第26話「私、アリアとの決戦。」
自分の正体が多くの異世界へ渡る多くの「東雲火花」の一人だと分かった。
黒い火花を打ち倒し、クラミツハを受け継いで竜の力を全て集めた火花はアリアとの決戦へと臨む。
火花とアリアの激戦が始まり、お互いが身体中を斬り合い、そして復活するという戦いを繰り広げて何時か。次第に二人の怒号は別の物へと変わっていた。
「ハッ、ハッ、あは、あはは!」
「フッ、フッ、ふふ、ふはは!」
お互いを殺し合いながらも二人は笑っている。そんな様子を見て
「うわー、キモチワルイ。」
と、ロードが素直に呟いた。周りのみんなも、力強く頷いて同感した。
「あはは!アリア!アリアー!」
「ふはは!死人の目!死人の目ー!」
火花はスヴァローグの炎とペルーンの雷をダークルージュに纏うと、アリアはノコギリに札を巻きつけ、同じく炎と雷を纏った。
それがぶつかり合い、月夜の砂漠を照らす。それは殺し合いのはずなのに、どこか美しい光を放っていた。何より戦う二人が、心から楽しんでいることが他から見てもわかる程であった。
火花は戦っているうちに、天使の事も、何もかも忘れてこのまま戦っていたいと感じていた。
アリアも、同じ気持ちだった。人間の実験台にされ、無理矢理不死の肉体にさせられた彼女は生きることが苦痛で仕方なかった。
しかし、今、こうして火花と戦っている事で初めて生きていてよかったと感じていた。
しかしその戦いはミシロ達からすれば、両者の身体が千切れては復活し、焼き尽くされて異臭を放っては蘇るため見ていて気持ちの良いものではなかった。
傍観者達はかなりゲンナリしていた。内心は遊んでいないでさっさと片付けて天使を何とかしてほしかった。
「どうした死人の目!まだ力があるだろう!」
「あははは!じゃあ、これならどうかなぁ!?」
私は先程受け継いだばかりのクラミツハの力を使った。背中から悪魔のような翼が生え、身体から闇が溢れる。
「ふははは!飛べるようになったか!バカとなんとやらは高いところが好きらしいからなぁ!」
「じゃあ一緒にバカになろうか!」
私はそのまま滑空してアリアを空中へ連れ去る。
「離せ!離せ死人の目がぁ!!お、おお、海が見える。こんな高く飛んだのは初めてだ……」
一瞬。私達は抱き合う形で一瞬停戦して月夜の水平線を眺めた。
「綺麗でしょ……。ねぇ、アリア、貴女」
私が心の中で訪ねたいこと。それを話そうとした瞬間アリアは手を振りほどいて落下していった。
なんて、悲しい目をしているのだろう。
「さぁ、こい!」
砂漠とはいえ数百メートルの高さから落ちたアリアは落ちた途端グシャグシャに潰れ、血をまき散らした。
肉片になっても、すぐさま身体が回復していく。
「お互い不器用だなぁ……気づかれたかな。この気持ち。まぁいいよ。さぁ続きだ!」
ーねぇ、ボクの力は使わないの?-
「え?今飛んでるこれじゃないの?」
ー飛ぶなんて簡単だよ。ボクの力は食べること。食べて、自分の物にするんだー
私の頭の中にクラミツハの力のイメージが現れる。この力は確かに恐ろしい。
「へぇ…じゃあアリアは大喜びだ。」
着地した私はアリアの回復を待つ。一分もしないうちにバラバラの肉片は全裸のアリアに回復した。とりあえず余ってたローブを渡す。スタイルが私より良くて殺意が沸いた。
「ねぇ、アリア。その不死、無くしてあげようか?」
「な……なにを言っている?」
「私のこの闇は貴女の不死の力を吸収することができるみたいなんだ。別に延々とこの戦いを楽しむのもいいけれど、時間はもう無くなってきてる。」
「私は…化け物ではなくなるのか?」
「うん。そのかわり条件。私の手下になること。私に忠誠を誓って。」
「に、人間に戻れるならば!頼む死人の目!」
「……。交渉、成立だね。」
「おいおい、あねさんアリアまで仲間にするつもりだぜ」
「いやよ私?」
「………。」
ミシロだけが、火花達の会話の隠されたその意味をわかっていた。
