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悪役令嬢の兇器はドス黒い鈍器《パイプ椅子》です ~前世は病弱、今世は物理最強。魔法もチートも私には勝てません~  作者: みやもと春九堂@月館望男
【第14部】天空の箱舟・物理ハッキング編 ~古代兵器(野菜)は「ちゃんこ」の具材、セキュリティは「パイプ椅子」でこじ開けます~
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第146話 天空ちゃんこ鍋、完成! 旨味の爆弾がAIを落とす!

 野菜モンスターの群れを「収穫(物理)」し終え、静寂を取り戻した天蓋都市。


 わたしは、積み上げた大根の山に腰を下ろした瞬間、ふわりと世界が回るような感覚に襲われた。


「……ふぅ」


 無意識に額に手を当てる。


 指先が冷たい。全身の血流がドクドクと警鐘を鳴らしているのが分かる。


「レヴィーネ様!?」


「レヴィちゃん!?」


 異変を察知したミリアとアリスが、慌てて駆け寄ってくる。


 わたしはドレスの裾を強く握りしめ、努めて優雅に微笑んでみせた。


「……平気よ。ただ、ちょっと燃費が悪かったみたいね」


 原因は明白だ。


 ここに来る直前、あの規格外の機械龍相手に、渾身の『漆黒の玉座(オリジン)』をぶちかましたからだ。


 あれは、わたしの魔力貯蔵量の半分を一撃で持っていく大技。その後の野菜たちとの連戦で、さすがに底が見え始めていた。


 魔力欠乏(マナ・ドレイン)


