第20話「私、勇者との激戦。謎の力が現れます。」B
前回のあらすじ。
異世界の勇者ブルースと激戦を繰り広げる中、火花は致命傷を受けると再び暴走してしまう。勇者に瀕死のダメージを与えるが、逃げられてしまう。再び暴走した火花を止めるため、チェルノボウグ騎士隊、ティガは立ち向かうことを決心するが……。
瀕死のダメージを受けた勇者を回収したガルド達は必至に王都へ向かって草原を駆けていた。ガルドが背負うブルースに、メルバが魔法で止血しようとするがなぜか弾かれ血は止まらない。
「血が止まらない!止血魔法が何かに邪魔されて弾かれる!なんなのこれ!?」
「泣き言言う暇あったらなんとかしろ!腕に布なり紐なり巻いてくれ!」
「もう巻いてる!巻いても止まらないの!教会へ!呪いの一種なら解除してくれるはず!」
ガルドが背負うブルースはすでに青ざめており、意識は無い。一刻の猶予もないのは明らかだった。
「死ぬなよブルース!」
その頃、森では膠着状態となっていた。先程暴れた火花は鳴りを潜め、静かにぼうっと空の天使を眺めて佇んでいるのだ。しかし黒い鎧の周りには悍ましい赤黒いオーラが燃えており、近づく事を躊躇わせる。そのためティガもチェルノボウグ騎士隊も一歩が出なかった。ティガは小声でチェルノボウグ騎士隊の隊長に声をかけた。
「おい、お前不死隊の隊長だろ?死なないなら先行けよ……」
「死ななくても少々痛みを伴うのです。できればティガ様が先に…」
「ざけんな俺の命は一つだバカヤロウ。ったくとんだ化け物を主人に持っちまったぜ」
「ティガ様、我々が取り押さえる間になんとか紋章を攻撃できますでしょうか」
「どれくらい拘束できる」
「我ら400名全員が先程取り押さえようとして耐えた時間は3秒程でした。近づく瞬間に吹き飛ばされて燃えました。」
「3秒でどうにかしろってか。死ぬなこりゃ。でも、やるしかねえだろ」
覚悟を決めたその強い瞳に、チェルノボウグ騎士隊は力強く頷いた。
「全員同時に、突撃するぜ」
火花は気が付くと暗い世界に立っていた。
「あれ?私、切られたよね…。死んじゃった?なんか前にもこんなことがあった気が…」
自身の身体を見るが切られた痕も無く、ダークルージュも無く、ミャノンも無い。周りを見渡していると、黒い炎と共に私が現れた。
「はぁい、私。また死んじゃったのぉ?」
「はーい偽物の私。死んだのかな?てか貴女なんなの?」
「前にも言ったじゃないのぉ。私は私で貴女よ?がおー!」
「わーおマジゲシュタルト崩壊。あ、もしかしてフェンリルと合体したのって」
「ピンポーン!私の力よぉ。ちなみに外では私大暴れしてるわよ?勇者もぼっこぼこ」
「他の皆は!?」
「ふーん、自分のことより仲間のことか。昔の私には考えられないわぁ…。」
「どういうこと」
「別にいぃ。でも今回私が出てきたのは、今の中途半端な貴女じゃダメってこと。下手に不死になんてされて調子に乗るから力が発揮できてないのよ。」
「まだ力があるってこと?」
「あるわよぉ?今外で暴れてる力、あれが制御できれば勇者だろうが竜だろうが神だろうが敵じゃなかったわ」
「昔使ってたみたいな言い方するけど、私知らないよ?人違いしてない?」
「うふふ、今はそれでいいわ。さぁ、殺し合いましょ?」
そういった彼女は真っ黒な長刀を構え、身を低く下げる。居合切りの姿である。なぜか分からないが私はその姿が懐かしく思えた。
「あ……。い、いやいやいやいや!ナンデ!?ワタシナンデ!?戦う意味は!?」
「私を倒せばあの闇の力が制御できるようになるわ。ちなみに、ここで死ねばあちらでも死ぬからよろしくお願いいたしますねぇ」
「闇なんていらなっ!?」
火花の返事を待たずに黒い火花が一気に詰め寄った。その速さに目が追い付かず、すでに懐に潜り込まれていた。黒い鞘から出た黒い長刀はすでに火花の首元ぎりぎりで止められており、血の気が一気に引いた。黒い火花の目はぎらりと輝き、殺意に満ちていた。本気だ。
