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第200話 外伝・ミリアの日記⑪ 神様相手にパイプ椅子を渡すお仕事。

 星暦1036年 2月某日 天気:曇り


【本日の業務:鉄道事業計画の修正および駅弁経済圏の構築】


 建国の熱狂も冷めやらぬ中、私たちは次の大仕事に取り掛かっています。


 大陸横断鉄道計画。


 当初、古代技術を応用した「リニア新幹線」の導入が検討されましたが、イリスの試算により却下となりました。コストパフォーマンスが悪すぎますし、何より加速にかかる負荷が人体に悪影響を与えるようなものは乗り物ではありません。


 代わりに採用されたのは、「魔導蒸気機関車」。


 黒鉄の巨体が煙を吐いて走る姿は、レヴィーネ様の美学(重厚・長大・高出力)に合致します。


 そして、私とアリスさんが提案したのが「駅弁システム」です。


 移動時間をただの「拘束時間」にするのではなく、「食のエンターテインメント」に変える。


 各駅に特産品を使った弁当を配置し、停車するたびに金を落としてもらう。


……完璧です。これぞV&C商会の真骨頂。


 ガンテツ親方とギエモン翁には、「走行中でもワインが波立たないサスペンションを作れ」という無茶振りが飛んでいましたが、彼らならやってくれるでしょう。技術者の魂に火がついた時の彼らは、予算度外視で最高のものを作ってきますから。(※後で請求書を見るのが怖いですが)



 ◆◆◆



 星暦1036年 某月某日 天気:快晴


【本日の業務:個人的な契約締結について】


 今日は……少し、手が震えて文字がうまく書けません。


 仕事ではありません。私個人の、人生の岐路についてです。


 ラノリア国王、ギルベルト陛下が、突然皇都を訪ねてこられました。


 執務室に入ってきた彼は、花束の代わりに一つの小箱を私に差し出しました。


 中に入っていたのは、指輪ではなく、ラノリア大聖堂の地下に眠る古代管理施設への「マスターキー(星の涙)」。


 イリスが「国家予算数百年分の価値がある」と絶叫するほどの代物です。


 ですが、それ以上に私を動揺させたのは、彼自身の言葉でした。


「私を、君の人生の共同経営者にしてくれないか?」


 不器用で、色気のかけらもない、けれど誰よりも私という人間を理解してくれているプロポーズ。


 私は、彼に惹かれていたのだと思います。


 かつてラノリアの校舎裏で、共にレヴィーネ様の背中を追いかけ、泥まみれになってスクワットをしたあの日から。


 私たちは似たもの同士。太陽の周りを回る惑星。


 けれど、惑星同士が重なり合う奇跡があってもいい。


 私は契約書(婚姻届)にサインしました。


 ただし、条件付きです。「週末婚」。


 私はV&C商会の社長であり、この国の宰相です。レヴィーネ様の側を離れるつもりはありません。


 彼はそれを受け入れ、むしろ「二つの拠点で世界を支えよう」と言ってくれました。


 その直後、アリスさんたちが乱入してきて、お祝いのクラッカーを鳴らされた時は心臓が止まるかと思いました。


 レヴィーネ様も「盛大にやりますわよ!」と張り切っておられます。


……私の結婚式ですら、V&C商会のプロモーションと利益創出の場に変えてみせます。


「ミリア&ギルベルト」記念硬貨の発行、限定プロテインの販売……イリス、準備はいいですね?



 ◆◆◆



 星暦1036年 某月某日 天気:星空


【本日の業務:神話級トラブルの処理(プロレス興行)】


 信じられないことが起きました。


 いえ、レヴィーネ様の周りでは「ありえない」が日常ですが、今回ばかりは度肝を抜かれました。


 皇都の丘で、レヴィーネ様たちがちゃんこ鍋を囲んでいると、一人の男性が現れました。


 くたびれたスーツを着た、影の薄い男性。


 彼こそが、この世界を管理する「創造神」その人だったのです。


 数万年の業務(管理)に疲れ果て、私たちの「美味しい匂い」に釣られて降臨したとのこと。


「私をスカウトしたい」などとレヴィーネ様に持ちかけてきましたが、あの方が神の部下などで収まるはずがありません。


 結果、どうなったか。


……プロレスです。


 神様相手に、特設リングでのデスマッチが始まりました。


 私は実況席を飛び出し、リング下からパイプ椅子を大量に投入しました。


「神への冒涜?」いいえ、これは「援護射撃(ヒールプレイ)」です!


