昌子の気持ち
まどか達と別れたあと、昌子は色々な思いを巡らせていた。彼女の瞳からは涙が溢れそうになっている。その涙を二人には見られたくなかので慌ててあの場を逃げるように飛び出したのであった。
睦樹は中学生の頃の昌子にとって空手道部の先輩であり、そして初恋の相手であった。彼女が幼い頃から続けてきた空手が頭打ちになり、堪らなく嫌いになって、もう辞めたいと思い詰めていた時に彼女を支えてくれた人。それが睦樹だったのだ。彼女の表向きの性格のせいで、男っぽいと思われがちであるが、本当は誰よりも涙脆くて、傷つきやすく脆い性格であった。
彼女は誰にもそれを見せたくなくて我慢し続け限界に近づいていた自分を睦樹は受け止めてくれた。空手が嫌いになりそうになった時に見た睦樹のナイファンチ。それを見て昌子は感動に近い物を感じた。今まで彼女が練習してきた型は大きな場所を必要として見映えを重視したものが多かった。躍りのようだと言われて傷ついたこともあった。しかし睦樹が見せたナイファンチという型は様々な空手の極意を秘めた物のように感じた。どうしても身に付けたいと思った彼女は睦樹にお願いして合同練習が終わった後に一緒に二人で稽古をするようになった。この型を練習すればするほど空手の魅力に気づかされて昌子はもう一度、空手を好きになる事が出来たのも彼のおかげなのだ。そんな睦樹と時を隔てて、二度と会えないと解った時は悲しくて本当に自ら命を絶とうかと考えたほどだった。
あの日、気が付けば、突然この時代に飛ばされて茫然とする自分がいた。学校に行ってみたり、友達の家を訪ねてみたりした。もちろん、睦樹が住んでいた家も尋ねてみたが、そこはマンション建設予定の空き地になっており、睦樹の消息を探る事はできなかった。
知っている友人達は皆、歳を重ねており彼女の話を聞いても信じる者は誰一人いなかった。
それは、まさに先ほどの睦樹と同じ反応であった。しかし、彼女の両親だけは流石に違う対応であった。初めこそは、同じようにイタズラかと疑われ激怒されたが、自分に起きた事をキチンと時系列で説明し親子でしか知りえない事を話すと、涙を流しながら昌子の帰還を喜んでくれた。
彼女の両親は昌子の事を自分達の孫だということにし、色々な役所を駆け回り再び学校に通えるまでに、環境を整えてくれた。そのお陰で、まどかとも友達になれて、一時は諦めていた学生生活をもう一度送れるまでになった。
そして、彼女は睦樹との思い出も封印し、新しい自分で生きていこうと決意した。そんな自分が、また睦樹と会える日が来るなど思ってもみなかった。彼と再び会えた喜びもあったのは確かだが、もう二度とこの生活を無くしたくないというのが彼女の今の気持ちでもある。正直いうと、睦樹の存在を確認して、またなにか不吉な事が起きるのではという気持ちが彼女の中で交差していた。というのも、彼女の中には一つ違和感があったのだ……。
「近藤先輩……、貴方は……まさか・・・・・・・」昌子の頭の中は様々な疑念が渦巻いていた。




