第159話 東方三国同盟、結成! 男たちの合言葉は「掘って、繋げろ」!
レヴィーネの西方進撃に呼応するように、東側諸国でも緊急の首脳会談が開かれていた。
場所は、堅苦しい会議室ではない。大陸の東、ガルディア帝国の皇子執務室を中心に、最新鋭の通信魔導具によって結ばれた、史上初の「オンライン・サミット」である。
古代知性体と観測衛星の演算領域を経由し、空中に展開された分割スクリーン。そこに映し出されたのは、東方世界を牛耳る、あまりに濃すぎる傑物たちだった。
『わはは! 見たかお主ら! あやつめ、西の要塞を「道路」に変えおったわ!』
口火を切ったのは、トヨノクニの支配者、オダ・ノブナガだった。
彼は画面越しに朱塗りの盃を掲げ、まるで自分の娘の悪戯を自慢するかのように豪快に笑った。
『侵略ではなく「公共事業」。略奪ではなく「大人買い」。……歴史書になんと書けばよいのやら、ウチの史官たちが頭を抱えておるぞ! 「西方事変」ではなく「西方大規模修繕工事」とでも名付けるか?』
『うむ! だが笑ってばかりはいられんぞ、ノブナガ殿!』
ラノリア王国の国王、ギルベルトが、画面いっぱいに暑苦しい顔を近づけた。
彼の背景には、先ほどの「掃除(粛清)」で没収した財宝の山と、再武装した聖騎士たちが映り込んでいる。
『レヴィーネ殿が敷く道がこちらに届いた時、我らの受け入れ態勢が整っていなければ……東側のインフラの貧弱さに激怒され、国ごと「パンプアップ」されかねん! 彼女の要求水準は、常に限界突破しているのだからな!』
『……同感です。笑い事ではありません』
ホスト役のアレクセイが、冷静に、しかしその瞳に熱い光を宿して頷く。
彼は卓上の地図を指で叩いた。そこには、西から東へと猛烈な勢いで伸びる、赤いラインが引かれている。
『彼女の進軍速度は異常です。わずか二週間で大国を一つ飲み込んだ。……このままでは、大断裂帯を越えてこちらの領土に入った瞬間、彼女は道なき荒野に放り出されることになる。……それは、我々「共犯者」としての怠慢だ』
アレクセイは、自身の無力さを噛み締めるように拳を握った。
彼女は言った。「世界を面白くする」と。
その彼女が泥にまみれて道を切り拓いているのに、自分たちが安穏と待っているだけでいいはずがない。
『我々も東側から迎え撃つ……いや、迎えに行くための「道」を造らねばなりません。帝国、ラノリア、そしてトヨノクニ。三国が個別に動くのではなく、連携して大陸を横断する「大回廊」を建設する。……これは、東方全体の威信をかけた合同プロジェクトです』
アレクセイの提案に、ギルベルトが大きく頷いた。
『異存はない! ラノリアの「力(人足)」と帝国の「金(資材)」、そしてトヨノクニの「技術」を合わせれば、神代の岩盤だろうが魔境だろうが拓けぬ道はない!』
三人の男たちの間に、熱い連帯感が生まれる。
かつては敵対し、牽制し合っていた三国が、一人の悪役令嬢(と物理的な道路)のために手を取り合う。
まさに歴史的瞬間だった。
『……ふむ。話がまとまったようで何よりじゃ』
そこで、ノブナガが扇子をパチリと鳴らし、ニヤリと意味ありげな笑みを浮かべた。
『東側からの工事については、異存はない。わしも「黒鉄組」の精鋭を出そう。……じゃがのう、ちと困ったことがあってな』
『困ったこと、ですか?』
『うむ。……実はな、ウチのアリスが育てておった「巫女連」の子供たちや、血気盛んな職人どもが、「自分たちも西へ行ってレヴィーネ様を手伝いたい!」と泣きついてきてのう』
ノブナガは大げさにため息をついて見せた。
『あやつらの熱意は本物じゃ。アリス仕込みの魔法も、現場仕事の腕も確かじゃろう。じゃが……レヴィーネからは「トヨノクニの本隊(正規軍)は動かすな」と釘を刺されておってな。戦争になるのを嫌ったんじゃろうが』
彼はチラリと、画面越しの二人を見やった。