 レヴィーネ様が輝くステージを整えるのが私の役目。相手が神だろうと創造主だろうと、レヴィーネ様の敵であるならば、私が椅子を渡します!


 アリスさんが閃光魔法で目潰しをし、レヴィーネ様が世界樹のエラーログ(苦情データ)を神の顔面に噴射し、最後は『漆黒の玉座』へのジャーマン・スープレックスでフィニッシュ。


……神様は、満足げに「痛くて、美味しかった」と笑って帰っていかれました。


 ファイトマネー代わりに、レヴィーネ様のお腹に「新しい命」への祝福を残して。



【本日の収支】


 支出:パイプ椅子(大量破損)、リング修繕費


 収入:神の加護、世界の安定、そして「新しい命」


 備考:神様は「駅弁」と「ずんだシェイク」がお気に召したようです。定期的にお供え(輸出)するルートを確保すべきでしょう。



 ◆◆◆



 星暦1036年 秋 天気:雨上がりの虹


【本日の業務:出産、および壁の修繕】


 レヴィーネ様が、ご出産されました。


 予定日より少し早まりましたが、母子ともに健康……いえ、「健康すぎる」くらいです。


 分娩室からは、悲鳴と共に「壁が砕ける音」や「手すりがねじ切れる音」が響き渡っていました。


 陣痛の痛みを逃がすために、レヴィーネ様が無意識に身体強化を使ってしまわれたのです。


「建物が保たない! ヒデヨシさん、補強を!」と叫びながら、私たちは必死で城を支えました。


 出産というより、攻城戦の防衛戦でした。


 そして、産声と共に、雨が上がり、空に虹がかかりました。


 生まれたのは、元気な女の子。名前は「エレノア」様。


 かつて、レヴィーネ様が救えなかったあの方のお名前が含まれていました。


 その小さな手は、しっかりと握りしめられていました。扇子でも、ダンベルでもなく、「母親の指」を。


 その握力は、すでに私の指をきしませるほどです。間違いなく、最強の遺伝子を継いでいます。


 アリスさんが、泣きながら赤ちゃんを抱っこしていました。


 彼女は、数年前、ある決断をしていました。


「人間を辞めて、この世界の緑と、レヴィーネ様の作った国を永遠に見守る『境界の存在』になる」と。


 寂しいけれど、悲しくはありません。


 レヴィーネ様が「私の一族総出で、あんたを寂しくさせない」と約束したからです。


 当然ですが私も、その誓いに加わります。


 アクシス連邦皇国がエレノアさまを戴く代になっても、私達の子がラノリアを統べる代になっても。


 V&C商会が、アクシス連邦皇国が、聖教国ラノリアが、数百年、数千年先まで続き、アリスさんを支え続ける組織にします。そのための礎を、私が築くのです。



 ◆◆◆



 星暦1040年 某月某日 天気:快晴


【本日の業務:皇族の食事会における被害算定】


 今日の皇城のダイニングルームは、いつにも増して騒がしかったです。


 5歳になったエレノア様が、スプーンを握りしめて「からあげ」を巡り、叔父であるソレン様と争奪戦を繰り広げ、壁を粉砕しました。


……請求書を作らなければなりません。


 そこへ、私と(ギルベルト)、アリスさん、ノブナガ様、マラグ様……「家族」全員が集まりました。


 テーブルには、世界中から届いた食材が並んでいます。


 西の肉、東の魚、北のキノコ、南のフルーツ。


 かつては分断されていた世界が、私たちの作った「道」と「商流」で繋がり、一つの食卓に乗っている。


 レヴィーネ様が、アレクセイ様の手を握り、幸せそうに笑っています。


「美味しい」


 その一言を聞くために、私たちは走ってきたのです。


 計算機の数字だけでは測れない「利益」が、ここにあります。


 私の人生の収支決算は、間違いなく「大幅黒字」です。


 さて、感傷に浸っている暇はありません。


 ノブナガ様がまた新しい無茶(宇宙へ行きたいとか言い出しました)を言っていますし、エレノア様の教育費(主に食費と修理費)の積立も必要です。


 イリス、次の仕事にかかりますよ!


 レヴィーネ様が作り上げたこの「退屈しない世界」を、もっともっと面白く、豊かにするために!



【生涯収支報告】


 投資:青春、情熱、胃薬


 回収:愛する夫、最高の主君、永遠の友、そして「世界一美味しい食卓」


 利益:プライスレス(測定不能の幸福)


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