第16話「私、ヴェルカンディアス到着。空の天使に異変が起きます。」B
ヴェルカンディアス大陸に到着した火花達は一か月で審判の女神がこの世界へと落ちてくることを知った。そしてミャノンはめっちゃ怒られた。
町で天使が一カ月で落ちてくることを知った火花達は更に情報収集を行うと、現状は悪化どころか最悪の方向に進んでいた。火花達はあらかた情報を入手すると一度モビィディックへと戻った。甲板に乗組員の全員を集めると、異種族達は跪き火花の命令を待っていた。
「ヴェンジェンスウルフの皆聞いて!あの空にいる天使はあと一か月程でこの世界に落ちてくることが分かったの!魔法の影響で進路がズレているらしくて、落下場所はゴールドシュガーの隣にある大陸!さっき名前を知ったけどゼロノス大陸って場所らしい。」
なんと私は今頃になって始まりの大陸の名前を知った。ミシロちゃんは知っていたらしいが、聞かれなかったので当然知っているものだと思っていたらしい。
その話を聞いて全員がざわついた。分かってはいたことであったがそれほど早く落ちてくるとは思ってもいなかったのだ。もちろん火花自身もそうだった。空の天使を見上げると以前よりも傾きが見えている。
「そこでみんなには少しでも生き残りを作るためにゴールドシュガー大陸へ戻って異種族達を出来る限り船に乗せてほしいの!内陸は間に合わないから沿岸の町を周って!私とミシロ、ロード、ティガはこの大陸であの天使を倒すために残りの四竜を探し出しつつ人間を滅ぼしていく!」
「火花様!この船の代表はっ!」
声をあげたのは先の戦闘で赤の戦艦に工作へと向かった勇敢なマーメイドの一人だった。青髪の彼女は生き残ったマーメイド族のリーダーであった。
「たしかフェイさん、だったよね?貴女に任せます!あの戦艦爆破の立案と実行力、判断力があるならみんなをまとめられるはずです。異論がない方!」
そこにいた全員が力強く頷いた。先の戦闘で戦艦を奇襲する作戦をとっさに立案して実行したのは彼女であった。その実績と安心性に誰も疑う余地はなかったのだ。
「モビィディックの速度なら明日にでもゴールドシュガー大陸に着く。できれば奥地のシーゲートまで回ってほしい。そこに恩人達がいる。火花が乗れって言ってたと伝えればくるはず。更に奥のグリーンバースは、もう無理か。再会の場所はこの町で。」
「わかりました火花様。モビィディックの大きさなら生き残った異種族くらい余裕で入るでしょう。もしまた捨て戦艦があれば利用したいと思います。」
「うん、そうして。あと各種族の隊長もフェイさんが決めていい。よし、じゃあみんな気を付けて!必ず生きてまた会おう!」
「火花様ーー!是非これをお掲げください!」
「お、あれが間に合ったのか!」
どうやらティガは何なのか知っていたらしい。ピクシィ達が広げたそれを見て私は興奮した。分かれる直前、小さなピクシィ達が持ってきたのは大きな旗であった。旗にはおぞましい血の滴る狼の横顔が描かれていた。
「わーおマジこれ!?最高のセンスじゃん!」
「これは私達、「復讐の狼」をイメージして描きました。刺繍の糸にはここにいる者達の毛を少しずつ使っております。どうかこれを、あの憎い人間どもが死ぬ様に見せつけてほしいのです」
「この旗と込められた恨みの思い、受け取ったよ。必ずヴェルカンディアスに、人間に思い知らせてやる。」
モビィディックに乗った仲間達と別れた火花達は物資を補給し、一番近くにいるとされる水の竜ウィンディーネの元へと向かうことにした。内陸方面へ1日も進むとあるとされる森と水の聖域。そこは邪な存在が入ることを許されない神聖なる遺跡と言われており、ヴェルカンディアスすら手を出さないという。
向かう途中に村があり、チェルノボウグ騎士隊が殲滅する。しかし最後まで抵抗していた若者達が火花の前に引きずり出された。その中の一人が興味深いことを叫んだのだ。
「お前たちは必ず勇者様に倒される!今に見ていろ魔族め!!」
「バカ!言うな!」
「誰が魔族よ。私は人間よ。てか、勇者?もしかして…」
火花は思い出した。ロードを助ける際に町で聞いた話。20年前に勇者に敗れて魔族は死んでいったと。傍にいたロードが唇を噛んで悔しさを押し込めていた。
「ロード、大丈夫ですよ。火花様がきっとお父様の無念、貴女の屈辱を晴らしてくれる。」
ミシロがロードの手を握って落ち着かせた。
「それで、その勇者ってのはどこにいるの?」
「さぁな。」
「お前の命はあと5秒~。ごぉ~、よぉん」
火花はダークルージュで一人の首をはねた。
「ひっぃっい!?待ってくれ!し、しらな」
「3!2!」
二人首をはねられ残った二人は失禁してしまった。もう一人の男は涙ながらに土下座して泣きついた。
「ハヒィィ!?み、見逃してくれ!俺ぁブルーサファイアへ行ったら王都にいる婚約者と結婚するん」
「なおさら死ね。い~ち」
泣きついた男の頭を踏み砕き、脳漿が飛び散った。
残り一人となった男は無様にも失禁だけでなく涙や鼻水を垂れ流しながら答えた。
「お、おおお王都からお前達を殺すため向かっていると聞く!散り散りになった仲間を呼び戻しながら!」
「ゼロだ~」
火花は背を向けてティガに目線を送った。
「はい説明お疲れさん。オラッ!」
ティガが首を蹴り飛ばし、飛ばされた首が不死隊の隊長の頭に直撃した。
「あのー、当たりましたけど」
「わりぃ。」
「勇者、か。それを殺せばロードの思いを晴らすこともできるし人間に絶望を送ることもできるね」
ミシロは再び表れた闇に染まった瞳におびえた。ロードもティガも最初の頃の火花を知らないためこれが火花の恐ろしい性格だと思っているはずだが、ミシロだけが不安と言い知れない恐怖を感じていた。
次回、聖域へ向かう火花達の前に新たな敵が立ちはだかる。そしてミシロの不安と言い知れぬ恐怖が現実のものとなる。