第13話「私、私と戦います。そしてロードの力」A
前回のあらすじ。
ロードを仲間にした火花達はヴェルカンディアスへ行くためマリアブルへと向かった。
火花、ミシロ、ロードはマリアブルが見える丘まで来て唖然とした。
「ねぇ、ミシロちゃん。マリアブルって美しい港町なんだよね?」
「そ、そうです。3年前私が来た時はまだ活気はあって……美しくて…」
「私は捕まってたからこんなことになってるなんて知らなかったわ…。」
宝石とまで言われていたとされるマリアブルは、まるで闇のような黒い霧に飲み込まれているのだ。蠢くそれは町を全て包み込んでいる。三人は町の近くへと来ると、入ることにためらった。
「ちょっと燃やしてみようか」
黒い霧へ向かって火花がスヴァローグの炎を振り下ろした。するとまるで飲み込むかのように炎が吸収されてしまったのだ。
「火花様の炎が!?なんなのでしょう」
「んー…みんなちょっと」
火花は短剣を掲げチェルノボウグ騎士隊を呼び出した。不死隊達は跪き、火花の命令を待つ。
「この霧触ってみて?」
チェルノボウグ騎士隊は一度顔を上げて闇の霧を見ると、げんなりした顔になった。
「えぇ~って顔しないでよ!ここからじゃないと船出てないんだし、隊長、Go。」
「か、かしこまりました。」
チェルノボウグ騎士隊の隊長が闇の霧に触れる。
「闇の力は感じますが、何も攻撃的な力がないです。」
「こんな真っ黒なのに力がない?なにかの魔法?」
「視界妨害魔法ならわかりますが、こんな魔法ではなかったです」
「あ、そうだ。ダークルージュなら魔法を弾くはず!」
炎を解除し、ダークルージュの刀身で闇に触れると蒸発するかのように正面に道が開けていく。
「成功!とりあえず不死隊のみんなは後ろをついてきて!」
すんなりと空いた道に、ロードは違和感を感じていた。しかし違和感の正体がわからずそのまま火花達と共に霧へと進む。
火花達が闇を切り開きながら町へ入った途端、闇に飲まれた。
「きゃあ!?な、なに?」
いつの間にか火花の周りには誰もおらず、一人町の真ん中に佇んでいた。すると霧の奥から一人、人の影が歩み寄ってくるのが見えた。
「ミシロちゃん?ロード?」
その瞬間霧から飛び上がった者は火花に切りかかってきた。咄嗟に反応した火花がダークルージュで受け止める。
「誰あなた!とりゃ!」
弾き飛ばしたその正体に火花は戦慄した。
「え……私?」
そこにいたのは衣服も髪も目も剣も真っ黒な火花そっくりな人物だった。
『ウフフ…やっと会えた。ずっと会いたかったのよぉ?』
そのにたにたと笑う顔に火花の背筋がぞっとした。一瞬で火花の頭の中には「こいつはヤバイ奴だ。」と警告が鳴り響く。
「ヴェルカンディアスの手先!?なら斬るだけ!」
火花がスヴァローグの炎を出そうと指輪を構えるが、身体に鎧も炎も装着されない。
「あ、あれ?ペルーンさん!」
ペルーンの指輪を構えるが雷は出ない。挙句の果てにはフェンリルも出てこないのだ。
『せっかくの二人きり…邪魔なんてさせないわぁ?フッ!』
黒い剣を振り下ろしてきたもう一人の黒い火花は嬉しそうに凄まじい勢いの剣撃を打ち込んでくるのだ。火花もやっとのことで剣を防いでいる状態で防戦一方だ。
「うっぐぅ!誰だか知らないけど私の真似なんてしないで!」
力押しで押し返すと、黒い火花は空中で態勢を立て直した。
『真似?おかしなこと言うのねぇ私は。私は貴女、貴女は私よ?』
「私そんな黒くないし!おりゃ!」
剣撃のぶつかり合いが続き、鍔迫り合いとなった。その瞬間、一瞬の隙をついて火花の右足の蹴りが黒い火花に直撃した。
「てりゃ!」
『ごがぁっ』
一気に吹き飛んだ黒い火花は民家へと突っ込み土埃を巻き上げる。
「ふん!私は私だよ!偽物なんかに負けない!」
『でも油断しちゃうのが私なのよねぇ?』
「なっ!?」
吹き飛ばしたはずの黒い火花がいつの間にか火花の真後ろに立っており、逃げようとした。しかし羽交い絞めにされ地面に組み伏せられてしまった。両手首を押さえつけられダークルージュが手から離れる。
「はっ離して!」
『死なないから油断するのよね。だから、死ぬようにしてあげる』
「な、なにする気っ!んむっ!?」
火花は突然黒い火花にキスされ、ゆっくりと意識が消えていく。
『また会いましょうね。私。』
しばらくして火花は目が覚めると道で倒れていた。先程の戦いは夢だったのかと思うが破壊された家屋や傷ついた路面が先程の戦いを物語っていた。先程のキスを思い出し、思わず口を押えた。
「初めてが自分って…なんの冗談……」
「火花様ー!こちらにいたのですね!急に霧に飲み込まれてはぐれてしまい、探していたのです!」
「ミシロちゃん、無事でよかった。不死隊やロードは?」
そうミシロちゃんに尋ねた途端、町の奥で轟音が響いた。
「行ってみよう!さっきの私がいるかも!」
「???」
次回、ロードの力を知る。