『職人どもはともかく、巫女連はまだ十にも満たない童じゃ。西への航路は海賊も出るし、上陸した後も危険がいっぱいじゃろう? 正規軍の護衛もなしに送り出して、万が一、あやつらに傷一つでもついたら……わしはアリスになんと詫びればよいのやら。……いやあ、難儀じゃのう』
その言葉に、アレクセイとギルベルトが反応した。
アレクセイが身を乗り出す。
『……ならば、帝国の海軍を護衛につけましょう。最新鋭の魔導戦艦であれば、海賊など恐るるに足りません。レヴィーネ嬢への増援、私が責任を持って送り届けます』
『待て待て! 子供の護衛なら、我が国の聖騎士団こそ適任だ!』
ギルベルトがダンベルを置いて割り込む。
『「癒やし」と「守り」に特化した聖騎士ならば、戦場でも子供たちを完璧に守れる! それに、アリス殿は我が国の元聖女。その弟子たちを守るのは、ラノリア王としての義務だ!』
二人が競うように手を挙げる。
彼らにとっても、レヴィーネへの直接的な支援(ポイント稼ぎ)は喉から手が出るほど欲しい役割だ。
だが、その熱い応酬を、冷ややかな声が切り裂いた。
『……やれやれ。ヒューマンというのは、どうしてこうも短絡的なのかのう』
エルフの里の女王、エルウィンだ。
彼女は優雅に紅茶を啜りながら、呆れたような視線を送ってきた。
『帝国だの王国だの、正規軍を西海岸に送り込んでみよ。……「救援」のつもりでも、西方連邦の残党や周辺諸国からは「侵略軍」と見なされるぞ? せっかくレヴィーネが「経済併合」という穏便な(?)形に収めたのに、そなたらが政治的な火種を持ち込んでどうする』
『む……』
『それは……確かに』
アレクセイとギルベルトが口ごもる。
痛いところを突かれた。彼らは国家元首だ。軍を動かせば、それは外交問題になる。
『その点、わらわたちエルフは違う』
エルウィンは扇子で口元を隠し、妖艶に微笑んだ。
『我々は中立にして、自然の守護者。……「環境保護」と「緑化活動」という名目なら、誰に憚ることもなく大陸を移動できる。精霊の風に乗れば、海賊など追いつけもせぬしな』
そして、彼女は決定的な一言を放った。
『それに、アリスはわらわの愛弟子じゃ。……ならば、その弟子である「巫女連」の子供たちは、わらわにとって「孫弟子」も同然。……曾孫のように可愛いあやつらを、無粋な男どもの軍靴で囲むなど言語道断じゃ』
彼女は画面越しに、ノブナガへ向かってウインクをした。
『安心せよ、魔王殿。……わらわが責任を持って連れて行ってやろう。ハイエルフの精鋭部隊を護衛につけ、「風の船」で西まで運んでやる。……文句はあるまいな?』
その言葉に、ノブナガはニヤリと、悪戯が成功した子供のような笑みを浮かべた。
『ぶはは! さすがは女王陛下、話が早くて助かる! ……ヒューマンの軍が行けば角が立つが、エルフの「遠足」なら文句も出まい。……乗った! 子供たちと黒鉄組、そちらに預けるぞ!』
『うむ。任された』
アレクセイとギルベルトは、顔を見合わせた後、がっくりと肩を落とした。
政治的にも、心情的にも、エルフの女王には勝てない。
おいしいところを完全に持っていかれた形だ。
『……わかりました。では、西への増援はエルウィン殿に。我々は「東からの道」に専念しましょう』
『……うむ。悔しいが、子供たちの安全が第一だ。頼んだぞ、長耳殿』
こうして、役割分担が決まった。
西へ向かう増援部隊――「緑化部隊」の護送はエルフが担当。
東から迎えに行く本隊――「黒鋼大回廊」の建設は、三国が総力を挙げて担当。
画面の向こうで、ノブナガが扇子を叩いた。
『よし、方針は決まったな! ……総員、稼働くぞ! 西ではレヴィーネが、東では我らが、そして中央ではエルフと子供たちが! 世界中を巻き込んだ、史上最大のお祭り騒ぎじゃ! 遅れるなよ、お主ら!』
『『『応ッ!!!』』』
東方諸国のトップたちが、同時に声を上げた。
対立ではなく、競争だけでもない。
それは、世界を変えるための巨大な「共犯関係」の結成だった。
風が吹く。
西から東へ、東から西へ。
大陸を貫く熱狂の風が、今まさに吹き荒れようとしていた。




