第7章 2人の出会い(イタリア編)その3
俺は夢の中で、冬子と出会った日の事を思い出していた。
冬子とは最初は敵であった。その頃の俺は賞金稼ぎとして、既に活躍していた時期であった。8人も賞金首を捕まえており、貯蓄は2000万ギルを超えていた。
まあ、この年齢でいえば稼いでいる方だ。いつも、俺ってスゲーだろって顔で街を歩いていた頃だ。しかし、はっきり言えば敵は弱い奴らばっかりで、余裕で賞金首を捕まえる日々だった。俺は敵なしの無敵だと思い、倒せない相手はいないと信じていた。
しかし、冬子は違った。長身の秘書風の女が、信じられないスピードで拳銃を抜いて、撃ってきた事を昨日のように覚えている。初めて恐怖を覚えた相手が冬子だったのである。
さて、話は変わるが俺の信念は毎日楽しく遊ぶ事であった。朝は好きな時間まで寝る。もちろん、高級ホテルでフカフカのベッドだ。昼は高級料理を食べる。松坂牛を使ったハンバーガーなど最高である。
夜はカジノに出入りしていた。ブラックジャックやルーレット三昧だ。
いつも人生は最高だ。そして、遊び疲れたら、好きな時間まで寝る生活を続けていた。
やっぱり、人生は楽しむのが一番だ。老害は若いうちは苦労しろと言うが、間違っていると思う奴は多いはず。
一攫千金を手に入れて、遊びまくるのがベストだ。苦労しないで、人生楽しんだ方が幸せだろ。だって、いつ死ぬか分からないじゃん。これを読んでいるアンタもそう思うだろ? だから、俺のように人生を楽しんでくれ。
俺は冬子と出会う3日前に、イタリアの高級ホテルの一室いた。
1泊10万ギルの部屋は広くて、フカフカのベッドがあり、高級そうなイスとテーブルがあった。大きい窓の外は綺麗な夜景が広がっていた。
俺はTシャツに短パン姿で、スマホを弄りながらベッドでゴロゴロしていた。ソシャゲで遊びすぎて金が減っていたので、そろそろ新しい賞金首を探す時期であった。
とりあえず、ワイルドバンチのサイトにログインした。スマホで操作して、賞金首、地域、賞金額を設定する。すると、マロンって男が条件に入って来た。
俺はニヤリとする。
「おっと、丁度良さそうな奴がいるな。マロン=コルオネって奴は500万ギルか……。
いかにも悪人ヅラしていやがる。場所も近いし、コイツでいいや」
俺は依頼主にメールを送った。2時間後に採用証明書(採用通知)が来た。おそらく、8人捕まえた実績があるからだろう。俺はガッツポーズをした。
後は、賞金首を捕まえるだけなので、鼻歌を歌いながら情報を集める。まずは、知り合いの情報屋にマロンの最新情報を送ってもらった。すると、マロンは常に2人の護衛を連れているらしい。まあ、マフィアのボスだから一人歩きはしないな。
護衛の1人はブレンドという組織のナンバー2らしい。常に拳銃を持ち歩いている用心深い男だ。昔は嫁がいたが死んだらしい。
もう一人は最近に入った日本人の女だ。 最近に入ったばかりだから、情報屋もよく分からないらしい。だが、所詮は女だな。俺のように強い女は少ない。ブレンドより、弱いの事は間違いないだろ。
それと、マロンの行動については、普段は要塞のような家から部下に指示を出しているみたいだ。
家の画像を見ると、とても忍び込むのは手間がかかりそうだ。これだと、外で狙うしかないパターンだ。しかし、情報屋によると、週末には必ずパブに顔を出しているみたいだ。まあ、この時しかチャンスがないって事だな。マロンは経営に敏感で、ビジネスに対しては厳しい男らしい。
このパブはマロンが経営しており、組織の大きな資金源になっているらしい。なので、店に問題点がないか調査するらしい。その後は1杯飲んで帰るみたいだ。
確実に外出するのは週末なので、そこで捕まえるしかないって事だな。このタイプの男は行動パターンを変える可能性は少ないはずだ。マフィアよりは、ビジネスマンに近いタイプなのだ。
他の情報屋にも頼んで、日本人の女の情報を集めようと色々と調査させた。しかし、若い女という事しか分からなかった。もしかしたら、愛人か秘書的な役割で入った人材なのかもしれない。金持ちは日本人の女を連れて歩くのがブームになっているらしい。
これって、結構楽勝なパターンだぜ。ブレンドを倒して、マロンを捕まえればOKって話だ。依頼主はマフィアの抗争に巻き込まれて、死んでしまった遺族からの依頼だった。
生け捕りなら500万ギルで、死体なら250万ギルって半額の条件だ。他にマロンを狙っている奴は、マイケルって賞金稼ぎだけだった。コイツより早く動かないとな。
マイケルの情報は公開設定になっているので見ることが出来た。まずは顔を拝見してみる。俺は思わず声を出す。
「ダサッ……」
30歳を超えて、髪を緑に染めている痛い奴だった。経歴も1人捕まえただけで泣けてくる。しかも、77歳の万引き犯だった。無抵抗のジジイをバットでボコボコに殴ったらしい。悪党相手でもやりすぎだろ。
こんなの公開設定にするなよ、恥ずかしい。他にも自分のSNSを公開しているようだった。ツブヤッキーという、自分の意見を呟けるSNSだ。どんな事を呟いているんだ?
