球場〈後編〉
亜輝「警部。」
亜輝に言われて、ハッと我に返り、自分を取り戻した。
亜輝「係員に連絡を取り、ドームの屋根をいつでも閉じられるように待機していてください。」
警部「わかった。」
その後、アナウンサーが放送した。
アナウンサー「ピッチャのー交代をお知らせします。覆面ピッチャーリュウ、背番号六。ピンチヒッターをお知らせします。覆面バッタータイガー、背番号四。」
解説者が驚いた。
解説者「これはいったい、どういうことでしょうか。謎のピッチャーと、謎のバッターの対決です。これはスポンサーの計らいか、はたまたファンサービスか。」
警察の無線付きキャップをつけて、二人はマウンドとバッターボックスについた。
観客が騒ぎ出した。
客1「どうしたんだ、何かのパフォーマンスか。」
客2「お、いいぞ、やれやれ。」
項志「スタンドの方が騒がしくなってきやがったぜ。」
亜輝「項志、一発勝負だ、フォークで行くぞ。」
項志「お前、フォークボールを投げられるのか。」
亜輝「こんなこともあろうかと、フォークボールを投げられるようにしておいた。初速100KM、手前二メートルの地点で落とす。」
項志「OK、いつでもいいぜ。」
亜輝「警部。」
警部「準備OKだ。」
亜輝「ドーム閉鎖開始。」
刑部「ドーム閉鎖開始。」
ドームが閉まりだした。観客は、雨も降っていないのにドームが閉まりだしたので、ざわつきだした。
客「いったいどうしたのだ、雨でもないのに。」
亜輝がボールの外皮を取り去ると、時限装置のタイマーが作動していた。残り後一分、亜輝の頭の中でシュミレーションが始まっていた。
亜輝……一番被害が少ないのは、ボールが上空で停止する時だ。ならば、項志のフルスイングを考えると、残り十五秒で投げれば最小限に抑えられる。」
亜輝「項志、ドームが閉まりきる前に、その隙間をぬってボールを外に出してくれ。」
項志「わかった。」
これを聞いていた警部は、そんな事ができるのかと思った。上空1000Mまで打ち上げるだけでも至難の技なのに、ドームの閉まりきるその間をぬって外に出すなど、奇跡が起きない限り不可能なことだ。二人に託した警部だったが、あまりにも困難なミッションに、半ば諦めて首をうなだれていた。
亜輝「行くぞ、項志。」
項志「来い、亜輝。」
アナウンサー「ピッチャー、第一球投げた。……これはフォークボールだ。」
項志「ウォー」
アナウンサー「バッター、なんと超アッパースウィングだ。しかし、当たった。」
次の瞬間、アナウンサーは何が起こったのかわからなかった。当たったはずのボールが見あたらないのだ。その時ボールは、ドームの隙間をぬって場外へ抜けていた。あまりのスピードに目で追って行けなかったのだ。そして、上空一千百メートルまで到達していた。
アナウンサー「ボールはどこに行ったのでしょう。」
皆、唖然とした中、ドーム球場は完全に閉まっていた。そして、数秒後、ドーム全体を揺さぶるような激しい爆発が上空で起こった。しかし、球場に被害は及ばなかった。警部は度肝を抜かれ、
警部「やりおったが、あのガキども、やりおった。」
警部は、張りつめた緊張感、そして驚きのため、体中がブルブル震えだし、一気に力が抜けて、その場に座り込んでしまった。
その時、二人は既に覆面を脱いで、通路を歩いて出口の方に向かっていた。
そして数分後、その後を警部が追って来た。
警部「お前達は一体何者なのだ。あのスウィングは人間技ではないぞ。直にマスコミも殺到するだろう。覆面のままでいいから、ヒーローインタビューを受けてくれ。」
亜輝「それはできません。」
項志「全員あの世行きでなくて良かったぜ。」
な、なんという少年達だ。あれだけの事をやっておきながら、気負いもおごりも微塵も感じられない。
警部「君達は、命がけで人々を助けて、その見返りを求めないのか。」
項志「見返り?どこかで聞いたセリフだな。」
亜輝「警部、今日は協力して頂いてありがとうございました。また、お会いしましょう。」
警部「最後に教えてくれ。君達の目的は何だ、何の為に。」
亜輝「それがレスキューボーイズの使命だからです。」
警部「レスキューボーイズの使命。」
その後、アナウンサーから事の成り行きが発表された。
アナウンサー「その、最後に覆面で登場した二人の男は、記者のインタビューに対して、自分達の事をレスキューボーイズとだけ名乗って行ってしまったそうです。」
その頃、あの渡船屋のおやっさんも、テレビでこの状況を見ていた。
おやっさん「亜輝君と項志君だ。やった、やった、やりおった。母さん、赤飯だ、赤飯を炊け、今日はお祝いだ。俺は今、モーレツに感動している。レスキューボーイズ、万歳。」
狂ったように喜ぶおやじであった。
一方球場では、
観客「俺達の命を救ってくれたのは、レスキューボーイズというのか。」
その内、観客達がレスキューボーイズの大合唱を始めた。
その時、当の二人は球場の出口の所まで来ていた。
「レスキューボーイズ、レスキューボーイズ。」
その歓声が彼らの耳にも届いた。
亜輝「本人もいないのに、誰に歓声を送っているんだ。」
項志「まったく、めでたい連中だぜ。」
亜輝「それより、俺のフォークの切れはどうだった。」
項志「それを言うなら、俺のアッパースウィングだろう。俺はあのスウィングに、ウイニングザ・レインボーと名付けることにした。」
亜輝「バカめが。漫画の読み過ぎだ。」
項志「なんだと、お前のヘッポコフォークより、よっぽどましだ。」
亜輝「ヘッポコとは何だ、ヘッポコとは。」
そんな会話をしながら、二人はどんどん球場を後にして行った。
その後ろ姿を、いつまでも見送っている人影があった。江戸川警部である。
警部「何という連中だ。あれだけの人命を救っておきながら、何事もなかったかのように去って行ってしまった。ありがとう、レスキューボーイズ。あいつらこそ、真のヒーローだ。」
彼らの後ろ姿が見えなくなっても、警部はその場所から動こうとはしなかった。
警部「どんな状況でも最後まで諦めずに、自分の任務を遂行する。あの少年達から、人命を守るということを教わった。」
その余韻は、いつまでもいつまでも、警部の心にとどまり続けていた。
レスキューボーイズ(第一部)完
第二部は、九月四日頃の予定です。




