61、レベッカの過去【後】
レベッカはフォレからの求婚を受けた。
それは、初めて自分で選んだ未来の第一歩でもあった。
『公爵家の次男という話だったから、私……最初は断ったんだ。でも、この人が……フォレが、自分は名前ばかりの男爵だし、公爵家は関係なく同じ爵位だ。だから、気にしないでほしいって……』
『あの、本当にレベッカを大事にしてくれますか……? この子は確かに男勝りで強そうに見えますが、人一倍寂しがり屋なんです』
『義姉さん……』
『義姉上。ご安心ください。私は全てを可愛らしいと思っております。強く、優しく、そして本人は嫌がってますが、このそばかすですら私には愛おしく思えるのです。必ず……必ず幸せにします』
『ち、違うわ! 私一人を幸せにしないで! 私とフォレで一緒に幸せになっていくのよ!』
『……うん、そうだね』
最初は躊躇いがあったアチェト男爵側も、フォレとレベッカの互いの思い合う心に折れた形となった。公爵家と繋がりができたことを喜ぶアチェト男爵とその父に、義姉が釘を刺した。
『お義父様、あなた。レベッカの持参金ですが、私が貯めさせていただきました。これは全額持って行かせますから、フォレ卿に変なことを言うのだけは慎んでくださいませね?』
そう、この家で一番強いのは、義姉なのだ。
フォレとレベッカはお互い顔を見合わせ笑い、義姉にお礼を言った。そして、アチェト男爵とその父は目を合わせて俯きながら小さな返事をしていた。
『レベッカ、ずっと君だけを愛すと誓う』
『……私もよ、フォレ』
『あぁ……これは運命の出会いだったんだ。きっと、君を見つけるために私は旅をしていたんだと思う』
『あらあら、お熱いこと! さあ、あなたたち、公爵家の皆様には伝えているのよね? 段取りは……』
『え? いや、伝えていないね。僕は公爵家を出た身だから……』
『な、ななな……なんですって!? フォレ卿、確かにそうかもしれませんがリッソーニ公爵家の方々に話し合いもせずにこのような……!』
義姉が笑顔のまま、静かな威圧感を持ってフォレの肩を掴んだ。
そのあまりの剣幕に公爵家の人間として、それなりのプレッシャーに耐えてきたはずのフォレすらも、叱られた子供のように背筋を伸ばして固まり大きな声で返事をした。
『は、はい! 分かりました! レベッカ、すぐに領地に行こう……あ、この時期だと王都かな……? よし、今すぐ王都に行こう!』
『えっ、王都!? 私王都にはもうずっと行っていないから、服とか……それに公爵閣下に会うドレスなんて……』
『いい、いい! 兄さんも義姉さんもそんなこと気にする人じゃないよ! それに可愛い姪っ子だってね』
『でも……』
『でも、君が気になるなら、王都に入ってすぐに既製品店で申し訳ないけど、そちらで調達しよう!』
『レベッカ、そうしなさい! フォレ卿の気が変わらないうちに!』
『そうだよ、義姉上の言う通りだ! 私の気が変わることはないけど、こういう時は善は急げだ!』
『は、はい!』
それからはとんとん拍子で進んでいった。
二か月に一度の感覚で公爵家に顔を出していたフォレが、二か月もせずに現れ、しかも女性を伴っていたのだ。
日に焼けた顔、裾を持つ手全体の荒れ具合、肩につく程度に切りそろえられている髪。
そして、見るからに年齢はフォレと同じぐらいなのは見て取れた。
普通であれば、公爵家の次男で母親は王妹である男に嫁げる家の娘ではない。家柄も男爵家で礼儀作法も上級貴族のそれにはとても及ばないものである。
『まあ! 素敵なお嬢さんじゃない! レベッカ様、本当にフォレでよろしいのですか?』
『フォレ、お嬢さんを騙して連れて来たとかではないだろうな!?』
『ほら見たことか! 爵位を持っていて良かっただろう!』
『フォレ叔父さん、おめでとうございます!』
四人からの思いがけない祝福に、レベッカは泣き笑いのような表情で頷いた。仲睦まじく肩を抱き合う二人を見て、エルマンノが優しく声をかけた。
『フォレ、レベッカ嬢…我らは公爵家だが、今日から身内となったのだ。流石に婚約を抜かして結婚ということに驚きはしたが、話を聞いて納得した。きっとソフィアがここにいても、賛同してくれるはずだ』
『はい、父さん……。いえ、父上、兄上、義姉上……今まで散々心配をかけて申し訳ありませんでした』
『もし、まだ将来のことで何も決めていないのであれば、領地に二人のための仕事を用意しよう。そこで新しく生活していけばいい』
『ありがとうございます、兄上。レベッカ……そうさせてもらおうか』
『うん……。あ、ええ。生活の基盤を作って、ゆっくりと今後のことを考えていきましょう』
その後、速やかに国と教会に二人の結婚の許可をとった。
すぐに許可はおりた。二人の年齢のこともあり、フォレとレベッカの提案で結婚式は公爵領で行い、リッソーニ公爵家とアチェト男爵家の家族のみで行われた。
結婚式が終わり、談笑している最中にイザベラに付き添われ、ベアトリーチェは恥ずかしそうにレベッカに祝福石を手渡した。
『レベッカ様、ご結婚おめでとうございます。こちらは私からの贈り物で祝福石です。健康の祝福がされていて、もう一つのお願い事はレベッカ様にしていただこうと思って……』
『私に……。ありがとうございます。こんなにも思いのこもったものを贈っていただいて……嬉しいです、ベアトリーチェ様。お願い事はゆっくりと考えますね』
レベッカは祝福石を横にいたフォレに着けてもらった。オリーブ色の石は薄っすらと輝いており、レベッカは涙を浮かべた。
『私、これからフォレにもですが、公爵家の皆様のお役に立てるように頑張ります!』
この嬉し涙を流す姿こそが、本当の彼女であった。




