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第201話 外伝・通信ログ① 件名:SOS(胃の限界的な意味で)。

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【通信No.001】


 送信者:ミリア・コーンフィールド(ヴィータヴェン・アクシス連邦皇国宰相)


 受信者:ギルベルト・ラノリア(ラノリア王国国王)


 件名:【至急】SOS(胃の限界的な意味で)


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 拝啓 ギルベルト陛下。


 季節の変わり目、ラノリアの筋肉神官団の皆様におかれましては、ますますパンプアップのこととお慶び申し上げます。


 さて、単刀直入に申し上げます。


 助けてください。


 いえ、国家間の紛争ではありません。魔獣のスタンピードでもありません。それならまだマシです。黒鉄隊とアリスさんを派遣すれば解決しますから。


 問題は、我が主君、レヴィーネ様のご機嫌です。


 本日未明、レヴィーネ様が「朝の散歩」と称して『天魔・伐折羅砕き(1.2トン)』を担いで出かけられ、予定ルート上にあった小山を一つ、地図から消滅させました。


 理由は明白です。東の現場にいる「あの方」からの連絡が、今月も途絶えているからです。


 イリスの衛星監視によれば生存は確認できていますが、レヴィーネ様から送った「元気?(意訳:返事をしないと殺す)」というメッセージに対し、未読……いえ、既読スルーを決め込んでいるようです。


 レヴィーネ様は笑顔で「あら、忙しいようですわね」と仰っていましたが、その背後から立ち上るオーラで、執務室の観葉植物が枯れました。


 私の胃壁も限界です。V&C商会の在庫にある胃薬では、もう追いつきません。


 つきましては、ラノリア王家の秘薬あるいは、陛下から東の現場監督(アレクセイ殿下)へ、「男同士の腹を割った説得」をお願いできないでしょうか。


 このままでは大陸横断道路が開通する前に、私の胃に穴が開通してしまいます。


 敬具




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【通信No.002】


 送信者:ギルベルト・ラノリア(ラノリア王国国王)


 受信者:アレクセイ・ガルディア(帝国道路公団・第一開拓旅団長)


 件名:至急の相談(ミリア殿の健康と、君の命について)


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 親愛なるアレクセイ殿。


 東の樹海での開拓作業、過酷を極めていることと推察する。ソレンも元気に岩を砕いているだろうか。


 さて、本題だ。


 君、レヴィーネ姐さんに連絡をしていないそうだな?


 ミリア殿から悲痛な叫び(と大量の胃薬の発注書)が届いた。


 彼女の文面を見るに、事態は深刻だ。姐さんの破壊活動が、本来の工事計画の範囲を超え始めているらしい。


 アレクセイ殿。君の多忙さは理解する。泥にまみれ、ツルハシを振るう日々に、皇族らしい優雅な手紙を書く余裕などないことも分かる。


 だが、一言でいい。「生きている」と、「愛している」と送るだけで、世界(主にミリア殿の胃)は平和になるのだ。


 男として、愛する女性を不安にさせるのは筋肉の付き方が美しくないとは思わないか?


 悪いことは言わない。今すぐ通信機を手に取ってくれ。


 もし操作する指が疲労で動かないというなら、私がラノリアから「遠隔筋肉操作魔法」で君の指を動かしてもいい。


 追伸:


 ミリア殿のために、ラノリア特産の「癒やしのハーブティー(プロテイン配合)」を送った。君も少しは彼女の労苦を想像してやってほしい。




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【通信No.003】


 送信者:アレクセイ・ガルディア(現場監督兼・元皇子)


 受信者:ギルベルト・ラノリア(ラノリア王国国王)


 件名:Re: 至急の相談


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 ギルベルト王。


 忠言、痛み入る。ソレンは元気だ。昨日もグリズリーを背負い投げしていた。君の直弟子になれる逸材だよ。


 だが、連絡の件については断る。


 誤解しないでほしいが、私は彼女を不安にさせたいわけではない。


 むしろ逆だ。


 今の私を見てくれ。泥だらけの作業着、伸び放題の髭、汗と土の匂い。


 かつて「氷の皇子」と呼ばれ、知略を巡らせていた頃の面影はない。今の私は、ただの労働者だ。


 レヴィーネは、西から大陸を制覇し、国を作り、女帝となった。


 そんな彼女の前に立つ男が、中途半端な成果報告などできるだろうか?


