第17話「私、暴走」A
モビィディックは異種族救出のため別れ、火花達は竜を探すためヴェルカンディアス大陸を進むことになった。
聖域へと向かう森の中、火花達は黒いローブを着た者達と突如戦闘になった。待ち伏せされていたらしく火花とミシロ達は二手に分かれてしまったのだ。ミシロ達にはチェルノボウグ騎士隊がいるため安心だが、不死の力がない状態の火花は防戦一方である。
「くっ、動きが早すぎてとらえられないっ!だったらっ!」
巨木の森の中を自在に飛び回る敵は完全にとらえられない。火花は冷静に岩陰へ隠れ、ペルーンの雷で狙撃していく。雷の速さには敵うはずもなく次々と撃ち落されていく。数分後には敵の気配は消え、安堵した瞬間だった。
「お久しぶりねぇ私?」
「なっ!?」
一瞬見えた黒い影、そして火花の意識はそこで途絶えた。
その頃ミシロ達は森で大量の敵と戦闘を繰り広げていた。黒いフードの敵は決して接近戦には持ち込まず、遠距離から強力な魔法を撃ってくる。不死隊達やロードが何とか魔法を防ぎつつ敵を追うが、追えば下がり、逃げれば追ってくる手練れの組織であった。円形に陣を組んだ不死隊は盾を構え、完全防御の状態でミシロ、ロード、ティガを守った。しかしそれはこちらも移動できない膠着状態を作る苦肉の策であった。
「くっそ!正々堂々と勝負しやがれ!」
「ティガさん大声を出さないでください。余計敵に位置がばれます」
「火花様は大丈夫なのかしら。」
「火花のあねさんなら大丈夫だろ。それよりこの状態、どうしたもんか。」
「うーん。1、突破口を考え付き脱出できる。2、火花様が助けに来てくれる。3、現実は非常である。このまま膠着状態で敵も私達もお腹がすいて餓死する。どれかしらね」
「ロードさん、4を追加してください。敵の増援がやってきて更にピンチになる、ですよ」
森の奥から気配を隠すこともなく恐ろしいオーラを纏って複数の人間が歩いてくる。それを視認した瞬間ミシロの血の気が下がった。一気に顔が青ざめ、絶望した。
「ヴェルカンディアス…神罰部隊っ…!」
先頭を歩いていたのはノコギリをすでに血で濡らすアリア・デルセン。他の仲間達も続けてあるいてくる。その異様な雰囲気に黒いローブ達も硬直する。ロードもティガもヴェルカンディアス神罰部隊については知っていたが、直接見るのは初めてであった。
三すくみとなった森にさらなる緊張と静寂が訪れる。そしてアリアがノコギリを向けたのは黒いローブ達へだ。
「ジイイザス!神に仇なす愚か者どもめ!ヤギョウ討つべし!」
黒いローブ達へ向かって駆け出していく隊員達は鋼鉄のワイヤーや魔法、肉弾戦等を始め激戦の火ぶたが切って落とされた。その様子を茫然とミシロ達は見ているしかなかった。
「貴様らぁ。いつまでそこにいるつもりだ?不死の蛆虫が何百と固まっていると邪魔だ!私の気が変わらないうちにさっさと行け!」
「えっ、あ、ありがとうございます?」
「ここから南にある聖域へ進め!そこで死人の目が暴れまわっていて手が付けられん。何があったか知らないがあれでは魔物になってしまうぞ?」
「っ!火花様!」
ミシロの脳裏にあの闇に染まった瞳の火花がよぎった。全員が南へ向かって駆け出した。
「隊長、逃がしてよろしいので?」
アリアの側近が耳元で囁いた。
「さっき見たあの化け物、お前はこの最低限の装備で戦いたいか?」
「失言でした。できれば関わりたくないです。あのヒバナという者、以前見た時と様子が違いましたがあれは一体……」
「あいつ等に任せよう。私達が関わるのは倒せる時になってからだ。隊員に告ぐ!一人捕虜にしろ!尋問してヤギョウ本部を見つけ出すのだ!」
南へ向かってしばらく走ると、聖域と呼ばれていたであろう場所はすでに炎と黒い闇に飲まれ無残な姿になっていた。所々にまだ美しい草花が見えるが、もはや塵のようである。その中心にある遺跡のような場所で激しく何かがぶつかる音が聞こえた。
「この気配、火花のあねさん…だよな?なんか変だぜ」
ティガが聖域のいたるところにある火花の通った気配を感じる。しかしいつもの気配とは似ているが、違和感の感じる物。ティガの髪がざわざわと揺れる。
「ティガ、ミシロ、今回は私の後ろにいて。この闇は私にしか防げない魔族のもの…どころかそれ以上のものよ。不死隊の皆さんも後ろをついてきて」
ロードが斧を振るって闇と炎を振り払いながら音の方向へ進んでいく。すると朽ち果てた城が現れ、突如中から爆発と共に闇と炎の塊が飛び出してきた。
「火花様…!?」
ミシロが叫んだ。吹き飛んできたのはフェンリルに似た狼のような鎧を着た者である。それが着地した途端足元から闇が溢れ、残った美しい草花が枯れ果てていく。その後を追うように城からは水色と緑色が鮮やかに輝く竜が飛び出してきた。それを迎え撃つように飛び上がった黒い鎧の火花はダークルージュでぶつかり合った。
『グァアアアアア!!』
獣のような叫び声をあげる火花は身の丈の何十倍もある巨大な竜を剣一本で地面へ叩き落してしまったのだ。その姿を見てミシロはすぐに探していた竜の一匹だと気づいた。
「あれはっ、ウィンディーネです!なぜこんなことに!?」
「なっ、なによあれ!?あれが火花様!?」
ロードの信じられないという悲痛な言葉にミシロもティガも同感した。しかし手に持つダークルージュが火花であることを間違いなく証明している。そこで冷静にティガがあることに気付いた。
「……なぁチビシロ、あの竜って殺しちまったらまずいんじゃないのか?力をもらわないといけないとかなんとかって火花のあねさん言ってたよな?」
「そ、そうです!竜の力全てを集めれば空の天使を止められる可能性があると別の竜さんから…。火花様を止めなくては!」
「茨で止められるかしら。こ、殺されそうなんだけれど」
「「「…………」」」
「ぜ、全員突撃ですぅぅぅううう!」
やけになったミシロに続いてロードやティガ、不死隊達もやけになって立ち向かっていった。
ミシロ達は突如自分たちの主人と戦うことになってしまった。