私は右手を伸ばしてアリアの額を掴む。すると溢れている闇が彼女を包み込んだ。右手から気色の悪い、反吐が出るような魔力が流れ込んできた。
「きもちわる。私元から不死だし、いらないや。」
額から外した手には淀んだビー玉のような結晶が握られており、砂漠のかなたへ投げ捨てた。
「さ、これでアリア・デルセンは人間になったよ。忠誠を誓って?」
「……ふはは。愚か者め!」
アリアがノコギリを振り下ろし、砂埃が上がった。それを見てロードが叫んだ。
「ちょっと!卑怯よ!嘘つき!でも…なんでわざわざ不死を捨てて…」
「ロード、あのアリアという人は……多分」
ミシロもティガもミャノンも、アリアの真意に気付いた。
火花は最初から、彼女の真意には気づいていた。
「私はやっと!やっと人として死ねるのだ!最高の敵と戦い、最高に死にたい!」
「だと思った。いいの?もう、勝ち目はないよ?」
彼女の悲しい目は消え去り、穏やかな表情だった。
「あぁ。さぁ、決めようか。」
二人は剣とノコギリを構えた。火花は「全て」の能力を解除し、ダークルージュだけ。アリアもノコギリをただ単純に構えていた。斬られればどちらかが死ぬ。
静寂。風が止み、月夜の砂漠に静寂が訪れる。
月が照らすのは見つめ合う二人だけ。
まるで永遠にこの静寂と緊張が続くような錯覚に陥る。
その緊張の中、ミシロが思わずゴクリと唾を飲み込んだ。
瞬間、二人は同時。
一気に距離を詰めた。
「「うおりゃああああ!!!!!」」
ノコギリが火花の右肩をかすかに斬り、ダークルージュがアリアの胴体を斬り抜いた。
再び静寂。そして月夜に照らされた二つの影のうち、一つが力なく砂漠に倒れた。
「はぁ……はぁ……。……か。ばか!ばかばかばかばかああああああああああ!このっ大馬鹿野郎おお!!」
号泣しながら火花は絶叫した。崩れ落ちるアリアを抱きかかえ、涙と悪態をついた。
「ふ…はは…。魔族が…泣くとは…地獄への良い土産が…できた」
「まだ間に合う!今からでも遅くない!私に心から忠誠を誓うと言って!」
「断る…。私は…ずっと一人だった……。部下はいても……友はいなかった…。心を踊らされる、好敵手が…。やっと…出会えたのだ…最後の…最期に」
「お願い……私にとっての好敵手は…貴女だけよ…」
「ならば…無理にでも…回復させれば…良いだろう。そうしな…いのは…お前が…ガハッ!心の中で…私の死を…しっかりと認めているから…だ」
まさにアリアの言う通りだった。火花が無理矢理にでも回復させ、拷問でもし、強制的に仲間にする方法はいくらでもある。しかし、火花は今、この時、アリアの死を心の中で認めていたのだ。
苦しんできたアリアを楽にしてあげたい。その思いが、アリアを手下にしたいという気持ちを上回っているのだった。
鼻をすすりながら私はアリアに最後のチャンス、いや、最期の言葉を聞く。
「ぐすっ……アリア…本当に、最後に聞くね。私の仲間にならない?貴女にそんな呪われた実験をした人間達に、復讐しない?復讐、しようよっ……復讐っ…するべきだよっ!」
私はアリアがどうこの質問に答え、応えるかはもう分かっている。分かっているけれど、もしかしたらという淡い期待、希望も捨てられなかった。
涙と鼻水でボロボロになりながらも優しく微笑みながらアリアへ手を伸ばした火花は、アリアから見てまるで天使のような優しさだった。
一瞬、アリアの心が揺らいだ。しかし……。
「……っぷはは。面白いことを…言う…。最後に言おう。断る…。ゲホッゲホッ!」
「……ばかっ。でも、そう言うと思った。じゃあ、地獄で会おうね?」
「そう、だ…礼を言う。死なせてくれて…ありがとう。ジー…ザス…ヒバナ。」
「ジーザス…アリア。」
二人は涙のままに微笑むと、火花のダークルージュがアリアの首をはねた。
鮮血が飛び散り、火花の顔を赤く染める。
そのアリアの見事な死に際に、ミシロ達も目に刻みつけていたのだった。
砂漠の月夜に、アリアの首を抱える火花の嗚咽が響いていた。