 いや、できない。


 私が次に彼女と言葉を交わすのは、この「東方ルート」を完璧に繋げ、彼女の覇道を支える礎となった時でなければならないのだ。


 それが、皇籍を捨ててまでここに来た私の「ケジメ」であり、彼女への最大の敬意()だ。


「寂しいから声が聞きたい」などという甘えは、仕事を完遂した後のデザートにとっておく。


 ミリア殿には申し訳ないが、私の覚悟は揺るがない。


 彼女(レヴィーネ)なら、きっと怒りながらも待っていてくれるはずだ。その怒りを受け止めるのもまた、夫となる男の甲斐性だろう。


 追伸:


 その「遠隔筋肉操作魔法」とやらは遠慮しておく。私の筋肉は、彼女のためにのみ動くものだからね。




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【通信No.004】


 送信者:ミリア・コーンフィールド(あすなろ領女伯爵)


 受信者:アレクセイ・ガルディア(元皇子・現頑固者)


 件名:【警告】経費精算と「男の美学」の損益分岐点について


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 アレクセイ様。


 ギルベルト陛下経由で言い分は伺いました。


「男のケジメ」? 「完璧な成果」?


 寝言は寝て仰ってください。


 貴方がその崇高なプライドを磨いている間に、こちらでどれだけの被害総額が出ているか、イリスの試算表(添付ファイル参照)をご確認ください。


 レヴィーネ様のストレス発散のために砕かれた岩盤の処理費用、予定外のルート変更に伴う測量費、そして私の胃薬代!


 これらは全て、貴方がたった一言「元気だよ」と送れば削減できたコストです!


 貴方はレヴィーネ様を神格化しすぎています。あの方は女帝である前に、恋する乙女(※ただし物理攻撃力はカンスト)なんですよ!?


 3年も放置されたら、乙女心は発酵して殺意に変わります。味噌や醤油なら熟成されて美味しくなりますが、レヴィーネ様の殺意は熟成されると地形が変わるんです!


 これ以上「既読スルー」を続けるなら、V&C商会は帝国道路公団への資材供給価格を3割……いえ、5割値上げします。


 愛の力で岩盤は砕けても、予算不足で工事は止まりますよ?


 経営者としての、最後通牒です。




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【通信No.005】


 送信者:アレクセイ・ガルディア


 受信者:ミリア・コーンフィールド


 件名:Re: 【警告】経費精算について(と、ある輸送依頼)


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 ミリア殿。


……値上げは困る。君の商魂の逞しさには、いつもながら敬服するよ(恐怖すら感じる)。


 分かった。少し妥協しよう。


 直接の連絡は、やはりまだできない。私の決意が鈍るからだ。


 だが、君の胃痛をこれ以上悪化させるのも、ギルベルト王に申し訳ない。


 そこで、一つ頼みがある。


 先日、東の樹海の最深部で、非常に珍しい高純度の「星屑金(スターダストゴールド)」の鉱脈を発見した。


 極めて硬度が高く、魔力伝導率も最高級の素材だ。


 これを、極秘裏にそちらへ送る。


 ガンテツ殿に頼んで、指輪の「台座」に加工しておいてくれないか。


 デザイン画は添付する。無骨だが、彼女に似合うはずだ。


 これを「東方で見つかった珍しい素材のサンプル」として、彼女に渡してくれ。


 ただし、「私からの贈り物だ」とは絶対に言わないでほしい。


 あくまで業務上のサンプルとしてだ。


 彼女なら、その素材に込められた私の魔力残滓と、加工の意図に気づくかもしれない。……気づかないかもしれない。


 それは賭けだが、今の私にできる精一杯の「合図」だ。


 これで、資材価格は据え置きにしてくれるだろうか?




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【通信No.006】


 送信者:ミリア・コーンフィールド


 受信者:ギルベルト・ラノリア


 件名:業務報告(およびヤケ酒のお誘い)


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 ギルベルト陛下。


……ダメでした。あのアレクセイ様、とんでもなく面倒くさいです。


「指輪の素材を送るけど、俺からとは言うな」ですって。


 そんな回りくどいことして、レヴィーネ様が「あら、これはもしや……?」なんて察して頬を染めるとでも思っているのでしょうか。


 予想される未来:


 レヴィーネ様「あら、硬くていい素材ですわね。武器の強化に使いますわ」


 →結果:指輪になるはずだった素材が、メリケンサックかパイプ椅子の補強材になる。


……もう疲れました。


 あのお二人の恋愛観は、凡人の理解を超越しています。


 結局、直接会って殴り合う(物理的な愛の確認)までは解決しないようです。


 先日いただいたハーブティー、とても美味しかったです。


 陛下からの手紙にあった「無理はするな」という言葉だけが、今の私の心の支えです。


 今度、東西回廊の中間地点で、視察という名目の飲み会をしませんか?


 愚痴を聞いてください。請求書はアレクセイ様に回しますので。


 追伸:


 レヴィーネ様が「東の山脈にドラゴンがいるようですわ。ムシャクシャするから狩ってきます」と出撃されました。


……もう、止めません。


 アレクセイ様が掘り進めているトンネルの方向と一致しているので、あるいは奇跡的な遭遇(衝突事故)が起きることを祈るばかりです。


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