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太郎の怠惰と誤算


なぜ? 何故こんなことになった?

神様、どういうことだ。話が違うじゃないか。

俺はこの世界で、最強の力を得て、最高に満たされた人生を過ごすんじゃなかったのか。


「お兄ちゃん。会いたかった」

俺の首元に抱き着いてきているのは、制服姿の妹。

この世界にいるはずのない、たった一人の肉親の花子。

すっかり俺に懐いてくれたルマナちゃんを抱き寄せようとして、突然現れて彼女を引きはがした、これ以上ない邪魔者。

血の気が引いた。

体が硬直した。

「なんで」と掠れた声で呟くことしかできなかった。

「お兄ちゃん、私も死んだのよ。通り魔に殺された。そうしたら神様に会えて、生まれ変わらないかって聞かれた。お兄ちゃんもそうだったんだよね? 小説で読んだ」

小説? いったい何のことだ。

俺はただ幸せに暮らしていただけだ──最近ちょっと退屈してきたのは事実だが。

親が急死して、まだ幼い妹の養育という義務と親戚からの目に雁字搦めにされ、放り出すことも逃れることもままならず、当たり前のように自分の意志と自由を制限して生きなければならなくなった。

そんな中で出会った『ノソトロスの剣』は、俺にとって唯一の癒しだった。

俺もここに描かれたキャラみたいに奔放に生きてかっこよく決めて、ヨヴァン姐さんやルマナちゃんみたいに綺麗な女の人に好かれていけたらどんなにいいかと密かに夢見ていた。実際にそうやって生きている自分を妄想することなど日常茶飯事だった。

そして俺は死に、あの白髭の神様に転生を持ちかけられた。すぐに飛びついた。

この世界では何もかもが俺の思い通りになった。魔王はカスみたいに弱っちかった。……違う、俺が強すぎたんだ。

俺が何をしてもみんな許された。ヨヴァン姐さんもルマナちゃんも俺を好きになってくれた。

望むものを全て手に入れた。生きている時、死ぬほど苦労したんだから当然の報酬だと思った。

なのに、何故。何故──

「最初は、神様に会ったら仕返ししてやるつもりだった。でもやめたよ……だって、大好きな『ノソ剣』の世界で、大好きなお兄ちゃんに会える。それだったら、何もいらないって思った。復讐なんてどうでもいいって。スエロだってそうだったし」

俺が聞く前に、花子は勝手にそう語る。

引き離したいのは山々だったが、予想外と言うにも生ぬるい事態で腕に力が入らなかった。

その瞬間、ばんっ!と玉座の間の扉がぶち破られ、今まで文句言わず俺に従ってきていた『ノソ剣』の勇者メンバーたちがなだれ込んでくる。

「呪縛は解かれた……ここまでだタロウ。最早お前の救世主としての過去の名誉は無意味。ノソトロスのために、消えてもらおう!」

スエロが先頭に立ち、バリバリと魔術の雷光を纏わせた剣の切っ先を向けた。

その隣には、まるで汚いものでも見るかのように顔を顰めたヨヴァン姐さんの姿があり、さっきまで俺に甘えてくれたはずのルマナちゃんは早々にそちらへ駆け寄って、スエロの背に隠れている。

「お兄ちゃん。悪いけど、もう終わりだよ」

抱き着いたまま、耳元で花子が囁く。

あっという間に、俺達のいる玉座は囲まれ武器を向けられていた。

「終わり、だって……?」

「そう、終わり。ここへ来るとき、神様に条件を出したの。チート能力はいらない。ただ、世界を思い通りにする力を倍にしてくれって」

それもチートみたいなもんだろ、というツッコミが浮かんで消えた。

「お兄ちゃんにもそういう力はあった。でも、私の方が倍だから押し負けて、結果的には私の意志の方が優先されるようになったの」

「じゃあ、どうして……」

どうして、こいつらは俺達に敵意をむき出しにしている?

