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悪役令嬢の兇器はドス黒い鈍器《パイプ椅子》です ~前世は病弱、今世は物理最強。魔法もチートも私には勝てません~  作者: みやもと春九堂@月館望男
【第14部】天空の箱舟・物理ハッキング編 ~古代兵器(野菜)は「ちゃんこ」の具材、セキュリティは「パイプ椅子」でこじ開けます~
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第150話 帰り道? 島ごと降りればいいじゃない。オワリ上空へ帰還!

 天蓋都市の発着ポート。


 深層区画でのショッピング(略奪)を終え、ホクホク顔で戻ってきたわたしたちは、眼下に広がる青い星を見下ろしていた。


 頭上には宇宙の闇。足元には雲海。


 改めて、とんでもない場所にいたのだと実感する。


「さて。……問題はどうやって帰るか、ですわね」


 わたしは腕を組んだ。


 行きはドラゴン(機械龍)・タクシーを無理やり使ったが、帰りの足がない。飛び降りるには高すぎるし、ヴィータヴェン号は海の上だ。


『マスター。それでしたら提案があります』


 アリスのスマホから、デメテルが得意げにホログラムを投影した。


『この天蓋都市の高度を下げ、オワリ城の直上、あるいは隣接する海面へ着水・停泊させることも可能ですが、いかがいたしましょう? これなら乗り換えの手間もなく、家ごと引っ越す感覚で帰れますよ』


 なるほど、豪快なプランだ。


 だが、すかさずイリスが冷徹なツッコミを入れた。


『否定。却下です。姉さんの質量で急速降下した場合、気圧変化による異常気象が発生します。さらに、そのまま海面へ着水すれば、極大の津波被害が発生する確率が99%です』


 イリスは真顔ホログラムだがで、とどめの一言を放った。


『姉さんは、自分の図体の大きさを、もう少し配慮すべきです。……重すぎるのです』


『なっ……! ず、図体ですって!? 重すぎ……!?』


 デメテルのホログラムが真っ赤になった。


 彼女は両手で自分の頬を押さえ、涙目で反論する。


『それが久しぶりに会った姉に向かって言う言葉ですか!! 私は……私は太っているわけではありません! たくさんの子供(種子)たちを抱えるための、包容力……そう、母性の象徴なんです!!』


「……ぶっ」


 わたしは思わず吹き出した。


 都市サイズの話を、体型の話にすり替えるとは。


 アリスも「安産型なんだ……」と微妙な顔で頷いている。この姉妹、意外と似たもの同士かもしれない。


『……こ、コホン。失礼しました』


 デメテルは気まずそうに咳払いをし、改めて別のホログラムを表示した。


『では、こちらの折衷案でいかがでしょう。……本都市の高度を、気象影響が出ないギリギリのライン……高度3000メートル付近まで降下させます』


「ふむ。3000メートルなら、霊峰フガク(富士山)より少し低いくらいね」


『はい。ただし、気圧変動を起こさないよう、数時間かけてゆっくりと降下させます。……そこを「定常停泊高度」とし、地上へは本都市に備え付けの「往復可能な小型シャトル」で移動するプランです』


 デメテルが指を鳴らすと、ポートの床が開き、流線型の美しい機体がせり上がってきた。


 古代語で『希望の翼』と名付けられた、銀色の翼だ。


 全長は20メートルほど。表面は継ぎ目がなく、真珠のような光沢を放っている。


「採用よ。……ああ、それとデメテル。出発する前に、一つ仕事を片付けておきましょう」


 わたしはシャトルを見上げ、ふと、頭上のドームを見上げた。


 そこには、かつての爆発か衝突で生じたであろう、巨大な亀裂が走っている。


「あの大穴(亀裂)。……私の別荘(キャッスル)としては、いささかみすぼらしいわね。隙間風が入るじゃない」


 わたしが扇子で亀裂を指し示すと、デメテルは申し訳無さそうに眉を下げた。


『申し訳ありません……。自己修復材(ナノマシン)の在庫が枯渇しておりまして……。現在の備蓄では、種子保管庫の維持で手一杯なのです』


「在庫がないなら、提供してあげるわ」


 わたしはニヤリと笑い、足元の影から「暗闇の間」を展開させた。


「イリス、演算補助を。デメテル、私の魔力を中継させるわ。……やるなら徹底的に、新品同様に直しなさい!」


 ドサドサドサッ……!!


