第21話「私、敗北。そしてミャノン、覚醒」
暗闇の世界で黒い火花に敗れた火花。仲間の死の幻覚で打ちのめされた精神。己の無力さを恨み、祈りを叫ぶミャノン。
今、目覚める。
暗闇の中で火花は跪き、絶望していた。大切なもの達が目の前で消し去られた衝撃で心が折れていた。まるで生気のない光を失った瞳はただ涙を流すだけである。そして火花の呼吸は静かに弱っていく。
「あら、壊れちゃったぁ?んもう、私ったらだらしない。まぁ本当に皆が死んだように思える幻覚だから仕方ないか。はぁ、つまらない。貴女なら…打ち砕けると思ったのだけれど……っ!?」
咄嗟に黒い火花は飛び下がった。今飛び去った場所へ炎の剣が振り下ろされたのである。そこにいたのは具現化し、赤い女騎士の姿となったスヴァローグであった。そばには金色の鎧のペルーンも弓を構えている。水色と翠色の鎧のウィンディーネは優しく火花を抱きしめた。
「スヴァローグ、ペルーン、ウィンディーネ……貴女達どうやってこの世界へ……」
「主よ!なんと情けない!お主はこんなまやかしに心打ち砕かれる脆弱ものだったか!?」
「我が主!目を覚ませ!こんなことで立ち止まるな!」
「ほら、貴女のことが大好きな二人が来たのよ。それにロード達のことはどうするの?」
黒い火花に攻撃しながらもスヴァローグとペルーンは叫び続けた。しかし火花は虚ろに空を見つめるだけ。
「あっははは!無駄無駄無駄ァ!もう壊れちゃってるわよぉ!」
「「目覚めろ我らが主!」」
黒い火花から黒いオーラが放たれ、スヴァローグ達は吹き飛ばされる。その一瞬、火花の左手中指が動いた。外では突如火花の左手が輝き始めたのである。取り囲んでいた傷だらけのティガや不死隊は下がった。
「な、なんだ!?」
その光は暴走する火花を包み込み、闇の炎を打ち消した。そして倒れる火花を抱きしめるように白銀の騎士が現れたのである。武器も持っておらず、兜もつけていない。その端正な顔立ちは優しく火花を見つめていた。
「皆も手を貸してください!ご主人様を!火花様を皆で助けましょう!」
「その声、ミャノンか!?お前その姿っ」
「理由は後です!さぁ!みんなで手を!あ、不死隊は隊長が代表で。」
5人がミャノンに抱えられる火花の右手を握り、祈りを込める。
「さぁ、行きますよ!」
ミャノンが叫ぶと同時に5人の意識は消えていった。
闇の世界ではスヴァローグ達と黒い火花の激戦が繰り広げられていた。その最中、スヴァローグが気付いた。
「偽物、お主、クラミツハを喰ったな?この邪気の無い闇の力、クラミツハの力であろう」
「あはは、さすがスヴァローグ。同じ竜なら分かっちゃうわよねぇ。私の中で生きること拒否したから、食べちゃった。もう完全に消滅しちゃったわぁ。」
ペルーンの怒りに満ちた雷の矢が黒い火花へ向かうが、容易に弾かれる。黒い火花は闇の竜クラミツハを取り込んでいたのだ。
「やはりお前はここで殺す!我が主はそんなことはしない!」
「あはは、かかってきなさいクソトカゲども!」
黒い火花から闇が溢れてスヴァローグ達を包み込もうと飛んでくる。それを避けるため三人は背中から翼を生やし空へ飛び上がった。
スヴァローグが炎の剣で闇を斬りはらい、その隙を突いて後ろに回ってきた闇をペルーンが撃ち抜く。
そのまま黒い火花へ突撃していくが、不敵に笑う黒い火花の足元から闇が溢れ、弾き飛ばされる。
「くっ、バケモノめ!死ぬでないぞ主様よ!」
「ウィンディーネ!なんとしても我が主を守れ!」
空中で闇を斬りはらいながら必死に火花を守るが、防戦一方である。そして三人は闇に捕らえられ、黒い火花の前に引きずり出されてしまった。
「はい、おつかれさま。もう諦めちゃった。それ殺すわ。」
「させるか!」
三人は倒れる火花の前に立ちふさがり、庇った。もはやボロボロの姿で限界のはずが、全く諦めていない。
「なんなの。むかつくわぁ。死ね!」
居合斬りで一気に刀が三人へ向かった途端、闇の空から光が射した。それは黒い火花へ当たるとまるで灰になるようにサラサラと肉体が粉と化していくのだ。
「なっ、なに!?」
黒い火花が始めて驚愕の表情を浮かべて空を見上げた。空からはミャノン、ミシロ、ロード、ティガ、不死隊の隊長が空から落ちてくる。
「ひいいいい!?高いです高いです!」
ミシロが悲鳴をあげる。想像以上に高かった。
「大丈夫です!ここは精神世界!そのまま降ります!」
その落ちてくる仲間達の姿を見て、なぜか黒い火花は安堵していたのをスヴァローグは見逃さなかった。なぜ偽物の火花があんな顔をするのか、スヴァローグには理解できなかった。落下する勢いで先陣を切っていたミャノンが黒い火花に剣を振り下ろし、身体を真っ二つにしてしまう。
「くっ、ミャノンっ……!」
そのままミャノンは切り下がり火花へと駆け寄る。五人が火花の元へ降り、すぐに黒い火花へと構えた。
「てめぇ、火花のあねさんになにしやがったコラァ!」
「許さないわよ!アクアスラッシュで細切れにしてやる!」
「あーあー騒がないで。でも、ちょっと遅かったかもねぇ……」
「ま、待て!」
ティガが咄嗟に詰め寄って蹴りを入れるが、すでに粉となりかけていた黒い火花は消えていった。スヴァローグ達は力尽きたのか膝から崩れ落ち光となって消えていく。
「火花様!目を覚ましてください火花様!」
ミャノンが必死に声をかけるが、火花の目は虚ろに空を見つめているだけである。呼吸もなく、手も首もだらりと力なく崩れた。
その場にいた全員が、火花の死を感じ取った。それを否定するように泣きながらも声をかけ続けた。
「ダメだ!嫌だこんなことは!貴女はこの世界の人間を滅ぼす大事な仕事があるはずだ!やっと…やっと貴女に触れることができたというのにっ…!こんなっ…こんな終わりなんてっ…」
「火花様!私を助けて頂いたお礼、まだ返せていませんよ!いつもみたいに力強く呼んでください!」
「火花様!貴女がいなくなったら私はまた一人よ!?そんなの嫌…嫌よ…」
「火花のあねさん!起きてくれ!姉さんがいなけりゃこの世界はどうなるんだ!」
「ご主人様!我らチェルノボウグ騎士隊は貴女にしか仕えません!貴女しか、我らの未来はないのです!貴女が生きている事、400名全ての願いなのです!」
抱きかかえていた火花は、まるで灰のように崩れ落ちていく。火花の精神が死んでいく。隊長の姿も透けていき、消えていく。
「逝くな!逝くな逝くな逝くな!逝くなああああああああ!」
泣き叫ぶミャノンの手から火花が崩れ落ち、5人は元の世界へとはじき出された。外では静寂な森の中で、フェンリルに顔を舐められながら火花の亡骸が横たわっていた。先程まで周りにいたチェルノボウグ騎士隊達の姿も無い。
森に4人の叫びが木霊し、絶望が心を覆った。




