5.カレン管理官
ドツーク管理官は、とうとう『天罰:かまいたち』を開発した。
被害が『天罰:雷撃』より小さく、対象者だけを罰することができる。
この成果が評価され、研究部の方が適性があるだろうということで、異動になった。
惑星アサーテの管理官は一向に定着しない。
ボヤク支部長は、これで何人目だろうと思いながら、新しい管理官を迎えた。
「よろしく、カレン管理官。
注意事項は、まず惑星アサーテを使って暇つぶしをしないこと。
乙女ゲームとか、勇者育成とか、絶対にしないでね。
次に過度な制裁をしないこと。
『天罰:雷撃』は、本当に最後の手段にしてほしい。
基本的には、見守るだけでいいから。
異変があったら、まず報告してください。」
「わかりました。」
カレン管理官は、おとなしい感じの真面目そうな女性だ。
今度こそしっかりと惑星アサーテを見守ってもらえるだろう。
そうでないと、自分の胃がもたない。
最近、しくしく胃が痛む。
病院に行こうか。
まだ学資ローンも住宅ローンもかかえる身だ。
お願いだから、問題を起こさない、ちゃんとした管理官であってほしい。
ボヤク支部長の願いもむなしく、今回の管理官も曲者だった。
実は、惑星管理制度に反対するグループの破壊工作員だったのだ。
これまで大人しく身を潜めていたが、ここアサーテは管理官の人数が少なく、
工作しやすいということで、活動を開始することにした。
ちょうど明日は、ボヤク支部長が病院に行くので、休みを取るそうだ。
上司のいない隙に、工作開始だ。
まず一定の気温になったら、疫病が発生し、パンデミックを引き起こす。
同時に作物にも病害が発生するように、設定しよう。
気温上昇により、各地で台風が発生し、洪水が起きる。
嵐に紛れて、『天罰:雷撃』も発動するようにして、あとは、山火事でも起こそう。
これは、その気温になるまで、発動しないようにする。
その方が気づかれにくいはずだ。
しかし、やることが多い。
今夜は残業になりそうだ。
ボヤク支部長は、少し胃炎を起こしているということで、思ったよりは軽い症状だった。
予定より早く終わったので、定時は過ぎていたが、職場に行ってみることにした。
虫の知らせか。
カレン管理官の様子を見ようと、ノックをするが返事がない。
ドアを開けて部屋に入ると、そこにナマケモノがいた。
呆然とするが、気を取り直して警備員を呼ぶ。
無事、ナマケモノは捕獲されたが、カレン管理官の姿はない。
ふとコンピューター画面を見ると、とんでもない指示が出ていた。
「これでは、惑星アサーテが壊滅的な被害を受ける。
指示を撤回し、正常な状態へ戻さなくては。」
検査帰りのボヤク支部長の残業が開始された。
今夜は家に帰れないかもしれない。
惑星アサーテの気象管理システムを操作し、気温を通常より下げる。
そのあと仕込まれた様々なトリガーを解除して、疫病、病害、台風、洪水、天罰、山火事が起きないようにする。
気がつけば、深夜だった。
疲れた。
翌朝、ナマケモノの檻には、カレン管理官がいた。
査察部からも人が来て、いろいろと再調査がなされた。
それで判明したのは、カレン管理官は先祖が獣人で、その血のせいで疲れるとナマケモノになってしまうということだった。
他の惑星の王家の末裔だそうだ。
その血のおかげで、アサーテ破壊計画は頓挫した。
ボヤク支部長は、この計画を未然に防いだ功績で、昇給し、本部に栄転した。
もう、ローンの心配もしなくてよくなったのである。
本部への異動辞令を受け取ったボヤク支部長は、
「これでやっとアサーテに関わらなくて済む。」
送別会で、心から祝杯を挙げたそうだ。