 影の中から吐き出されたのは、ここに来た時にわたしが破壊し、収納しておいた数百体もの警備ロボットの残骸だ。


『あっ……! そ、それは私が配備した警備ドローンたち!? いつの間に回収を!?』


「資源の有効活用よ。あれも全部『液体金属』なんでしょう? 再利用なさい」


『は、はいっ! ありがとうございますマスター! 若干複雑な気持ちがないわけでもないですが、これだけの量があれば、外壁の修復どころか都市機能の完全復旧が可能です!』


 わたしが玉座を通じて魔力を送ると、山積みの残骸が一斉に液状化し、銀色の奔流となって空へ舞い上がった。


 それはまるで、逆再生を見ているかのようだった。


 何万トンもの液体金属が亀裂に吸い込まれ、みるみるうちにドームを塞いでいく。


 キィィィン……!


 亀裂が完全に塞がると同時に、都市全体に柔らかな光が灯った。


 再起動した環境維持システムが、新鮮な空気を循環させ始める。


 廃墟だった街並みが、息を吹き返したかのように輝き出したのだ。


「わぁ……! 綺麗……!」


「すごい……。街が生きています……!」


 アリスとミリアが歓声を上げる。


 これでよし。どうせ持ち帰るなら、ボロ屋より新築のほうがいいに決まっている。


「さて。これで心置きなく帰れますわね」



 ◆◆◆



 こうして、わたしたちを乗せた天蓋都市は、静かに降下を開始した。


 ズズズゥゥゥン……。


 腹に響く重低音と共に、巨大な質量が動き出す。


 窓の外では、太陽が水平線の彼方へと沈み、世界が夜の帳に包まれていくところだった。


「きれい……」


 アリスが窓に張り付いて呟く。


 眼下には真っ暗な雲海。頭上には、空気がないゆえに地上よりも鋭く輝く満天の星空。


 わたしたちは、星の海を泳ぐ巨大な船の中で、ゆっくりと流れる時間を過ごした。


 戦いの疲れを癒やすように、アリスとミリアは寄り添って仮眠を取り、わたしは玉座に座って、眼下の闇に点在する地上の街明かりを眺めていた。


 やがて。


 東の空が白み始めた。


「……夜明け、ね」


 水平線が黄金色に染まり、そこから深い藍色、そして透き通るような水色へと、空のグラデーションが変わっていく。


 雲海が朝日に照らされ、燃えるようなオレンジ色に輝き出す。


 神話の世界のような絶景。


 その中を、修復を終えて完全な球体となった天蓋都市が、音もなく降下していく。


『マスター。まもなく、目標高度3000に到達。……オワリ城上空です』


 デメテルの報告と共に、雲を抜けた。


 眼下に、慣れ親しんだトヨノクニの大地と、朝霧に包まれたオワリの城下町が広がっていた。



 ◆◆◆



 その頃、地上では。


 トヨノクニの早朝は、「健康」から始まる。


 国民の体力向上を掲げたミリアの発案により、毎朝の『国民健康体操』が推奨されているのだ。


 オワリ城の広場でも、近衛武士や役人、そして早起きした非番の者たちが整列していた。


 その最前列には、なんとノブナガとイエヤスの姿もある。


「うむ! 朝の運動は気持ちが良いのう! 血の巡りが良くなるわ!」


「はい。……規則正しい生活こそが、富国強兵の第一歩ですからね」


 朝日を浴びながら、屈強な男たちが一斉に腕を回し、屈伸をするシュールかつ平和な光景。


 そして、城のテラスでは、エルフの女王エルウィンが、優雅に朝のハーブティーを楽しんでいた。


「ふぅ……。今日も良き天気じゃ。平和じゃのう」


 彼女はカップを傾け、香りを楽しもうと目を閉じた。


 その時だ。


 スッ……と。


 降り注いでいた朝日が遮られ、世界が巨大な影に覆われた。


「……ん? 雲か? 雨の予報など出ておらなんだが……」


 エルウィンは怪訝な顔で目を開け、空を見上げ――そして、800年生きてきて初めて、盛大に茶を吹き出した。


「ぶふぉぉぉぉぉッ!!?」


 侍女たちが慌ててタオルを持ってくるが、エルウィンはそれどころではなかった。


 震える指で、空を指差す。


「ば、馬鹿な……。ありえん、ありえんぞ……! アレが動くじゃと……!?」


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