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第196話 外伝・ミリアの日記⑦ 品種改良。……これ、神の領域では?

 星暦1026年 某月某日 天気:快晴(ただし土壌は最悪)


【現在地:トヨノクニ・名もなき寒村】


【本日の業務:緊急品種改良および「最強の米」の開発】



 1.無理難題と、ふたりの距離


 レヴィーネ様が、またしても常識外れのオーダーを出されました。


「美味しくて、活力が湧いて、病気にも強くて、呪いに負けない生命力があって、なおかつ今すぐ収穫できる最強の新品種を作れ」と。


 目の前には、レヴィーネ様が「暗闇の間」からぶちまけた、世界中の希少素材の山。マンドラゴラに魔獣の骨、古代の成長促進剤……。


 私は『賢者アスケンの眼鏡』をかけ、目の前の種籾(トヨノクニの痩せた在来種)を睨みつけました。


 レンズに浮かぶ数値は絶望的です。


『対象:稲(トヨノクニ在来種・劣化)。生命力:E-。栄養価:測定不能。状態:呪いによる壊死進行中』


「……酷い数値です。これでは普通の肥料を与えたところで、吸収する前に枯れてしまいます」


 私が溜息をつくと、隣で杖を構えていたアリスさんが、不安そうに私を見つめました。


「ねえミリアちゃん、どうすればいい? 私、お祈りパワー全開にするけど、種が耐えられなかったら爆発しちゃうよ?」


 アリスさん。元聖女にして、レヴィーネ様の「相棒」。


 正直に言えば、私は彼女に対して少し複雑な思いを抱いていました。私より後に合流したのに、レヴィーネ様と対等に「レヴィちゃん」なんて呼び合って。その無邪気さと距離の近さが、羨ましくもあり、少しだけ疎ましくもありました。


 ですが、今はそんな感傷に浸っている場合ではありません。


 レヴィーネ様が「食べたい」と仰っているのです。失敗は許されません。



 2.科学と魔法のセッション


 私は意識を切り替え、指示を飛ばしました。


「アリスさん、爆発させないための『器』を私が作ります! 貴女は私が合図したら、限界まで魔力を注ぎ込んでください!」


「了解! 任せて!」


 私はすり鉢で魔獣の骨粉とマンドラゴラを調合し、古代の薬液を一滴垂らしました。眼鏡が最適な調合比率を弾き出します。


『調合成功:超・活性化触媒』。


 これを種籾にまぶし、遺伝子レベルでの強化を促す。


「今です、アリスさん! 聖女の『光』を! 死にかけた細胞を無理やり叩き起こしてください!」


「うん! 聖なる光よ、命を育め! 『超・光合成ハイパー・グロウ』ッ!!」


 カッ!


 アリスさんの杖から、目が眩むような光が溢れ出しました。


 私は眼鏡のフィルターごしに、種籾のステータスが激しく変動するのを凝視します。


『生命力:E → C → B……上昇中。警告:成長速度過多。茎の強度が追いつきません!』


「ストップ! アリスさん、一度止めて! このままじゃ自重で折れます!」


「ええっ!? ど、どうすれば!?」


「サン・ルーチャで採取した『再生の蔦』の繊維を編み込みます! これを根のベースにして……よし、物理耐久値向上! アリスさん、次は『守り』の加護を重ねがけして!」


「わかった! 『聖域結界』を種の内側に圧縮して……こう!?」


 アリスさんが、汗だくになりながら魔力をコントロールしています。


 普段は能天気に見える彼女の瞳が、今は真剣そのものです。


「……絶対に成功させる。レヴィちゃんに、美味しいご飯を食べさせてあげるんだから……!」


 その呟きを聞いた時、私の中で何かがカチリとハマりました。


 ああ、そうです。彼女もまた、私と同じ。


「レヴィーネ様の笑顔が見たい」。その一点だけで、この無茶苦茶な状況に食らいついているのです。


 私の胸の奥にあったわだかまりが、熱い連帯感へと変わっていきました。



 3.黄金の輝き


 作業は深夜に及びました。


 何度も失敗し、何度も配合を変え、魔法の波長を調整する。


「ミリアちゃん、魔力が切れそう……」


「まだです! ここで止めたら全て水泡に帰します! ……これを飲んでください!」


 私はリュックから虎の子の「特製スタミナドリンク(激マズ)」を彼女の口に突っ込みました。


「んぐっ!? ……うわぁマズい! けど力が湧いてきたぁ!」


「行きますよ、アリスさん! これが最後の配合です! ……目標ステータス、オールS!」


「おうよ! いっけぇぇぇぇッ!!」


 二人の絶叫と共に、最後の魔力と技術が種籾に注ぎ込まれました。


 ボンッ!!


 小さな爆発音と共に、種籾が弾け――そして、見るも鮮やかな黄金色の光を放ち始めました。


 私は震える手で眼鏡を抑え、ステータスを確認しました。


『対象:新品種。生命力:SSS。耐病性:極大。魔素変換効率:最大。……食味値:測定不能(天上の甘み)』


「……できました」


「できた……の?」


 泥と煤で汚れた顔を見合わせ、私たちはへなへなと座り込みました。


 そして、次の瞬間、お互いの手を取り合って叫びました。


「「やったぁぁぁぁぁッ!!」」


 アリスさんが私に抱きついてきます。私も、思わず彼女の背中を叩いていました。


「すごいよミリアちゃん! ミリアちゃんの計算通りだよ!」


「アリスさんの魔力がなければ形になりませんでした! ……私たち、やりましたね!」


 そこにはもう、遠慮も壁もありませんでした。


 あるのは、一つの偉業を成し遂げた「戦友」としての絆だけ。



 4.タカニシキの味


 その後、レヴィーネ様が水路を一瞬で開通させ、収穫されたお米。


「タカニシキ」と名付けられたそのおにぎりを食べた時、レヴィーネ様が涙を流されました。


 前世の記憶。食べられなかった過去。


 その告白を聞いた時、私は全てを理解しました。


 そして、アリスさんもまた、同じような過去(前世)を持っていたことを知りました。


 私だけが知らなかった、二人の秘密。


 けれど、不思議と疎外感はありませんでした。


 だって、このお米を作ったのは、私とアリスさんの「二人」なのですから。


 レヴィーネ様の過去タカノを癒やし、未来ニシキを作る。


 その作業を、アリスさんと共有できたことが、何よりも誇らしい。


「……ねえ、ミリアちゃん」


 おにぎりを頬張りながら、アリスさんが笑いかけてきました。


「私たち、いいコンビになれそうだね」


 私は眼鏡の位置を直し、ふふっと笑い返しました。


「そうですね。……計算と直感。意外と悪くない組み合わせかもしれません」


 レヴィーネ様。


 貴女が切り拓く道を、私が舗装し、アリスさんが花を添える。


 この「トライアングル」なら、きっとどこまでだって行けます。


 さあ、忙しくなりますよ。


 この「タカニシキ」を武器に、トヨノクニを、そして世界中の胃袋を制圧するのですから!



【本日の成果】


 開発品種:タカニシキ(奇跡の米)


 獲得した称号:マッドサイエンティスト(不本意です)


 深まった絆:プライスレス(アリスさんとの連携率+120%)


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