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第198話 外伝・ミリアの日記⑨ 空への挑戦。……私は絶対に離れません!

 星暦1028年 1月5日 天気:雪のち曇り


【場所:オワリ城・地下ドック / 案件:飛行機械開発計画の凍結と新方針】


 新年早々、胃の痛くなるような会議が終わりました。


 帝国のアレクセイ皇子から頂いた、古代の「飛行機」の設計図。イリスとガンテツさん、ギエモンさんを総動員して解析しましたが、結論は「不採用」です。


 技術的に不可能というわけではありません。ですが、コストパフォーマンスがあまりにも最悪なのです!


 試算表を叩きつけた時の私の手は震えていました。希少金属ヒヒイロカネを使い、莫大な高純度魔石を消費して、運べるのが「操縦者一人とサンドイッチ一つ」だなんて!


 V&C商会の投資基準では、そのような道楽に予算を割くことは到底容認できません。


 しかし、そこで諦めるレヴィーネ様ではありませんでした。


 エルフの女王エルウィン様からの情報で、上空に古代の「天蓋都市」が浮いていることが判明した途端、あの方は仰いました。


「空を飛ぶ利点がないなら、利点を作ればいい。その天蓋都市とやら、いただきましょう。なんならそこの設備を転用して、あの船(ヴィータヴェン号)を飛ばすのもいいわね」


……出ました。いつもの「物理的解決」です。


 目標は定まりました。「空飛ぶ島」への殴り込み……いえ、「訪問」です。


 手段は、古代の「お迎え用ビーコン」の再現。


 場所は、大陸最南端の孤島「タネガシマ」。


 さあ、忙しくなりますよ。イリス、資材の発注と輸送計画の再構築を!



 ◆◆◆



 星暦1028年 1月10日 天気:快晴(南国)


【場所:トヨノクニ南端・タネガシマ / 業務:拠点設営および海賊の排除】


 ヴィータヴェン号でタネガシマに到着しました。


 温暖な気候、美しい海。リゾート開発には最適ですが、残念ながら先客がいました。海賊の残党です。


 彼らは私たちを見るなり「ここは俺たちの島だ!」と錆びた武器を構えましたが、交渉の余地はありませんでした。


 レヴィーネ様は「工事の邪魔よ」の一言で、鉄扇片手に海賊団を壊滅させました。


 文字通りの「整地(物理)」です。


 その後、ガンテツさんとギエモンさんが、泣きながら通信塔の建設を始めました。


 私も、イリスと共に通信ビーコンの術式解析を急ぎます。あの上空にある島を呼び出すための「通信番号」を特定しなければなりませんから。



 ◆◆◆



 星暦1028年 1月14日 天気:嵐の予感


【業務:最終調整と、主への反抗】


 通信塔が完成しました。イリスの演算ユニットを直結し、オワリ城の放送設備を魔改造した、対・天空用超出力ビーコンです。


 これなら成層圏まで「呼び出し音」が届くはずです。


 作業を終え、職人たちをリョウマさんの船で帰した後、レヴィーネ様が私とアリスさんを呼び出しました。


 そして、信じられないことを仰いました。


「あなた達も、島を離れなさい」と。


 イリスの計算では、ビーコンを起動した瞬間、空の番人である「ドラゴン」が迎撃に来る確率は極めて高い。


 だから、足手まといにならないよう逃げろ、と。一人で戦う、と。


……ふざけないでください。


 私はV&C商会の社長です。オーナーの危機に逃げ出す経営者がどこにいますか!


 それに、レヴィーネ様にもしものことがあったら、誰がこの国の経済を回すのですか!


 私は、初めてレヴィーネ様の命令を拒否しました。


「レヴィーネ様の側こそが、この世界で最高の安全圏です!」


 そう叫んだ時の、あの方の驚いた顔。


 アリスさんも「置いていかれるのはもっと嫌!」と駄々をこねました。


 結局、レヴィーネ様は折れました。


「……まったく。手のかかる部下たちね」


 そう言って笑ったあの方の顔を、私は一生忘れないでしょう。覚悟は決めました。地獄の底でも空の果てでも、お供します。



 ◆◆◆



 星暦1028年 1月15日 天気:快晴のち閃光


【事案:神話級存在との遭遇および物理交渉】


 運命の日。


 通信塔から放たれた光の槍が、雲を突き抜けました。


 数分後、空から降りてきたのは、美しい流線型の「お迎え(ドローン)」でした。


 成功だ! と喜んだのも束の間。


――閃光。


 上空から放たれた極太のレーザーが、ドローンを一瞬で蒸発させました。


 そして雲を割って現れたのは、全長600メートルを超える巨大な「白銀の山」。


 神話に語られる空の番人、機械龍です。


 イリスでさえ「アクセス権限がありません」と沈黙するほどの、隔絶した存在。


 普通なら絶望してひれ伏す場面でしょう。


 ですが、私たちの主は違います。


「私のタクシーを消滅させるとは、いい度胸ですわね」


 レヴィーネ様は激怒されました。


 神の使いだろうが、システムだろうが関係ない。「私の(移動手段)を奪った責任を取れ」と。


 あの方は、影から最強の相棒『漆黒の玉座』を引き抜きました。


 そして、あろうことか上空のドラゴンに向かって跳躍し、その鼻先を――全力で殴りつけたのです!


 ズゴォォォォォン!!!