 このままでは、次の「大仕事ハッキング」に支障が出る。


『……分析。対象の生体エネルギー残存量、低下。……やはり人間は脆弱ですね』


 空中に浮かぶデメテルのホログラムが、ここぞとばかりに勝ち誇った声を上げる。


 彼女の目には、哀れみと侮蔑が混ざっていた。


『肉体という不便な器を持つがゆえの限界です。このまま消耗すれば、貴女たちは飢えと寒さで自滅するでしょう。さあ、大人しく撤退を……』


 グゥゥゥゥゥ…………。


 デメテルの警告を遮るように、盛大な腹の虫が鳴り響いた。


 静寂の天蓋都市に、あまりにも場違いな、けれど生命力に満ちた音が木霊する。


「……あ」


 アリスとミリアが顔を見合わせる。


 音の主は、間違いなくわたしだ。


 わたしは真っ赤になるどころか、逆に真剣な顔で腹をさすった。


 空腹。それは生命が「生きたい」と叫ぶ音だ。恥じることなど何もない。


「……デメテル。貴女、いいことを言いましたわね」


『は?』


「『飢え』は敵ですわ。……ですから、戦う前に『補給』させていただきます!」


 わたしはバッと立ち上がり、鉄扇でミリアを指差した。


「総員、野営準備! ミリア、四次元リュックから調理器具一式を! アリス、水魔法の準備を! ……ここで『天空ちゃんこ』を作りますわよ!」


「はぁいっ! 待ってましたぁ!」


「了解です! ……まさかこんなところ(空の上)で、ちゃんこを作るとはさすがレヴィーネ様……!」



 ◆◆◆



 数分後。


 天蓋都市の中央広場――人類の遺産が眠る聖域のど真ん中に、場違いな、しかし極上の香りが漂い始めた。


 ミリアがリュックから取り出したのは、野営用の魔導コンロと、何十人前だよと言いたくなるような巨大な寸胴鍋。


 まずはスープ作りだ。


「アリス! お水をお願い!」


「まかせて! ……聖水生成(ホーリー・ウォーター)!」


 アリスが杖を振ると、キラキラと輝く清浄な水が鍋を満たす。


 ただの水ではない。聖女アリスの純粋な魔力が込められた、ポーション並みの回復効果を持つ特級聖水だ。


 これだけで、そこらの高級エリクサーよりも価値がある。


「そこへ……先ほど収穫した『人食いトマト』を投入!」


 わたしは、真っ赤に熟れた巨大トマトを手で握りつぶし、皮ごと豪快に鍋へ放り込んだ。


 グツグツと煮立つ聖水の中でトマトが崩れ、スープが鮮やかなルビー色に染まっていく。


 立ち上る湯気には、太陽の恵みを凝縮したような甘酸っぱい香りが含まれている。


「さらに隠し味! トヨノクニの海で獲れた雑魚を乾燥粉末にした『特製魚粉パウダー』!」


 パラパラと黄金色の粉を振りかける。


 トマトの酸味ある香りに、魚介の芳醇な旨味と潮の香りが重なり、複雑なハーモニーを奏で始める。


 イタリアンと和の融合。


『……な、何をしているのですか? 神聖な保存区画で、煮炊きなど……』


 デメテルが狼狽しているが、無視だ。


 わたしはミリアからとある容器を受け取った。


「そして味の決め手はこれ! V&C商会謹製、熟成期間を倍にした『トヨノクニ極み味噌』!」


 ドボン。


 赤褐色の味噌を溶かし入れると、その香りは爆発的に広がった。


 トマトのグルタミン酸と、味噌の旨味成分。そして魚粉のイノシン酸。


 これぞ、旨味の相乗効果(シナジー)だ。


 香ばしく、どこか懐かしく、けれど強烈に食欲をそそる匂いが、無機質な都市空間を侵食していく。


「具材はどうしますか!?」


「こうしますわ!」


 わたしはミリアからピーラーを受け取ると、さっき倒した巨大大根に向き合った。


 シュッシュッシュッ!


 目にも留まらぬ速さで、大根をリボンのように薄く、長く削いでいく。


「この『歩く大根』、筋肉質だから普通に切ると固いのよ。でも、こうして薄く削げば……スープを吸って最高の麺になりますわ!」


 鍋に投入。


 薄い大根は瞬時に熱が通り、スープの旨味を吸ってトロトロの半透明に変わる。


「レヴィーネ様! 大根の皮も持ち帰ってよろしいですか? あとできんぴらにします!」


 ミリアが剥いた大量の皮を集めながら目を輝かせる。


「ええ、もちろんよ。……おや? アリス、あんたは何をしているの?」


 見れば、アリスは大根の葉っぱを丁寧に切り落とし、水洗いして大事そうに抱えていた。


「へへへ。この葉っぱ、あとで細かく刻んで人参と一緒に醤油炒めにするんだ! 胡麻油を垂らして……絶対に美味しいのができるよ! ご飯泥棒だよ!」


「……ふふ。いい心がけね」


 アリスが語る「ご飯泥棒」という言葉の響きに、彼女の前世――あるいはかつての生活の記憶が垣間見える。


 わたしは微笑み、次なる具材を手にした。


 先ほど襲ってきた「ボム・ガーリック」だ。強烈な催涙ガスを放つ厄介な敵だったが、加熱してしまえばこっちのものだ。


「臭気攻撃をしてきたこのニンニクも、すりおろして投入!」


「あ、刃物みたいに鋭かった『ブレード・スピナッチ(ほうれん草)』も、ざく切りにして入れちゃいますね! 火を通せばクタッとして甘くなりますから!」


 ミリアが手際よく葉野菜を放り込む。


 そして。


「あっ! レヴィちゃん、これこれ! せっかくのコーンを忘れちゃダメだよ!」


 アリスが、山盛りの黄色い粒を差し出した。


 ドリル状に回転して襲ってきた「ドリル・コーン」の実だ。


「戦闘中にミリアちゃんが魔法で綺麗に外してくれたんだよ!」


「ええ。芯の部分も素晴らしい出汁が出そうです」


「芯はお米とバターと一緒に炊き込めば、最高のもろこしご飯になるね! 絶対持って帰ろう!」


 キャッキャと食材談義に花を咲かせながら、コーンを鍋にザラザラと投入する。


 鮮やかな黄色が、赤いスープに彩りを添える。


「それにしても、この食材のポテンシャル……。このトマトベースの鍋、商会の新メニューに加えましょう。原価計算……雑魚の乾燥粉末を使えばコストを抑えつつ旨味を……一杯あたり銀貨3枚で……利益率は……」


 ミリアがブツブツと呟きながら、手帳に猛スピードで計算式を書き込んでいる。頼もしい限りだ。


「さらに! この保存庫にあった『古代豚』の試供品(サンプル)!」


 デメテルが「あっ、それは貴重な!」と叫ぶのを無視して、霜降りのバラ肉を投入。


 ジュワ……という音と共に、脂が溶け出し、スープにコクを与える。


「仕上げですわ! ……『アリス乳業の特濃バター』をひとかけら……!」


 ジュワァァァ……。


 バターが溶け、黄金色の油膜となってスープを覆う。


 ニンニクのパンチ、味噌のコク、バターのまろやかさ。


 その瞬間、広場を支配していた無機質な空気が完全に死んだ。


 代わりに生まれたのは、暴力的で、背徳的で、抗うことのできない「食欲」という名の魔物。


「完成よ!」


 わたしは鍋の蓋を開け、真っ白な湯気と共に宣言した。


「さあ……おあがりよ!」


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