俺はマイケルのSNSを覗き込んだ。
『街中で芸能人を見た』
『中学生に喧嘩で勝った』
『カードゲームの大会でベスト3位に入った』
そこにはカードゲーム大会の写真がアップされていた。写真を見ると、3位の表彰台の上でマイケルは満面の笑みをしていた。マイケル以外の参加者は小学生だった。まあ、バカな男という事は分かった。でも、利用は出来そうだな。
コイツがマロンを狙っている時に、俺も同時に仕掛ける事にしよう。マイケルに敵が集中すれば、俺の仕事も簡単になる。まあ、いわゆる囮って奴だぜ。
その日から、俺はマイケルのSNSをチェックするようにした。
そして、武器の手入れをはじめた。俺のブーツは色々な武器を隠している。ブーツには鉄板を仕込んでおり、ナイフや銃弾も弾く。
赤ボタンを押すと、小さいローラースケートのタイヤが無数に出る。もう一つの青ボタンを押すと、バイクのようにタイヤが自動回転して走る事が出来る。
他にも、ブーツの底にはスプリングも仕込んである。キック力とジャンプ力が、2倍~3倍の威力になることが出来る。これなら、そこいらの男より強く戦える。ちなみに、俺は素足でも木のバットなら簡単に折れるぜ。
なぜなら、俺はカポエラを習っていた時があり、それを独自に改良した足技を極めていた。
今までの賞金首は足技を使って、ほぼ半殺しで捕まえている。もちろん、日々の鍛錬は欠かさない。これが商売道具だからな。
俺はベッドから立ち上がり、ホテルの窓に映る自分を見た。カポエラの構えをする。
アルマーダという、華麗で流れるような回し蹴りを放つ。次にメイアルーアプラザという、片手を床につけた後ろ回し蹴りを放つ。
片手をつける事によって、コマのような遠心力で強いダメージを与える。これらはカポエラの技である。
俺は得意のブレイクダンスも加えて、オリジナルの蹴り技をマスターしていた。
ブレイクダンスの基本をやろうと思う。
俺は軽快に足をステップしながら、床に頭と両手だけつけて、勢いをつけて回転した。そして、背中を床につけてクルクルと何回転もする。これがウインドミルだ。
ウインドミルから、2000という高度な技を繰り出す。簡単に言えば、逆立ちをして、両手の力だけでクルクル何回転もする技だ。100年前以上の格闘ゲームで、中国人の女が使っていた技のような感じだ。動画サイトで、技の確認でもしてくれたら嬉しいぜ。
俺は回転力がなくなると、右手のみで逆立ちをしている状態で静止した。ホテルの窓に映る自分を見ると、バランス感覚に問題はなさそうだった。よし、よし……。体の調子は悪くない感じだ。
しばらくして、そのまま右手の力だけで前方に一回転した着地した。
「よし、今日も調子がいいな」
今日は風呂に入って寝よう。俺は服を脱いで、風呂場に向かって歩いて行く。お湯はタイマーで沸いており、気持ちよさそうな湯気が出ていた。
お湯につかると、疲れがドッととれた。ジャグジー付きで、泡風呂でテレビを見ながらリラックスする。ブクブクと泡が気持ちいい。昔はストリートチルドレンで、水浴びしかできなかった。もう、あんな貧乏生活は絶対に送りたくない。金があれば良い生活を送れる。
今回の仕事もなんとかやりとげよう。明日から、マイケルの行動をSNSで監視だ。作戦はマイケルがマロンを狙った時に、俺も同時に奇襲する。
おそらく、ブレンドがマイケルを止めようとする。その時のマロンはノーガードだ。そこを俺が叩きのめす。日本人の若い女は何も出来ないだろう。
しかし、俺は判断を大きく間違っていた。後に、日本人の女と戦った時に分かった事であった。それが冬子と知るのは後の話である。