世界を思い通りに動かせるなら、みんな今まで通りに従ってくれるはずじゃないか。

「思い通りにできるってことは、捻じ曲がってしまったこの世界の(ことわり)を元に修正するように願うことができるってこと。私とお兄ちゃんが知っている、元通りの『ノソ剣』の姿を、取り戻させることだって可能なの」

「なっ……」

「今までこの世界は、お兄ちゃんが介入してしまったせいで、みんなおかしくなって、本当の姿を失ってしまってた。でも、私がここに来て、全てが正常に戻るように望んだ。……分かる? お兄ちゃんは、この世界で何も手に入れてなんかないんだよ。たとえお兄ちゃんにすごい能力があったって、魔王を倒すために本当に死に物狂いで頑張ってきたことを本当に評価されるべきなのはスエロなの。ヨヴァンが本当に愛してるのも、お兄ちゃんじゃなくてスエロなの。ルマナもそんなスエロが大好きなの。それでこそ、私とお兄ちゃんが夢中になった『ノソトロスの剣』なの。それを好き勝手に壊す事なんて、誰にも許されてない。

 これが、この世界の本当の姿なの。お兄ちゃんは、贅沢すぎる夢に惑わされただけ」

「嘘……だ。そんな、そんなの認めない、そんな、そんな、そんな……」

「大丈夫。私が一緒にいてあげるから。だから、お兄ちゃんも目を覚まして、元に戻ろう? 私の大好きだった、誠実で優しいお兄ちゃんに戻ろう?」

花子の声が涙ぐんでいた。

ぎゅう、と腕の力が強くなる。スエロが剣を振り下ろしたのを合図に、勇者たちが雄叫びを上げて押し寄せてくる。

俺というラスボスを、滅ぼすために。


「お兄ちゃん……ずっと、苦労させてごめんね。寂しかった。大好きだよ。私のために頑張ってくれて、ありがとう。お疲れさま」


花子の穏やかな声を最後に、妹の優しい温もりに包まれたまま、俺の意識は途絶えた。



どうも、みけぺんです。

当作品を最後まで読んでいただき、心から感謝を申し上げます。そしてお疲れ様でした。

さて────


この作品は、当初「アンチチート転生」をコンセプトに書き始めたものですが、実際私自身はいわゆるチート転生ものの小説をほとんど読んだことがありません。食わず嫌いと言うやつです。

だから、作中で「チート転生なんてこの程度のものだろ」みたいな反発的なイメージと偏見で捉えてそのまま書き込んでいる部分が多々見られる事に対して反論はありません。

それと、神様とマイケ君がニートのことをものすごい馬鹿にしてますが、あくまで"人間を超越したモノが人間を見下して"ぶつくさと勝手な批評を下しているだけにすぎません。私個人はニートを貶す感情など一切持ち合わせておりません。だって、実際今の自分自身がニートだもの……orz

『ノソトロスの剣』という漫画は当然ながら実在しません。ただ、「愛される作品」のイメージ像みたいなのを書いてみました。

あと、一応書いておくと、作中の「○○○」とか「×××」とか「●●●」っていうのは、苗字や名前を伏せて書いているので、適当にお好きな名前を当てはめたりして読んでみたりするといいかもしれません。さらに実在の作品名とかも出てますが、やっぱり伏せてます、一応。


チート転生した最強主人公は当然幸せでしょう。でもそれで破壊された原作のキャラクター達は本当に認めてくれるのでしょうか。

神様が手違いで人を死なすとか簡単に生き返らせるとか言ってます。でも好きな世界でやり直しができるように現実逃避の道を作るとか安っぽい方法で償えるなんて、むしろ私たちの人生と命が舐められてるだけじゃないでしょうか。

転生した主人公が新しい人生を一人で謳歌する。だけど、遺して行ってしまった肉親や身の回りの人への未練や、実際やり残したことってそんなに容易く放棄できるもんなんでしょうか。

そういう疑問を意識しながら、チート転生した主人公自身ではなく、その人を取り巻く人物たちの視点でチート転生を私なりに批判的に描いています。

まあ出来上がったら暗い暗い。こんな鬱作品書くなんて思いもしなかった。

それと、最初のスエロの話を書き終わった時点でかなりイメージがぼやけ始めて、次の神様の話はグッダグダになりました。信じられない。


とあるユーザー仲間の方からよく「安定した文章で読みやすい」と評価を頂いてたんですが。

すみません、今回は読みやすさは二の次で、自分の「ここが気に入らん!」っていう感情を落とし込むことを優先して書き上げました……。申し訳ないです。

ひょっとしたらいつか、我に返った時に削除するかもしれません。


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