「いいかしら私?貴女は竜の力や神の準備したダークルージュなんかよりも強い物を持っているのよ。それが闇。炎でも雷でもない。貴方に合うのは闇なの。」
「うっ…。闇って悪なんじゃ…」
「散々人間殺しておいて悪も何もないわよ。それに…闇が悪なんて誰が言ったのぉ?ほらっ!みんなが待ってるわよぉ?」
黒い火花の蹴りが火花の腹に直撃し、吹き飛ばされてしまう。大したダメージではないが、火花の心には迷いが生まれていた。今更今まで殺してきたことは不思議と罪悪感はないが、最近の自分自身が制御しきれていない気がしていたのは事実であった。天使の墜落までの短い時間、異種族達からの希望と期待、自分の知らない力の発現。
武器の無い火花はただただ防戦一方である。
「ぐっうぅ!」
「ふぅ、つまらない。なんで攻撃してこないのぉ?あぁ、コレがなきゃ戦えなぁいって?」
黒い火花が指を鳴らすと、目の前にダークルージュが浮かんでいた。
「っ!」
火花がダークルージュを取ろうとした途端、それは黒い粉になって消えた。
「甘えないで。そんな神の作ったゴミに頼らないで。頼っていいのは自分だけよ」
「くっ!どりゃあ!」
火花がやぶれかぶれに蹴りを繰り出し、黒い火花が鞘で受け止めた。
「そうそうその調子。ほら、貴女が闇を受け入れないと、これも消えちゃうわよ?」
気が付くと黒い火花が指差す先、闇の空にはミシロやロードやティガ、具現化したスヴァローグ達、指輪はミャノンだろう、それらが浮かんでいるのだ。
「みんなっ!?」
飛び上がろうとした途端、火花は組み伏せられ鞘と長刀で押さえつけられる。
「ほら、これが…闇を受け入れない未来よぉ?」
「や、やめて!?やめろ!」
必死に火花が手を伸ばすが、圧倒的な力によって抑えられており動けない。
黒い火花が指を鳴らすと同時に皆が黒い粉となって消えていってしまう。
「い、いやぁあああああああ!?」
闇に火花の悲鳴が響き渡った。その瞬間、森で佇んでいた黒い鎧の火花も悲鳴を上げ暴れ始めた。突撃しようとしていたティガや不死隊達は驚いて身構えた。その声に気絶していたミシロも意識を取り戻した。
「う…ひば…なさま?」
「ミシロ、起きたのね。火花様が大変なことになってるわよ」
すでにロードもウィンディーネの鎧とアクアスラッシュを装備して炎を避けている。
「チビ達は動くな!岩陰に隠れてろ!」
叫びと同時に火花とティガ達の戦いが始まっており、森は黒い炎に飲まれ黒々と燃えていた。不死隊達が消えては蘇り火花へと立ち向かっていくが、まるで飛んで火にいる夏の虫。ティガがなんとか近づいても炎によって弾かれてしまう。
「おいミャノン!聞こえるかミャノン!クールなんとかってやつ使え!おい!」
火花の指にはめられているであろうミャノンへ声をかけるが、応答はない。ミャノンは、苦悩していた。
ー私は……メタトロン様にご主人様をサポートせよと命じられたただの指輪。今はそれが恨めしいっ!これほど指輪である存在を恨んだことはないっ!守りたい主人を守れず…なにが神の指輪か!-
ミャノンは思い出していた。これまで火花や仲間達が命がけで戦い、苦しむ中自分はただ見つめることしかできなかったことを。
ーミャノン、聞こえるかしら?-
ーメタトロン様!?メタトロン様!なぜ私はこのような力のない物なのです!心はあるのに!心に従って行動できない!なぜ私を創ったのです!こんなっこんな悔しい思いを!-
ーここまで自我を成長させるなんて…、やはり火花は。ミャノン、貴方はここまでとても悔しい思いをしましたね。ただの指輪としての運命、覆してみなさい。貴方の意志を。ー
ー私の意志は……私は…俺はっ!火花様と一緒に戦いたい!-
次回、ミャノンの意志が運命を変える。