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無能と蔑まれ処刑される悪役貴族に転生したので、原作最強の隠しスキルを全部回収して無双する  作者: 秋葉 詩


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第1話 俺、悪役貴族じゃないか?

「……は?」


 目を覚ました瞬間、俺は知らない天井を見ていた。


 いや。


 正確には、知らないはずなのに見覚えがあった。


 白い天蓋。

 金色の刺繍。

 馬鹿みたいに広いベッド。


 そして、壁に掛けられた一枚の肖像画。


 黒髪の少年が、不機嫌そうな顔でこちらを睨んでいる。


「……嘘だろ」


 俺はベッドから飛び起きた。


 身体が軽い。


 手が小さい。


 慌てて近くの鏡を覗き込む。


 そこにいたのは、十二歳くらいの少年だった。


 黒い髪。


 蒼い目。


 整ってはいるが、愛想の欠片もない顔。


 知っている。


 知りすぎている。


「レオン・ヴァルハルト……」


 思わず名前が漏れた。


 その瞬間。


 前世の記憶と、この身体の記憶が一気に繋がった。


 レオン・ヴァルハルト。


 ヴァルハルト公爵家の次男。


 名門魔術師一族に生まれながら、魔法を一つも使えない無能。


 王立学園では平民出身の主人公に突っかかり、何度も敗北。


 嫉妬を拗らせ。


 陰謀に手を染め。


 最後には敵国と内通。


 二十一歳で国家反逆罪により処刑される。


 俺が前世で散々遊んだRPG、『レジェンド・オブ・アルカディア』。


 その序盤に登場する噛ませ犬。


 それが。


「俺じゃねえか……」


 終わった。


 いや待て。


 本当に終わったのか?


 俺は鏡の前で自分の顔を見ながら、記憶を整理する。


 現在十二歳。


 王立学園への入学は三年後。


 原作でレオンが本格的に道を踏み外すのも、その辺りからだ。


 処刑されるのは二十一歳。


「九年ある」


 思っていたより長い。


 九年。


 九年もあれば何ができる?


 前世なら小学生が成人するくらいの時間だ。


 絶望するには早すぎる。


 そもそもだ。


 俺は知っている。


 このゲームをかなりやり込んでいた。


 隠しイベント。


 隠し装備。


 隠し職業。


 攻略本にも載っていない仕様。


 アップデート後に解析班が発見した内部データまで、掲示板を漁って読んでいた。


 そして。


 レオン・ヴァルハルトというキャラクターには、一つだけ妙な設定があった。


「……こいつ、無能じゃないんだよな」


 俺は自分の右手を見る。


 レオンは魔法を使えない。


 火も。


 水も。


 風も。


 魔道具すらまともに起動できない。


 だから魔力ゼロだと思われていた。


 けれど解析された内部ステータスでは違った。


 レオンの魔力量はゼロではない。


 むしろ、


 異常なほど高い。


 ただし。


 その魔力を体外へ放出できない。


 ゲーム本編では何の意味もない没設定に近い数値。


 しかし、もし。


 あのスキルが本当に存在するなら。


「いける」


 口元が緩む。


 この屋敷にはある。


 地下訓練場。


 そこに誰も調べない古い石碑が置かれている。


 ゲームでは背景オブジェクト扱いだったもの。


 特定条件を満たしたキャラクターだけが触れると、隠しスキルを取得できる。


 条件は一つ。


 魔法習得数、ゼロ。


「まさか悪役専用みたいな条件だったとはな」


 原作主人公には取れない。


 あいつはゲーム開始時点ですでに初級魔法を覚えている。


 他の主要キャラも同じ。


 けれどレオンなら。


「取れる」


 しかも俺は場所も知っている。


 そう考えた瞬間。


 コンコン。


 扉が叩かれた。


「レオン様。お目覚めでしょうか」


 女性の声。


 この身体の記憶が名前を教えてくれる。


 侍女のアンナ。


「ああ」


 返事をすると、扉が開いた。


 二十代半ばほどの女性が入ってくる。


 俺を見るなり、ほんの少しだけ身体を強張らせた。


 ……なるほど。


 嫌われてるな、これ。


「本日は朝食のあと、魔術基礎の講義がございます」


「魔術基礎?」


「はい」


 アンナは慎重に答える。


「ユリウス様と同じ講師が――」


「要らない」


 彼女の顔がさらに固まった。


 まずい。


 原作レオンなら、ここで癇癪でも起こすのか。


「……では、講師へお断りを?」


「いや」


 俺は首を振る。


「今日は休む。明日からは受ける」


「……かしこまりました」


 明らかに意外そうだった。


 そりゃそうか。


 この身体の記憶を見る限り、レオンは魔術の授業が大嫌いだった。


 できないことを延々やらされる。


 兄と比べられる。


 失敗すれば教師に困った顔をされる。


 嫌になるのも少し分かる。


「アンナ」


「はい」


「地下訓練場は今、使えるか?」


「地下……ですか?」


「ああ」


「使えるとは思いますが……」


 変なものを見る目をされた。


「何か?」


「いえ。ただ、レオン様が訓練場を使われると仰るのは珍しいものですから」


「そうか」


 俺はベッドから降りる。


「今日から使う」


「……はい」


 アンナが目を瞬かせた。


 俺は気にせず着替え始める。


 処刑まで九年。


 余裕があるとは言った。


 だが、無駄にする気はない。


 原作主人公に負けるのが嫌だからでもない。


 兄を見返したいからでもない。


 そんなものは後回しだ。


 まずは。


 死なない。


 それだけでいい。


 服を整え、俺は扉へ向かった。


「レオン様」


「なんだ?」


「朝食は?」


 足を止める。


「……先に食う」


 さすがに腹は減っていた。


 九年後の処刑より、今の空腹の方が近い問題だ。


 まず飯。


 その後、地下。


 そして。


 原作では誰も手に入れなかった最初の隠しスキル。


【内界循環】


 あれさえ手に入れば。


 俺の破滅ルートは、今日から変えられる。

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