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第2花 - エワールの少女②


何度か通う秘密の散歩はすごく楽しい。


お医者様に貰った薬を飲んで侍女が出て行ったあとにこっそりと部屋を抜け出すという行動はちょっとドキドキして面白い。


とは言いつつも、

これまでに3、4回は侍女に見つかってお説教を貰ってしまった。


けれど彼女らも私が本当は寂しいのを知ってる。

だから本気で怒ったりはしない・・・それにきっとこの秘密の散歩はお説教の回数よりもばれているのだと思う。でも大目に見てくれて見逃してくれてるんだろう。


だから私も彼女たちを心配させないよう

遠くまでは行かないし時間もちゃんと決めている。

彼女たちが怒るのは私を心配してるからだってちゃんと知ってるから…。











ある日侍女が教えてくれた。


「3日後に王子のカイス様が東国エイヴァンからお戻りになるそうですよ」


カイス様はこのエリシアーノ国の第一王子で勉学のためエイヴァンに行っているのだと、ここに来た当初に国王様からお話を伺っていたのを覚えてる。

でもその王子様が戻ってくるのだと、城内が活気付いてる理由もよくわかった。


「カイス様は姫様より5歳上ですけどとても優しい方ですよ」

「…カイスさまはフィオとなかよくしてくれる?」


年上…そのことを少し残念に思いつつ

城内で私に近い年齢はカイス様くらいなので仲良く慣れたら言いと期待していた。

高揚して頬を染めてそう言う私に


「ええ、姫様ならきっと仲良くなれますよ」


と、侍女は笑って頷いてくれたので

カイスさまが戻られる日が楽しみで仕方がなかった。










しかしその当日の私の体調は芳しくなかった。


言えば夜から熱がなかなか下がらなかったのだ。

「楽しみにしすぎて興奮してしまったのかしら」

そう侍女たちは言って「すぐ良くなりますよ」と気遣ってくれるけどやっとカイス様に会えるというのに熱を出して寝込んでしまった自分の弱い体が悔しくて哀しい…。


せめて御髪だけは綺麗にしましょうと

侍女たちはベッドの横に水差しと洗器を用意して私の蜂蜜色の髪を洗う。

優しく洗って布でしっかり水分を拭き取り丁寧に櫛で梳いてもらう。とても気持ちがいい。髪を撫でられたり梳いてもらうと眠くなってしまうのは私の癖。

寝てるために櫛を入れるだけで結ってもらう事はできないけど、

綺麗にしてもらえて沈みがちな気分が落ち着いてきたみたい。


「ありがとう・・・」


眠気眼で何とかお礼を言うと

侍女たちはにっこり微笑んで「これくらいいつでも」と額を撫でてくれた









ふと目が覚めて窓を見れば太陽が真上に上っていた。

昼を少し過ぎた頃合だろうか。


朝よりか楽になった体にほっと息を付く。

まだ少し熱が残ってる気がしたけどいつものことだから平気。


「シュリー…?」


ずっと見ていてくれたのだろう。

ベッド横の壁際に侍女のシュリーが椅子に座って眠っていた。

彼女は夜からずっと看病していてくれたのだから仕方ない。

気持ち良さそうに眠っているのを起こしたくなくて

小さな声で「ありがとう」とお礼を言ったけど、シュリーは聞こえていないだろう。せめて良い夢を見れたらいいな。




室内用の履物に足を入れてベッドから起きる。

もう一度窓の景色をよく見ると真っ青に澄んだ空が飛びこんできた。

今頃はきっとエイヴァンからお戻りになったカイス様の披露宴が行われているはずだ。そう考えると知らず知らず溜息がこぼれた。


故郷のエワールにいた頃1番目の姉様の結婚式の思い出がふとよみがえる。

あれが初めての結婚式で、初めての宴だった…にも関わらず今よりも弱かった体の私は結婚式の半ばから倒れて参加できなかったのだ。

新しく仕立ててもらったドレスは2時間ほどしか着ることができなかった。

励ますようにお父様や姉様兄様が入れ替わり立ち代り部屋に来てくれたけど、時折聞こえる宴の音楽や声が気になって仕方がない。

それほど興味があったし楽しみにしていたのだ。




だから今度こそと、そう意気込んだのに。

意気込みすぎたのだろうか…意気込むだけで熱が出てしまう体にほとほと呆れてしまう。





「…いきたかった」


それに会ってみたかった・・・国王の御子息であるカイス様に。

今まで私の周囲には大人しかいなかったので

5歳差と言えどもまだ年の近い存在に会って見たいという思いが強かった。


だけど諦めたわけじゃない。

熱といったっていつもと変わらない微熱だ。大したことない。

いつものように笑って大丈夫だと言えば宴にいけるかもしれない。

そう考えてまだ夢の中のシュリーを起こそうとした私は

ふと窓から見える裏の庭園が目に入った。


「そうだ!」


思いつくと私はシュリーを起こさないように

静かに部屋を飛び出した。










手の中には十数本のリアの花。


この城裏手の庭園の奥にこのリアだけが咲く場所があった。

白い花びらに微かに映るピンク色がとても愛らしく、故郷のエワールにはこの花が一面に咲いていた。

王家の紋章にも使われているエワールの国花だからだ。

そしてお母様が一番好きだった花・・・。


それが何故このエリシアーノ国に咲いているのかはわからなかったけど

このリアの花を摘んでカイス様に差し上げたいという気持ちで私は一生懸命摘んでいた。

会って、渡すのだこの花を・・・大好きな故郷の花を。


「よろこんでくださるといいな」


そう呟く頃には手の中にはもうリアの花束が出来上がっていた。


「これくらいでいいかも・・・?」


寝間着のポケットから髪を結ぶためのリボンを取り出して束を結ぶ。

しかし寝間着のリボンさえ結んだことのない私には難しく、うんうんと唸りながら結んだリアの花束はお世辞にも綺麗とはいえなかった。

だけど私の髪と同じ蜂蜜色のリボンで括られた花束は可愛くて満足だ。

いまさらだが寝間着のままで来てしまったため

ロングドレスの裾は土が付き葉が付きと・・・シュリーが見れば絶句しそうなほど悲惨だ。



くらりと、頭が揺れたのはその時・・・


「え、あれ・・・」



なんだろ・・・と思う間もなく体が傾いて

私の体がリアの花の中にトスッ・・・と倒れた。






霞む意識と視界の中で




誰かが私の小さな体を抱き上げる気がしたけど

その後すぐに意識が途絶えてしまった。














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