 島が揺れました。神話級の装甲が凹みました。


 ドラゴンの赤い目が、青く変わりました。


『……興味深い。要求を受諾する』


……勝ちました。物理で、システムをねじ伏せました。


 ドラゴンは背中のハッチを開き、私たちを招き入れました。


 新しい「タクシー」の確保です。



 ◆◆◆



 同日 午後 天気:成層圏(極寒)


【現在地:古代浮遊都市「天蓋の揺り籠」内部】


 ドラゴンの背中に乗っての移動は、死ぬかと思いました。


 アリスさんの『光の繭』がなければ、寒さと酸素不足で間違いなく全滅していました。


 到着した場所は、廃墟となった古代都市でした。


 ですが、私の目には「廃墟」ではなく、手つかずの「宝物庫」にしか見えません!


 壁に使われているガラス一つとっても、『生体維持クリスタル』という伝説の素材です。これ一枚で帝都の城壁が買える値段がつきます!


 さらに探索を進めると、そこは古代文明が滅びる前に、あらゆる生物の遺伝子と技術を保存した「箱舟」であることが判明しました。


 古代の野菜、絶滅した動物の種子……。これらは、計り知れない価値があります。


 しかし、番人は龍だけではありませんでした。


 都市の管理AI「デメテル」が、私たちを排除しようと「植物プラント」の実験体を解放したのです。


 歩く大根、ドリル状のトウモロコシ、酸を吐くトマト。


 食料が襲ってくるなんて、コーンフィールド家の家訓にもありません。


 しかし、レヴィーネ様にとっては「食材が勝手に下処理されて届いた」のと同義だったようです。


「活きがいいですわね! 全部まとめて『おかず』にして差し上げます!」


 襲い来る野菜を次々となぎ倒し、物理的に収穫していくレヴィーネ様。


 そして、その場で始まったのが「天空ちゃんこ」の調理です。


 アリスさんが生成した聖水に、私が持参した味噌とバター、そして倒したばかりの古代トマトを投入。


 この香りが漂った瞬間、敵対していたデメテルの態度が軟化しました。


 アリスさんが言いました。


「種は、植えてこそ希望なんだよ」


 その言葉と、ちゃんこの美味しさに、頑なだったデメテルもついに陥落。彼女は私たちを「略奪者」ではなく「食卓を囲む仲間」として認めてくれました。



 ◆◆◆



 星暦1028年 1月16日 天気:人工太陽(快適)


【本日の業務:玉座による権限奪取(物理ハッキング)】


 デメテルとは和解しましたが、都市の全権限を掌握するには、正規の「王の証(王笏)」が必要だという問題が発生しました。もちろん、そんなものは千年も前に失われています。


 デメテルは「権限がないのでロック解除できません」と泣いていましたが、レヴィーネ様には関係ありませんでした。


「王権がない? ならば『筋肉(物理)』で捩じ伏せて奪い取るまでですわ!」


 レヴィーネ様は、あろうことかご自身の「漆黒の玉座(パイプ椅子)」を、繊細なクリスタルの操作盤に突き立てたのです。


 強引に魔力を流し込み、システムを物理的にねじ伏せる。


【新管理者:レヴィーネ・ヴィータヴェン】


 表示されたその文字を見て、私は震えました。古代のセキュリティさえも、あの方の「座る意志」には勝てなかったのです。




 星暦1028年 1月17日 天気:快晴


【本日の業務:古代遺産の爆買い(略奪)】


 ロックが解除された深層倉庫は、夢のような場所でした。


 伝説の聖剣? 魔導兵器? いいえ、もっと素晴らしいものです!


『全自動魔導洗濯乾燥機』!


万能調理システム(マザーズ・キッチン)』!


 そして、極寒の地でも育つ『ダイヤモンド・ライス』の種籾!


 私は震える手で、それらを次々とレヴィーネ様の「暗闇の間」へ収納していきました。


 特に洗濯機。これさえあれば、オワリ城の女中たちの労働時間が劇的に短縮され、福利厚生が充実します! 洗剤を使わずに汚れを落とす超音波洗浄……これぞ私が求めていた技術革命です!


 アリスさんも、デメテルから託された種子を大事そうに抱えています。


「これがあれば、飢饉なんてなくなるよ!」


 彼女の笑顔を見て、私は確信しました。


 この「買い物」は、世界を変えることになるでしょう。



 ◆◆◆



 星暦1028年 1月19日 天気:快晴


【本日の業務:お引越しと帰還】


 全ての用事を終え、地上へ戻る時が来ました。


 しかし、レヴィーネ様は手ぶらで帰るような方ではありません。


「この都市ごと、持って帰るわよ」


 レヴィーネ様の号令の下、イリスとデメテルが制御を行い、直径数キロメートルあるこの浮遊都市そのものを、高度3000メートルまで降下させることになりました。


 トヨノクニの上空に、巨大な「空の物流拠点」を作るのです。


「新しい翼ね」


 レヴィーネ様は、都市に備え付けられていた小型シャトル「希望の翼」に乗り込み、満足げに微笑まれました。


 眼下には、朝日に照らされたトヨノクニの大地が見えます。


 私たちは、神話の時代から止まっていた時計の針を動かし、未来への種を持って帰還します。


 地上に戻ったら、まずはタカニシキの新品種開発と、洗濯機の量産ラインの構築、そしてアリス乳業の新商品開発……やることが山積みです。


 ですが、不思議と疲れはありません。


 レヴィーネ様が見せてくださる景色は、いつだって私の想像を遥かに超えて、鮮やかですから。



【本日の収支】


 支出:通信塔建設費、ちゃんこの材料費


 収入:古代都市の管理権限、全自動洗濯機×5、万能調理器、未知の種子多数、管理AIデメテル


 資産総額:測定不能(人類史レベルの遺産)


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