事をした覚えはないぞ‼」
再び女の子に魅了されないよう声をわざと荒げる俺だが、わざとやっている時点ですでに魅了されているのだろう。
女の子はそんな俺の心の内を見透かすような目で見て、可愛らしく微笑む。
「ふふ、やっぱりいいわね貴方。こうして話したら改めて貴方が欲しくなったわ。……貴方私の下僕になりなさい。……そうしたら、可愛がってあげるわよ」
女の子の言葉に思わず「はい」と言いそうになるが、なんとかその言葉を飲み込む。
何も知らない女の子の下僕になんてなれるはずがない。
「ふざけるな‼ 何も知らないお前の下僕になんて、なるはずがないだろう‼ いいから早くここから出せ‼」
鎖に縛られてる俺は、鎖が伸びる限界まで女の子に近づく。俺と女の子の間にある鉄格子まで近づいた俺は激しく怒鳴ったが、またしても見透かすように女の子は俺を見てくる。
「……確かに、何も知らない私の下僕になんてなりたくないわよね。なら、私の事を教えましょう」
「違う‼ そういう意味で言ったんじゃない!」
「なら、どういう意味で言ったの? 私には、私の事を知ったら下僕になっても良いと聞こえたのだけど?」
女の子に、どういう意味で言ったの? と聞かれるが、俺は何も答える事が出来なかった。
「ほら、理由を言えないじゃない。貴方の本心は、私の下僕になりたがっているのよ。だから、私の事を教えてあげる。そして、貴方が本当に思っていると事を、私が教え終わった後に教えなさい」
まるで俺が下僕になりたがっているかのように言う女の子。
聞くだけ聞いて隙があれば脱出すればいいと考え、女の子の話しに渋々耳を傾ける。
「私の名前はメアリー。メアリー・ワンダースノーよ。ワンダースノー公爵家当主の娘、この国では王族の次に偉い階級の貴族よ」
「!?」
俺は驚く。貴族だとは思っていたが、まさか公爵家のご令嬢とは思いもしなかった。
ワンダースノー家と言ったらこの国で王族をも超える軍事力を持っていると噂される大貴族だ。
「これが私の身分かしら。……ワンダースノー家の令嬢、その意味が。……妾の子とはいえ、男爵家の息子である貴方には凄さが分かるわよね……」
男爵家の息子と言われ、心臓が跳ね上がる。
何でこの女の子は俺のことを知っているのか。俺のデタラメな悪名を知ってるならわかる。だが、いくらワンダースノー家でも、元の名字を捨てシュナイダーに変えたのに、俺の過去を知っているはどう考えてもおかしい。家を追放された後、誰にも言っていないのに。
「ふふ、あなたが驚くのも分かるわ。でも何で知っているかは教えてあげない。知りたかったら私の下僕になる事よ。そうしたら教えてあげるわ」
「何度言われたって、お前の下僕になんてならない。ワンダースノー家と聞いてビビるとでも思ったか、見くびるな‼」
俺は力強く女の子にそう言い返した。……だが、俺の答えに不快になるどころか嬉しそうな女の子。
「ええ、あなたならそう言うでしょうね。たとえワンダースノー家の名前を出しても怯むどころか向かってくると思っていたわ。……だから誘い方を変えましょう」
「たとえどんな事を言われようが俺の気持ちは変わらない!」
「いいえ変わるわ。今、貴方が最も欲しい事をちょっとだけ味あわせてあげる」
意味が分からなかった。今俺が最も欲しい事を味あわせると女の子は言ったが、味あわせるとは一体どういうことなのか? そう不思議に思っていると、女の子が突然牢屋を開け俺に近づいてきた。
女の子と俺の間には何もなく,手足が縛られ身動きが取れないといっても、口が動くので一矢報いる為、やろうと思えば噛み殺すことができる。それを知ってか知らずか、俺が余裕で噛みつけれるほど近づいてきた女の子は、……俺に抱き付いてきた。
あまりに突然で身動きが出来ない。
女の子の柔らかさを体全体で感じ、女の子から香る甘い臭いが俺の脳を溶かしていき、俺は今まで味わった事のない幸福感に身を包まれる。
女の子は俺の耳元で甘く蠱惑的な声で囁く。
「最初に言ったじゃない……可愛がってあげるって。それに、分かっているのよ、貴方は私に魅了されているって。だから、はい、と言いなさい。私の下僕になれば、たーっぷりと可愛がってあげるわ」
女の子に耳元で囁かれた俺は完全に自覚してしまった。
〝初めて女の子を見た時に自分でも考えれないほど魅了され一目惚れしてしまったのだと〟
俺は言ってしまう。悪魔の誘惑に負けたかのように。
「……はい、貴方の下僕になります……」
女の子は俺の返事に満足したのか、とても魅力的な笑顔を浮かべ俺の頭を撫でる。
「今日からよろしく……私だけの下僕さん」
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