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01 氷の女王様


せっかく逃げ切ったと思ったのに。

最悪な奴に捕まった。


秋と冬の色がまだらになったブナ林の中を、鳥の声がさざめくようにこだまする。先ほど国境隊の威嚇発砲があったせいだ。


騎上からこちらを見下げてくるアイスグレーの瞳には感情がない。それは私が隣国からの侵入者だから。マントをはためかせ、そのプラチナブロンドを風に自由にさせているおかっぱ頭はまるで氷の女王のように美しい。

まあ、あいつ男だけど。


「捕縛せよ」


おかっぱが肩より少し高く片手を上げるとザザーーッと落ち葉を蹴散らす音がして国境隊に取り囲まれた。10以上の銃口がこちらに向けられている。隣国の国境隊は国と自領の利益を脅かす者に容赦しない。


ああ終わった、今世も短い人生だった。

どうせなら嫌な死に方したいなあ。そうしたら神様が可哀想がってもう1回チャンスがあるかもしれないから。


私はこれから蜂の巣になる。穴が開くと可哀想だなと思って、被っていた熊の皮を落ち葉の上に下ろした。熊皮の下は薄いワンピースの肌着1枚だ。他の衣類は熊臭くなると嫌だから皮を被る前に脱いだ。その行為が生きて戻れる前提なのに気づいて私は苦笑いした。そうして私は両手を軽く上げて無抵抗を示す。


「女か」


おかっぱが私の全身を観察する。


「ちょうど女が欲しかった。私がもらう」


有無を言わせない圧でおかっぱが言った。あの男が楽しんだ後に殺されるってこと?嫌な死に方したいと望んだけれど、本当に嫌な死に方だなと思った。



◇◇



その夜、後ろ手にお縄になった状態で、おかっぱ頭の幕舎に連れていかれた。口には布が巻かれていて話せない。


おかっぱが捕まえた女を独り占めしたことに、兵士たちから不満の声は聞かなかった。私が平凡な容姿で痩せギスの女だからか。それとも彼が圧倒的強者だからか。治安の悪い母国ではこういう時必ずちょっかいを出してくる下級兵がいる。育ての親から女は捕まったら自決するよう教わっていたが、こっちの男たちはずいぶん行儀がいい。


ひときわ装飾のついた幕舎の前で私を連行している兵士が立ち止まった。


「入れ」


中からおかっぱの声がした。促されて中央の天幕に入る。そこではおかっぱが何やら手紙を書いていた。ランプの灯りでプラチナブロンドが黄金色に輝いている。

まさかあの美貌の総長サマの夜伽の相手をするとは思わなかった。人生いろいろだ。この男は母国でも有名だった。



レオン・フェーベルン

ノルド王国 フェーベルン侯爵家当主 国境隊総隊長



以前は近衛隊長だったが確か親族にポストを譲っている。


「朝まで誰も通すなよ」


レオンが妖艶に微笑むと、私を連れてきた若い隊員が顔を真っ赤にし敬礼して出ていった。


朝まで?へぇ…確かにねちっこそう。


心の中で思ったことが聞こえたように、レオンがじろりと私を見た。書き物をしていた手を止めて、席を立ち、こちらに近づいてくる。手を伸ばしてきたので体を硬くして身構えたが、空中で手が止まった。


「獣くさい」


レオンは顔をしかめた。すごくすごく眉間に皺が寄っている。

まあ逃げるために熊皮被ってたからね。


少し考えて、レオンは私の腕に繋がれた縄の先を軽く引っ張った。


「外へ」


短く言ってその男は自分だけガウンコートを2枚羽織った。



◇◇

本編外小話


◇◇


隣国との国境を超えるまであと僅かだった。熊かヘラジカの毛皮にくるまって行商人の荷物に紛れて通る手筈だった。そこへ本当に熊が出たりしなければ。


隊列はパニックになっていた。南方の者はめったに熊を見ることがない。小さい頃は北部で育った私はこの蜂の巣をつついた大騒ぎのほうが怖かった。静かに、ほんと静かにしてくれ。もうこれ数人犠牲になるか全滅するかの二択だから。

今年の冬は暖かい。どんぐりもまだまだたくさん落ちている。誤算だったなあ。荷車に隠れていたがまっすぐに熊はこちらにくる。しまったなあ、あれお前のお母さんだったか?私は荷車に積んであった少し小ぶりな熊の毛皮に話しかけた。


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