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おはよう  作者: 澄篠夜凪


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久しぶり

「久しぶり」


おたふくかぜにかかって、ぱんぱんに腫れた顔で寝込む君の横顔につい口からこぼれ出る。


中学、高校とずっと部活に夢中だった。そんなに強くないうちの部では推薦を受けられるほどの成績は残せなかった。大学では語学を学びたくて、成績の良くなかった僕は部活を引退してからは勉強に必死だった。女の子に興味はあったけど、勇気もなくて他にもっとやりたいことがあったし、結局僕にはドラマみたいな高校生活は存在しなかった。

そんな僕が今では一丁前に彼女持ち。外国のアンティークの人形みたいに細くしまった輪郭に、強く抱き寄せたら折れてしまいそうな首と肩、サラサラまっすぐな髪の毛と、瞬きで前髪を。全然知らない他人のような大好きな君。


大学近くの行きつけの、小汚くていつもガラガラの食堂で本とノートを広げて勉強していると、うっかり森の奥の泥沼にたどり着いてしまった白鳥みたいに、あまりにも似つかわしくない君が優雅に、だけど急激にブレーキをかけながら食堂に入ってきた。横目でちょっと見たことがある人に気がついた、というふうに気さくに僕に話しかけてくれて、少しずつ、だけど急速に距離を縮めてくれた君と僕は付き合うことになった。


そんな僕の昔のモテ自慢。中学生の頃、部活の練習を友達と見に来ては、たまに目が合うと友達とキャアキャア声を上げてどっかに走っていってしまう子が居た。向かいのクラスの子なのは知っていた。太っていて腫れぼったい一重の子で、大きな口で笑うと口角がマンガみたいに釣り上がる、とても美人とは言えない、というより他の男子にたまにからかわれているような容姿の子だった。そんな子にだけど僕はこんなふうにモテていた事だってあった。

そうやって騒がれるたびに部活の仲間にからかわれ、正直迷惑だなんて思っていたけど、卒業間近までずっとそんなふうにされると悪い気はしなくなっていた。と、言うより白状すると僕も彼女を好きになってしまっていた。卒業式の時に少しはなれたところで友達に押されたりしながら、結局泣き出して僕には話しかけてこなかったその子を今でも覚えている。


高校に入ると部活の友達も大半は彼女を作り青春を謳歌していたけど、僕は相変わらず部活と勉強に忙しくしていた。女の子への興味はあったけど高校時代はモテる事なく終わり、時々中学時代の薄い栄光を思い出しては、友達の目を気にして踏み出さなかった自分を部活と勉強で慰める冴えない高校時代だった。そんな僕にも今ではこんなに綺麗な恋人がいる。


彼女の口に経口補水液を含ませ、腫れてしまった横顔を見る。浮腫んでしまったまぶた。


「久しぶり」


懐かしい横顔につい口からこぼれる。

科学的とも言える綺麗な輪郭と、代償で動きにくくなった上唇、笑っても上がらない口角。

全然知らない他人のような大好きな君。昔の大好きになってしまっていた初恋の君。

最後まで読んでくれてありがとう。

起伏が少ない日常シーンの描写が苦手なので練習に書いてみました。


評価やブックマーク等していただけるととっても嬉しいです。


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